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 今日は深夜アニメリアタイの日だ。深夜といっても、放送時間は二十三時からなので、まだまだ早い方の時間だけど。

 去年発売した人気乙女ゲームが原作で、今日の放送は朱音の推しのメイン回。ちなみに私の推しは隠しキャラなので、アニメに出てくるかわからないけど、いつ出てきてもいいようにちゃんと欠かさず見ている。

 乙女ゲーム原作アニメといえばだいたいメインキャラルートに入るか、誰ともくっつかない逆ハーだったりするけど、これは後者だ。今のところ色んなキャラのイベント回収してるし。


「さーて、今週は私の推しは出てくるかな〜」


 放送二分前、某つぶやきSNSのアプリを起動しながら、テレビのチャンネルを変えた。







 死んだ。いや、物理的にではないんだけど死んだ。

 まさか、推しが次回予告の最後の最後にチラッと姿を見せるとは思わないじゃないか。不意打ちで死んだ。ありがとう公式。

 来週少しだけでも姿を見せることは確定したし、喋るかどうかはわからないけど、とりあえず次回は死んでも見る。絶対。


「いや〜〜最高。いや、今週も神回だったけど。朱音TLで死んでたしな。多分明日も死んでるけど」


 多分明日は朱音のマシンガントークに付き合うことになるんだろう。朱音の推しはいわゆるOPとかにも二番手に出てくるクール系だ。キャラ的にもルート的にも人気が高いし、メイン回に力を入れてるのも当然なのかもしれない。

 ひたすら感想とも言えない叫びをつぶやき、アプリを閉じる。時刻は十二時半、今からゲーム読むのも漫画読むのも微妙な時間だ。


「よし、寝よう」


 寝て魔王さんとお話しよう。

 思い立ったらすぐ行動。テレビの電源を切り、スマホとモバイルバッテリーを充電器に挿す。部屋の電気を消してベッドに入り、さぁ寝ようとしてふと思いつく。


 もしかして、ベッドの上にあるものは持って行けるんじゃない?


 昨日スマホを向こうに持っていけたくらいだし。

 何となく気になったので、サイドテーブルに置いてあったチョコレート菓子を枕元に置く。

 ぼふんと枕に頭を預け、さぁ今日は何を話そうか、なんて思いながら、眠りの世界に落ちていった。






 ぱち、と目を開けると、そこは魔王さんのベッドの上だった。

 初めて自分で起きられたな、なんて思いながら身を起こす。周囲を見渡してみると、そこに魔王さんの姿はなかった。


「あれ、魔王さんいないや」


 今までは魔王さんに起こされていたのに、今日はそもそも部屋にいないとはどういうことだろう。いや、でもこの城部屋数多そうだしな、別の部屋にいるのかもしれない。

 何となく手持ち無沙汰になり、今まで自分の頭が乗っていた枕を弄ぶ。その横にはちゃんとチョコがあった。やっぱりベッドの上に置いておくと一緒にこっちに持ってこられるらしい。


「ーーリン、来ていたのか」


 しばらく枕で暇を潰していると、やたら重そうな扉から魔王さんが部屋に入ってきた。やっぱりほかの部屋にいたらしい。


「こんばんは、魔王さん」


 枕を定位置に戻し、魔王さんに向き直る。すぐ隣に腰を下ろした魔王さんは、また目ざとくチョコの箱に興味を持ったようで、チラチラと横目で見ている。可愛いな魔王さん。


「ちょっとした実験として試したんですけど、気になります?」

「実験?」

「昨日スマホを一緒にこっちに持ってこられたので、ベッドの上に置いておけば他のものも持ってくることができるんじゃないかと思いまして。とりあえず近場にあったお菓子を持ってきてみました」


 そう言って枕元からお菓子を手繰り寄せる。適当に持ってきたやつでパッケージをよく見てなかったけど、どうやらいいことが12個入ってる赤いパッケージのチョコレートだったらしい。

 パカ、と蓋を開け、銀の袋を破いて中のトレーを出すと、均一な形をしたミルクチョコレートが12個綺麗に並んでいる。


「魔王さんも食べます?」

「いいのか?」

「いいんですよ〜。ほら、どうぞどうぞ」

「では、一つもらう」


 大きくも綺麗な手がチョコレートを一つ掴む。魔王さんはチョコレートじっと見たあと、口の中に放り込んだ。


「ーーーっ!」


 魔王さんの瞳かカッと見開かれ、少し頬に朱が差した。どうしたんだろ、これお酒入りのチョコじゃないんだけど。

 しばし無言で咀嚼し、飲み込んだらしい魔王さんが、私の方を伺い見ながら口を開いた。


「……もう一つ、もらってもいいか?」

「!」


 何と魔王さんはチョコレートをお気に召したらしい。いや、でも確かに魔王さん、基本真顔で表情あまり変わらないのに、チョコ口に入れた瞬間のこの、何というか、運命の推しに出会った時のような高揚感に似たものを感じてるみたいだったし。


