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 目を覚ますともうお昼だった。

 うわぁ、思ってたより寝てたんだな。どうりで普段より向こうにいたわけだ。でも今日は日曜日だからなんの問題もない。

 ジャージから適当な服に着替えて、朝兼お昼ご飯を食べるべく部屋から出る。何食べようかな。とりあえず昨夜のチョコレートは朝ご飯だと思えばカロリーはイーブンだ。多分。

 リビングのドアを開けると弟の遼がチャーハンを食べていた。遼の向かい側にもう一つチャーハンがラップして置いておるので、多分それは私の分だろう。

 遼はちらりと私を見ると、小さい声で「はよ」と言ってきたので、私も「おはよう」と返しておく。チャーハンを電子レンジに入れてスマホをいじりながら、今日の予定を考える。ちなみにどこに遊びに行こうかとかいうやつではない。私は基本インドア派だ。如何にして休日をだらけて過ごすかという計画立てをするのだ。ひきこもり万歳。


「俺出かけるから、姉貴洗濯物取り込んどいて」

「えー…」

「俺はさっき風呂掃除したんだよ」

「はいはい。というか、出かけるってどこに」

「友達の家に集まってゲーム」


 おい、大丈夫なのかよ受験生。受験勉強は後ろ倒しにすればするほど自分の首絞めるんだぞ。ソースは私。

 まあ、洗濯物は放置しといて後でお母さんにシメられるのも嫌だから、ちゃんと取り込んどくけど。


「母さんは夕方まで出かけるとか言ってたから、もし出かけるんなら戸締りしろよ」

「はいはい」


 お父さんは仕事だし、今日は家に一人か。

 なんて思ってるうちに遼がさっさと出かけて行った。シンクにはちゃっかり遼の分の洗い物が置かれている。ついでに洗わせるつもりか。せこいやつめ。

 心の中でため息をつくと、とっくに温め終わっていたチャーハンを電子レンジから取り出した。


 お昼ご飯を食べて洗い物を済ませ、時計を見ると一時だった。とりあえず今日は途中まで進めていた乙女ゲームのエンディング回収に勤しむことが決定したため、まず洗濯物が乾いているかを見に行く。ゲームは熱中してると余裕で数時間が経過してるから、始める前に確認しておかないと。

 カーテンを開けて空を見ると、雲一つない快晴だった。うん、これはもう乾いてるだろう。干してあるものの中で一番厚手のバスタオルを触ると、完全に乾いていた。これなら大丈夫だな、と思い、さっさと取り込んでしまう。

 そのまま放っておきたいところだけど、それだとお母さんの雷が落ちることは目に見えてるので、畳んでおくことにした。偉いぞ私。自画自賛。

 そんなこんなでやらなきゃいけないことは終わった。ミッションコンプリートだ。後はもう心置きなくゲームができる。自分の分の洗濯物を抱えながら、足取り軽やかに自分の部屋に戻るのだった。







 乙女ゲームプレイヤーにはそれぞれ独自のプレイ方法がある。攻略順は別として、バッドエンドやノーマルエンドをやった後にハッピーエンドをやる人もいるし、一人のキャラのエンディングを全部回収してから次のキャラを攻略する人もいる。ちなみに私は全キャラのハッピーエンドを全部回収した後にまとめてバッドエンドをやるタイプだ。ゲームによっては精神が死ぬ。

 今やっているゲームはまさにそんなタイプだった。バッドエンドだとヒロインも攻略キャラもとにかく死ぬ。なんでこんなに死ぬん?ってくらい死ぬ。歴史ものとかファンタジーものならまだわかるが、これは普通に学園ものだったはず。こんなバイオレンスな学校生活嫌だ。

 ちなみにたった今メイン攻略キャラのバッドエンドが終わったところだ。ゲーム画面には、ヒロインの亡骸を抱きしめてうっとりするそのメインキャラのスチルが映っている。お前ヤンデレだったのかよ。ハッピーエンドではそんな要素なかったじゃん。

 買う前にネタバレなしのレビュー見たときに、ハッピーエンドとバッドエンドでキャラに対する印象が変わるっていうコメントがあったけど、こういうことだったのか。

 ちなみに推し認定した大型犬系の後輩キャラは、バッドエンドではヒロインに自分を殺させて、永遠にヒロインの記憶に残ろうとする、というヤバい奴になっていた。ハッピーエンドでは番犬のごとくヒロインを守ってくれて、告白も初々しくて可愛かったのに。どうしてこうなった。

 今のが最後のエンディングだったので、メイン画面からスチル鑑賞画面に行くと、フルコンおめでとうスチルが出てきた。なかなかすごいゲームだったな…なんて思いながらも、フルコンスチルをスクショする。


 一息ついて時間を見ると五時半だった。結構長いことやってたな、なんて思いながら、何時間も同じ姿勢でいたせいで凝り固まった筋肉をほぐすように伸びをする。あ、今コキっていった。

