第8歩 初めての大会1
金曜日。学園は土、日曜日と休みに入る。なので金曜は寮の門限ギリギリまで遊ぶのが生徒の鉄則だ。
「ねえねえ光里さん、一緒にカラオケ行かない?」
「ごめんなさい。今日はちょっと予定があって…。」
ヒナミは申し訳なさそうに謝ると、カフェテリアへ向かった。
「光里さん、いっつも何やってるんだろうねー?」
「おー、ヒナミちゃん来たね。」
カフェテリアには、楓が先に待っていた。
「その顔、友達にカラオケ誘われたのに、私のせいで行けなかったって感じかな?でも、今日は良いニュースを持って来たよ。」
するどい楓に少し引いたが、良いニュースには心が惹かれた。
「良いニュース?」
「そう、明後日の日曜日、区のドームで大会が開かれるの。ヒナミちゃんには初めての大会だし、結構いい経験になるんじゃないかな。」
「大会…。」
「参加賞でもお菓子が貰えるよ。」
「やります!」
こうしてヒナミの特訓は始まった。
「ヒナミちゃん!もっと脚をあげてリズミカルに!」
「こ…これが…限界です。」
「よし!まず軟体から!」
バキッ
「痛い痛い痛いいいい!股裂けちゃいます!」
「裂けて大丈夫!誰も見てないから!そのための第3ダンスホール!」
ネズミやハクビシンたちがこっちを見ている。まるで応援してくれているかのようだった。
「ええ、あら、それは面白くなりそうね。実力を見してもらおうかしら。」
一人、生徒会室と書かれた部屋の椅子に座り話している者がいた。
「花園舞花。楽しみね…。」
夕方、第3ダンスホールから出てきたヒナミと楓は窓から外を見ていた。
「楓先輩、この第3校舎って今はもう使われてないんですか?」
「そうね…、話によるとこの校舎って百年前にできたらしいから、古臭くて誰も使わないんじゃない?」
「なんかもったいないですね。景色も綺麗に見えるのに…。」
ヒナミの目には、広がる樹々の森とその向こうに第1、第2校舎があった。それらが夕焼けの色に染まり、いつもの学園とは違うように思えた。
「あんな森、校庭にあったんだ。」
「新しい校舎からだと見えないからね。知らないで卒業しちゃう人も多いんじゃないかな?」
「じゃあ、この景色は私たちだけのものって事ですね。」
「…そうだね。」
楓は少しうつむいた後、静かに歩き出した。ヒナミもそれについていった。
「楓先輩。私、大会で優勝できますか?」
「かなりいい線いくんじゃない。」
「なんで歌の練習はしなかったんですか?」
「ヒナミちゃんは歌が上手いから、ダンスの練習をしっかりしたかったの。」
「えへへ、そうですか〜?」
嬉しそうに笑うヒナミの顔も、また夕焼けに照らされていた。
「じゃあ、この景色の事は内緒だよ?ヒナミちゃん。」
第3校舎
戦前に作られ、同時では最新の建築技術であったが、時代の流れにおいていかれた。学園は第1校舎や第2校舎を使っており、解放はされているが、使う生徒はいない。一部では幽霊が出ると言われている。