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「はぁ〜〜……今週号も推しは最高に天使だった……」


 手元にある愛読書の少年週刊誌を閉じ、胸元に抱きながら呟く。6畳ほどの小さな部屋でも、真夜中であるため少し響いた。


「最近作者さんの作画スキルが上がってるし、推しの出番多いし、本当に最高……」


 推しへの思いを馳せていると、傍らに置いてあったスマホが通知音とともに震える。大好きなソシャゲの体力回復を告げるものだ。慌ててゲームを起動し、単調な作業で体力を消費しきった。

 ゲーム画面を閉じて時間を見ると、深夜一時半だった。今週号を熟読していたらとっくに日付けが変わっていたらしい。


「ヤバい、さすがにそろそろ寝よう」


 週刊誌を勉強机に置き、スマホを充電器に挿してベッド横のサイドテーブルに置く。部屋の電気を消して、ベッドに潜り込んだ。




 私の名前は柊木鈴。ご覧の通り、少年向け週刊誌を愛読書とし、ソシャゲに勤しみ、ついでにアニメや乙女ゲームなんかにも傾倒する健全なヲタクである。ちなみにさっきのは今一番推している漫画作品の最新話を熟読していたら三時間が経過していたという図である。ヲタク界隈ではよくある話だ。

 推しの魅力を語り始めたらゆうに一万字を超えるので、ここでは割愛するが、とあるファンタジーもののメインキャラ寄りのサブキャラとだけ言っておく。最近は出番も活躍も多いので、メインキャラに昇格するのではないかと作品ファンの中では専らの噂だ。


 と、まぁそんな感じに推しを愛でることを日々の活力にして生活している。今年、高校二年に進級してやっと親からアルバイトをする許可を得たので、これまで以上に推しに貢げて満足しているのだ。最近はソシャゲや漫画アプリなど、タダで楽しめるコンテンツが多いけど、好きなものには貢いでなんぼだと思ってるし、違法に楽しむ人の愛なんてその程度のものかと冷めた目で見てしまう。だから純粋に、今の現状に満足している。

 それに明日(というか今日)は好きな二次元アイドルの新曲のCDフラゲ日だ。ばっちり予約済みだけど、早く聴きたいから学校終わりに幸せの青い看板のお店に行かねば。最重要任務である。

 そんな感じで、明日も推しのことを考えながら一日を過ごすのだろう。学校に行ったら早速ヲタ友と今週号の感想を言い合わねば。

 そんな風に考えていると、段々と瞼が重くなってくる。

 やってきた睡魔に身を任せ、幸せな気分に浸りながら眠りについた。









 ーーーーはずだったのだけれど。








「ーーおい」

「うぅん……まだ朝じゃない……」

「おい、起きろ」

「うーん……うん??」


 明らかにお母さんの声じゃない低い声で起こされる。お父さんの声でも弟の声でもないし、ついでに言うと知ってる声優さんの声でもない。

 重たい瞼をなんとかこじ開け、声のする方を見る。


「……どちら様ですか?」

「……それはこっちの台詞なんだが」


 目の前にはかなり厳つい顔をしたお兄さんがいて、私の顔を覗き込んでました。厳ついけど結構なイケメンさんだ。三次元には詳しくないけど見たことの無い顔だと思う。彫りが深いし外国人なのかもしれない。

 お兄さんから目を逸らし、寝起きのぼーっとした頭で周囲を見渡してみる。壁にかけてある制服も床に散らばったゲーム機もなく、黒を基調としたアンティーク系の家具がかなり広い部屋に置かれている。


「……どこ、ここ」


 少なくとも私の部屋じゃない。というか家じゃない。私の家のリビングダイニングよりもだいぶ広い部屋だし、こんな外国風の家具なんて一切置いてない。柊木家はニ〇リの家具を愛用しているのだ。


「私、自分の部屋で寝てたと思うんですけど」

「……知らん。俺がこの部屋に来た時は、既にお前はそこで寝ていたぞ」

「ええ〜?私、自分の部屋のベッドで寝てたはずなんですけど……」


 寝ている間にどこかに行ったことなんてないはずだし、そもそもここがどこなのかもわからない。ついでにお兄さんが誰なのかもわからない。聞いてる感じ、このお兄さんが誘拐したとかじゃなさそうだし。