 ゲーム途中に持ってきたお茶で喉を潤す。渇いた身体に染み渡るわ~…

 夜ご飯には少し早いけど、ちょっと小腹がすいてきたので、キッチンの棚やら冷蔵庫やらを探ることにした。あ、蒟蒻ゼリー発見。ちょっといただこう。

 蒟蒻ゼリーを拝借し、リビングにあるテレビを付けた。しかしこの時間帯は特に面白い番組はやっていない。六時になればアニメが始まるのにな。つまらん。

 お母さんもまだ帰ってきてないみたいだし、もう少し部屋にひきこもってようと思い、さっさとリビングを出る。明日発売の週刊誌をより楽しむために、今週号読み直しておこうかな。

 マイルームに到着し、折りたたみテーブルの上に持ってきた蒟蒻ゼリーを置く。お気に入りの座椅子に腰かけたところで、ふと部屋の汚さが目についた。読みかけのコミックスが積み上がり、今朝脱いだジャージはそのまま床に放置されている。近くの延長コードにはいろんなコードが絡まりながらコンセントが挿されている。部屋の隅には、大きな埃が溜まっていた。


「……掃除しよう」


 夜ご飯までの予定が確定した。







 物を片付け、掃除機やらハンディクリーナーやらを駆使して掃除を決行した結果、見違えるほどに部屋は綺麗になった。私はやればできる子、YDKなんだ。えっへん。

 時間を確認するともうずぐ七時だ。本格的におなかがすいてきたな、なんて思ったタイミングでお母さんが夜ご飯の時間だと呼びに来た。素晴らしいタイミングである。

 ダイニングに行くと、テーブルのど真ん中の大皿に、綺麗に円形に並べて焼かれた餃子が鎮座していた。パリパリした羽根もちゃんとついてる。漂ってくる匂いを嗅ぐと、おなかがぐううと鳴った。これは仕方ないと思う。

 いつの間にか帰ってきたらしい遼を合わせた食卓につく。お父さんが帰ってくるのはもう少し後だ。

 いただきますの声で食べ始める。酢醤油に付けた餃子を口に運ぶと、皮いっぱいに詰まった餡から肉汁が溢れだした。めちゃくちゃ美味しい。でも、ふと違和感を覚える。いつもお母さんが作る味じゃない。

 聞いてみたら、これは今日出かけた先でもらった冷凍の宇都宮餃子らしい。浜松餃子ももらったらしいから、近いうちに食卓に並ぶだろう。にしても名物だけあって本当に美味しいな。いくらでも食べられそう。

 お父さんの分は別に取っておいてあるらしいので、遼と奪い合いながらたらふく餃子をいただくのだった。





「はー…明日月曜日か…」


 週刊誌の発売日さえなければ、月曜日なんて来なければいいと毎週のように思ってる。特に最近は苦手な理系分野が更に難しくなって、授業がお昼寝コースまっしぐらなのもいけない。文系コースを選んだのにおかしいな。

 時刻は日付けが変わる瀬戸際だ。昼間に遊びつくしちゃったし、そろそろ寝てもいいかもしれない。

 制服のブラウスとハイソックスを制服の近くに置き、早々にベッドにもぐり込んだ。








 大の字になっている状態で目が覚めた。

 さすがキングサイズ(推定)ベッド。思いっきり手足を伸ばした状態でこんなにもスペースが余るとは。

 広げた手足を折りたたみながら起き上がる。そういえば今日はレイがいないな、なんて思いながら部屋の中を見渡すと、いかにも高そうなアンティークの椅子に座った姿が目に入った。組んだ脚の上には本がのっていて、右手で頬杖をつきながら読んでいる。なんだか絵になる姿だなあ。

 私が来たことには気づいてないようで、目が文字を追うように動いている。

 その姿を見て、レイを驚かせてみたくなり、そろりと近づく。息を殺して、足音を立てないように、ゆっくりと近づく。

 背後に回り込み、目をふさいで「だーれだ」なんてやってみようか。ゆっくりと手を伸ばした瞬間、ものすごい力で手首をつかまれて腕を引かれた。


「いっ……」

「――っ、リン!?」

「そ、うだよ。レイ」

「わ、悪い、大丈夫か!?」


 つかまれていた手首が放され、代わりに優しく両手で包み込まれた。数秒しかつかまれていないにもかかわらず、手首には赤い跡がついていた。うん、かなり痛かったなあ。


「大丈夫だよ。痛かったけど、すぐ放してくれたし」

「本当に悪かった。まさか、背後からリンが来るとは思ってなかったのでな…」

「いいよ、私もレイを驚かせようとしてたし」


 私がいつもみたいなテンションで真正面から現れればよかったんだ。後ろから突然来られるのってびっくりするしね。やろうとしてた私が言えたことじゃないけど。

 そんなに謝らなくていいのにな、と思っていると、レイが左手で私の手を取ったまま、右手を手にかざし始めた。かすかに光ると同時に、患部があたたかくなる。なんだこれは。

 呆けているうちにレイが手を離した。なんということでしょう。さっきまで赤かった手首がきれいに元通りになっているじゃありませんか!痛みも消えた。どういうことなのだよ……


