第7歩 銭湯の女神さま
「疲れたー!疲れたー!」
夕方、楓との練習から帰って来たヒナミは、寮に入るなりベットに飛び込んだ。
「お前、汗だくでベットに入るとか汚いぞ。」
「ナギサちゃん、今何時〜?」
「あ?えっと8時だけど…。食堂閉まるな。」
この学園の食堂は8時半までだ。
「お風呂は後かぁ…。」
そう言うと、ヒナミはジャージのまま食堂へ向かった。
「あいつ、宿題やったのか?」
夜遅い食堂には、ジャージ姿の生徒がチラホラいるくらいだった。その中に一人で親子丼を食べているリコを見つけた。
「あら、ヒナミさん、あなたも練習していらしたの?」
「リコちゃん。いや、私は先輩とマラソンしてただけだよ。途中から遊んじゃったし。」
「先輩ってあなた、いつの間にそんな人脈を…。」
ヒナミとリコが話していると、イブキが食堂に入ってくるのが見えた。
「あ!イブキちゃん。今来たの?」
「え?そうだけど。」
「大丈夫ですの?もう食堂閉まりますわよ。」
「大丈夫よ、さっと食べるから。」
そう言うとイブキは券売機の方へ歩いていった。
「絶対間に合わないと思いますが…。そういえば、ヒナミさんは何か食べなくて?」
「…。」
ヒナミはまだ何も頼んでいないことを思い出した。
「ま、まあ下のコンビニでおにぎりでも買いましょう。それより、こんな時間ですし、共に湯船にでも浸かりませんこと?」
「…わかった。」
ヒナミは音がなるお腹をさすり、校内銭湯へ向かった。
「校内銭湯ってどういう設定だよって話だよね。」
「まあ、作者が寮制の学校に居たことがないので、しょうがないということですわ。」
お湯に浸かり、くだらない話をしていたヒナミとリコ、銭湯に居るのはもうこの二人だけだった。
「そういえばイブキちゃん、まだお風呂入ってなくない?」
そう呟いたとき、お湯の中から一人のお姉さんが出てきた。その姿はまるで美術館に置いてあるヴィーナスのようだった。
「いいえ、彼女はもう入浴を終えております。」
「うわ、なんか出てきた。」
「これは噂に聞く、銭湯の女様ですわね!」
説明しよう。一回の入浴代でギリギリまで銭湯を楽しむため、一日のほとんどを銭湯で過ごす猛者。彼らはその身をお湯と一体化させ、銭湯の神様へと成り果てるのだ。
「どこの銭湯にも居ると聞きましたが、まさか学園の銭湯にも居るなんて。驚きですわ。」
「ちょっとまって。全然話についていけないんだけど。」
「響庭イブキさんはあなた方が銭湯にくる途中、既に食事を終えてお風呂に入ったのです。」
「まさか、そんなに早く入浴できるわけがないですわ!」
「私は無視⁉︎」
銭湯の女神は悔しそうな顔をした。
「それができたのです…。彼女はこの湯船に入らず、ただ体と頭を洗い、リンスをして出て行きました。」
「そんな一人暮らしのサラリーマンみたいな事を!そんな事を入浴と呼んでいいんですの⁉︎」
「そう、私はそれを言いたかったのです。私は銭湯の女神として、この非道な行為を−」
そんなこんなで入浴談義に花が咲き、3時間経ったところで見回りの先生に見つかりこっ酷く怒られた。
「もう11時ですわ。まさか銭湯の女神が先生に見えないなんて。」
「それにしてもイブキちゃん、遅くまで練習したり急いで食べたり、大変だね。」
「響庭家の人間ですから、きっとプレッシャーが凄いのではないんでしょうか?」
「響庭…。イブキちゃんって、やっぱりカノンさんと関係あるのかな?」
「ええ、カノンさんの妹らしいですね。」
「ホントに⁉︎は〜凄いなー。」
「知らなかったんですの?でも羨ましいですわね。色々と。」
「そだねー。」
そんな下らない話をしている二人は、後ろにイブキがいることに気づいていなかった。
「…何も知らないくせに…。」
「ただいまー。」
ヒナミが寮に着いた。
「おっそ!何時まで風呂入ってんだよ!」
「それよりイブキちゃんって、あのカノンさんの妹なんだって!」
「そんぐらいみんな気づいてるよ。」
ヒナミはまだ12歳なのに、恥や驚き、悔しさなどが混ざった複雑な気持ちになった。
夜の一時。皆が寝静まった夜。ヒナミは大事な事を思い出した。
「宿題忘れてたぁぁああああああ!!!!」
「うるせぇぇえええええええええええええ!!!!!!!!」
ナギサは今夜も眠れなさそうだ。
今回の話は、深夜テンションで書いたクソしょーもない話です。ごめんなさい。ここまで2話で終わらせるはずだったのに、グダグダここまで伸びてしまいました。これからも頑張ります。