「どうぞどうぞ。一つと言わず何個でもどうぞ」

「…っ、ああ、ありがたくもらう」


 心なしか目をキラキラさせながらチョコレートを食べる魔王さんは、その身長と顔も相まって、ものすごいギャップがある。なんていうか、子供みたいな反応だ。


「美味しいですか?」

「……不味くはない」

「こういう時は、素直に美味しいって言うもんですよ。言葉は言霊になるんです。ちゃんと美味しいって口に出した方が、もっと美味しくなるんですよ」

「ことだま?」

「言霊っていうのは、まぁこの世界の魔力みたいに確実なものじゃないんですけど、私の国では昔から言葉には霊力が宿っていて、口に出すと言ったことが実現するって信じられてたんです。絶対にそうなるってわけじゃないんで、まぁおまじないくらいのものですけど」


 とはいえ、実際言葉は凶器にもなりうるものだ。簡単に人を傷つけられる。身体に付けられた傷は癒えるけれど、言葉によって付けられた傷は、酷ければ一生治らない。


「悲しいことや辛いことは、言葉にするのが辛ければしなくていいんです。でも、いいこととか、嬉しいこととか、そういうプラスになるようなことは、どんどん言葉にしていった方がいい。そういうのは、聞いてて嫌な気分になるような事じゃないですから」

「…リンも、そうしているのか?」

「もちろん!美味しいもの食べたら、自然と美味しいって言っちゃうし、楽しかったときは、その気持ちを思いっきり叫んじゃいます。あと、推しへの愛はもう言えるだけ言います。語彙力なんかなくてもいいんです。美味しいなら美味しい、楽しいなら楽しいって、素直に言葉にしちゃえばいいんです」


 特に推しへの愛はもう毎日死ぬほど叫んでる。推しが可愛い、好き、最高、尊い、しんどい……語彙力がないのなんてお察しだが、そもそもヲタクに語彙力を求める方が間違ってると思う。


「…リンは」

「はい?」

「リンは、生きていて楽しいのか?」

「そりゃあもう!勉強は退屈ですけど、友達と一緒にいるのは楽しいし、たまにちょっと豪華なお菓子を買うのも楽しみだし、推しが生きてるだけで楽しいし、それに……」


 私の言葉を、目を見ながらじっと聞いてる魔王さんを改めてよく見る。彫りの深い顔に、短い黒髪、吸い込まれそうなほど綺麗な黒目。顔は確かにちょっと厳ついけれど、雰囲気が和らぐ時は意外と可愛く見えるものだ。


「魔王さんと話すのも、最近の楽しみの一つですね」

「俺と、話すのが?」

「はい!なんか反応が色々新鮮だし、厳つい顔して結構可愛いところありますし」

「……それは、本当に楽しんでるのか?」

「あ、疑ってますね。魔王さんは私と話すの楽しくないですか?」

「楽しくないわけではーーーいや」





「楽しいな、とても」





 いつもの真顔はどこへやら。ふにゃん、なんて効果音がつきそうな笑みを浮かべるのは、目の前の魔王さんだ。


「……あっははは!」

「ど、どうした。なぜ笑う」

「いや、だって……ちゃんと笑えるじゃないですか、魔王さん」

「笑う?ーーー笑っていたのか、この俺が」

「あれ、もしかして無意識無自覚でしたか?うわー、レアだったんだ今の。今日もスマホ持ってくればよかった」


 でもまぁ、笑おうと意識して笑うのよりも、自然と笑えるのが一番だ。魔王さんが私と話すのが楽しいって、本心で思ってくれてたんだと、ちゃんと伝わる。


「魔王さん、すっごく優しい顔して笑うんですね。やっぱり性格が出てるのかなぁ」

「優しい……?俺が?」

「え、突然現れた自分のベッドで寝てる不審者を問答無用でつまみ出さない時点で、結構優しいと思うんですけど」


 もし私のベッドで知らない人が寝てたら速攻で110番するもん。


「お城の周りに動物が多いのも、魔王さんが優しいからかもしれませんね。動物って、そういうとこ敏感ですし」

「ーーー俺からしたら、優しいのはリンの方だがな」

「そうですか?割と自分本位ですよ、私」

「真っ直ぐに俺を見て、心のこもった言葉をくれて、俺のことを見た目だけで虐げない。そんな人間は、リンが初めてだ」


 少し寂しげに呟く魔王さんに、思わず息が詰まってしまう。もしかしたら、魔王さんは私が想像しているよりも、よっぽど辛い人生を歩んできたのかもしれない。


「見た目だけで何か言ってくる人のことなんて、気にしなくていいんです。雑音が聞こえるなーくらいに流しちゃえばいいんです。そんな人に、魔王さんの本質なんて一つも見えてませんから」


 表面上の印象だけで悪く言われることは、私も同じだ。ヲタクっていうだけで笑いものにされるのも、一度や二度じゃない。ただ、好きなものを好きって言ってるだけなんだ。誰かに迷惑なんてかけてない。そんな風に考えられるようになってからは、メンタルも強くなったし、スルースキルも上がった。

 魔王さんも、見た目だけで悪く言われることがあったのかな。でも、これからはそんなことを言ってくる人のことなんて、気にしないで生きてほしい。


「俺の本質……か」

「そうです。見た目はコワモテですけど、相手を思いやれる優しい人です、魔王さんは」

「……そうか」


 私の言葉を聞いた魔王さんは、またさっきみたいに優しく微笑んだ。

 その笑顔に、なんだか私まで嬉しくなってきて、私の意識が途切れるまで、二人で笑いあっていた。

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