「一応治癒の魔力を施してみたのだが…痛みは引いたか?」

「いやもうきれいさっぱり。ていうかまたしても魔力なのね。何でもできるじゃん完全にチートじゃん」


 本当になんでもありだな魔力。もはやレイの魔力でできないことはないのではないか。


「ちーと?……とにかく、悪かった。この部屋に来るのはリンだけだとわかってはずなのにな……」


 ……これは、聞いてもいいことなんだろうか。はっきり聞いているわけじゃないけど、今まで得てきた情報を総合すると、レイはとにかくひどい人生を送ってそうだし、この手の意味深発言がいい意味だったことないしな。


「だから、もう気にしなくていいってば。これ以上謝ったら怒るよ」

「………………わかった」


 ためが長い。こうでも言わなきゃまだ謝る気だったな。気まずそうに目を逸らすレイを半目で見ながら、少しレイの方に歩み寄る。


「……ん?」


 なにか踏んだような気がして足元を見ると、さっきまでレイが読んでいた本を思いっきり踏んでしまっていた。


「あ!ごめん踏んじゃった!!」


 慌てて足をどかして本を拾い上げる。本自体は閉じていたから、紙が折れたりして無残なことになることは避けられた。でも人の本を踏んじゃうなんて……ヲタクだというのに、なんたる不覚……!!


「多分折れたりはしてないと思うんだけど、一応確認してみるね」

「いい、気にするな。元々昔から読んでる本だから、内容は覚えてるから問題ない」

「そういう問題じゃないの!」


 本もペーパーレスなこの時代、読むことさえできればなんでもいいみたいな人が増えてるのも事実だ。けれどヲタクとしては、紙の本にはそれだけで価値があるし、それこそ昔から読んでる本ならばより一層価値があると思っている。無下に扱うなんて絶対できない。

 見た感じ、それなりに古そうな本だし、丁重に扱わなければ。

 パラパラと本をめくり、折れたり破れたりしてないか確かめる。ざっと見た限り、経年劣化はあるけれど、つい最近できた折れ目とかはなさそうだ。


「とりあえず無事みたい。古い本なのに、ひどい劣化はなさそうだし。はい、大事にしなよ」

「ああ。……これは、子供の頃から読んでいたものだったからな。今も時々読みたくなって、その度に読んでいるんだ」

「そうなんだ……」


 確かに子供の頃のお気に入りの本って、ついつい手元に置いておいちゃうし、何回も読み返しちゃうよな。


「ねぇ、今日はその本、私に読み聞かせてよ」

「えっ、俺がか?」

「いいじゃん。私もレイがずっと読んでた本読んでみたいもん。でもこっちの文字は読めないし」

「……読み聞かせなんかしたことないから、絶対下手だぞ」

「読み方が下手くそでも、気持ちがこもってれば伝わるからいいの」


 早く早く、と親に絵本を読んでもらおうとせがむ子供みたいに、本を持った手と反対の手でレイをベッドまで引っ張る。ここでされるがままに引きずられてしまうあたり、本当にレイは優しいんだと思う。

 二人で隣合ってベッドに腰掛け、本の最初のページを開いた。


「……あとで下手だったって文句言うなよ」

「言わないよ。ほら、早く早く」

「はぁ……」


 レイは諦めたようにため息をつくと、ゆっくり優しい声でその本を読みはじめた。

 どうやらこれは童話だったらしい。ところどころに挿絵があるし、文字もこの間見たものよりもずっと大きく書いてあった。

 ストーリーもシンプルで、主人公の周りと少し違う環境にいた子がいじめられていたけど、その子の心優しさが次第に周囲の人に伝わっていき、最終的にはお互い受け入れ合う、といった王道ものだ。

 レイは絶対下手だって言ってたけど、主人公の心情がすごく伝わってきて、とても心に響いた。

 だからなのか、聞いていてとても心地よくて、読み終わる頃にはだいぶ瞼が重くなっていた。


「……リン?」

「……ぜんぜん、へたじゃないじゃん」

「……そうか」


 私の舌っ足らずな言葉に、そろそろ意識が途切れそうだと悟ったらしいレイは、私を抱きかかえてベッドに横たえた。


「うー……ん」

「また、明日な……」

「ぅん……また、あとで、ね……」


 なんとかそれだけ告げると、引き寄せられるように意識が途切れていく。


 なんとなく、レイが笑いながら頭を撫でてくれた気がした。

やっと出会いから一週間を書けました。

とりあえず出会いから少しずつ距離を近づけて、魔王さんに名前をつけるところまで書けたので、これからは次話が三日後の話、みたいにちょっと飛ばしながら書くと思います。

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