「お前は、誰だ?」

「え?えぇ〜と、柊木鈴といいます」

「……いや、名前を聞いたわけではなくてだな」

「いや、それは何となくわかるんですが、別に私ただの一般人ですよ?普通に学校に通ってる普通の高校生ですよ?」

「……コウコウセイ?」


 こてん、とお兄さんが首を傾げた。どうやら単語の意味がわからないらしい。ていうかそんな厳つい顔して首傾げるのやめてください。そうか、これがギャップ萌えか。


「えっと〜、義務教育を終えた人が通う高等学校っていう学校がありましてね?その高等学校に通う生徒のことを高校生っていうんですよ」

「つまり、お前は学生ということか」

「そうそう、そうですそうです。ついでに言うと帰宅部で運動神経悪いからお兄さんのことをどうこうできるわけでもないし、何か盗まなきゃ行けないほどお金に困ってませんし、ええと、何が言いたいかって言うと、その……怪しいものではございません!!!!」

「…………」


  ーーーーやっちまった。

  怪しいものじゃないなんて自己申告、私怪しいですって言ってるようなもんじゃん!アホ!私のアホ!!別に頭は良くないけどさ、もうちょいマシな言い方はなかったのかあああ!!!!


「ーーそうか」

「はい!……へ?」


 え?それだけ?いや、確かに私誰のせいなのかはわからんが勝手に上がり込んでたわけだし、こんな適当な言い訳で納得しちゃうもんなの?え?それでいいの???


「えっと、それじゃ、その……帰ります」

「ああ」

「……ちなみになんですけど、ここってどこです?」

「ヴァイス王国のとある森の中だ」


 はい?おうこく?

 おうこく、おうこく……王国?


「王国って、あの、一番偉い人が王様とかの王国だったりします?」

「……それ以外に王国の意味なんてあるのか?」

「ーージーザス!!!」


 嘘だろ!!そもそも日本じゃなかった!!!地理得意じゃないけどそんな国名聞いたことない!!!てか日本語通じてる時点で色々変だよな!!!お兄さん明らかに外人さんなのに!!!いや外人さんでも日本語ペラペラな人いるけれども!!!

 なんてこった、もしかしてアレか?これが噂の異世界トリップ?そんなの二次元の中だけの話だろ!!!!!


「お、おい、どうした?」


 突然叫んだ私を見て、お兄さんが眉を八の字にして聞いてくる。厳つい顔して優しいなお兄さん。でもごめん、今はそれどころじゃないんだ。脳みそがキャパオーバーなんだ。

 脳内でぐるぐる考えを巡らせて頭から煙が出そうになったと思ったら、ふと意識が途切れ始めた。急激に瞼が重くなり、再びベッドにダイブしてしまう。


「おい!?ーーっ」


 呼びかけていたお兄さんが息を飲んだような気がする。お兄さんの顔を見ようと思ったのに、重たい瞼を開けることは出来なかった。








「鈴!いい加減起きなさい!遅刻するわよ!」


 聞きなれた声に驚き思わずガバッと起き上がってしまう。目の前に広がるのは見慣れた自分の部屋で、呆れ顔をしたお母さんが私を見ていた。


「……あ、れ?」

「あれ、じゃないわよまったく。早く着替えて準備して来なさい」


 お母さんはため息をつくとさっさと部屋を出て行った。私以上に寝起きの悪い弟を起こしに行くのだろう。

 ていうかなんだ、これは。さっきまであのだだっ広い部屋にいたはずなのに。


「まさかの、夢オチ?」


 そんなバカな、と言いたくなったが、逆に夢オチじゃなかった時の方が大変だ。何であんな夢見たんだろうか。二次元に行きたい欲はあるが、異世界トリップには特に興味はないのに。


「……ま、いいか。着替えよう」


 今日はCDの受け取りだし、友達と漫画の感想を言い合わなきゃいけない。そういえば英単語のテストがあった気がする。直前の授業で内職しよう。

 のそのそと制服に着替えて部屋を出る。顔洗って朝ごはん食べて、さっさと学校に行こう。

 お母さんが弟を起こす声をバックに、足取り軽やかに階段を降り始めた。

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