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私、才能なくてもトップを目指して頑張ります。  作者: あんこミカン
season1 Top争奪編:始まり
6/19

第6歩 憧れた人

 第3ダンスホール、一番古く、薄暗く、ジメジメしていた。ここはただただ日が当たらない、不気味な部屋だ。


 「いやー、ごめんね。人が少ないのはここしかなくて。昨日踊った第2とか、一番新しい第1は人が多いからね。静かに練習できないんだよ。」


 「そうなんですか…。」


 理由を聞くと少しは理解できるが、ちょくちょく消える蛍光灯、カサカサ動く「G」、そしてホールの隅から生えている光るキノコ。二人しかいないのに、3人写っている鏡は怖かった。


 「あの先輩、ツッコミたいところが山盛りなんですが、先輩には見えてますか…?」


 「ああ、Gとかキノコは慣れるもんだよ。」


 「そうですか…。」


 ヒナミは何も見なかったことにした。


 「じゃあ早速だけど、なんでアイドルになろうと思ったのか教えてもらえる?ほら、目標とか大事って言うじゃん。ほらほら、please please。」


 「わかりました。あれは7年前…」


 「あ、これ回想入る系?」



7年前、

 国立ライブ会館には沢山の人々が集まっていた。皆の目的は一つ、[響庭カノン]。当時、国内で最も大きな大会『Next shining』において、初の三年連続優勝がかかった注目の大会だった。

薄暗い廊下を抜けると見える、広く、明るい舞台。そこに彼女はいた。ヒナミは一番後ろの端から二番目。決して良い席ではなかったが、初めてのライブに心躍らせていたヒナミには関係なかった。


 「皆さま、最高のアイドルを決める夜がやって参りました。今宵闘うは、過去最強と謳われる天才、灯明院学園3年[響庭カノン]。対するは若き新星、凱旋館(がいせんかん)鳳鳴(ほうめい)学園2年[白川(しらかわ)奈々(なな)]。どちらが真のTopなのか。それではライブスタート!」


 司会者のスピーチが終わると、すぐさま音楽が流れ始めた。カノンと奈々は同時に同じ曲を歌い踊った。彼女は歌もダンスも上手かったが、それ以上に観客の心を感動に浸らせた。そして同時に迎えた〈決闘〉。互いに武器を持ち構えあった。カノンの武器は(つるぎ)、奈々は槍だ。


 「はああああああ!」


 掛け声と共に、奈々はカノンの胸に向け2メートルはある槍を突きだした。が、カノンはすかさず槍を避け、剣で弾いた。奈々は間を開けることなく左足で蹴り上げ、カノンはそれを左腕で防いだ。カノンは奈々が寄ったところで剣を振ったが、奈々も寸前で身を引き、剣をかわした。


 互いに隙を作らぬ闘いに、観客の興奮も最高潮だった。ヒナミはその中、じっとカノンを見つめていた。


 お互い硬直状態にいると、奈々の方からまた仕掛けた。奈々が足下を突き、カノンがひいた。奈々もまた間合いを詰め、そこから首に向かって大きく振った。これもカノンは間一髪避け、後ろへひいた。奈々はそこから、突く、突く、突くとの反撃の空きを作らない連続攻撃。カノンはかわすので精一杯のようだった。

 誰から観ても戦況は奈々が有利だった。

 しかし、カノンは途中から槍を剣で弾きだした。一方的に押されていた状況を打破したのだ。カノンが少しずつ奈々の攻撃を見切ろうとしているところで、奈々は攻撃をやめ高く跳んだ。そして空中で槍を構え直すと、勢いとともに槍を強く叩きつけた。カノンはこれを剣で防いだが、衝撃のあまり剣が弾き飛ばされた。すかさず奈々はカノンの懐を蹴り飛ばした。カノンは吹っ飛び地面に叩きつけられた。吹っ飛ばされた先には剣が落ちていた。カノンはまた剣を持った。

 しかし、ダメージの差は歴然、誰もが諦めた。奈々がもう一度構え突撃の姿勢に入った。カノンは剣を腰の位置に構えた。

 そして、闘いの決着が遂に決まった。まるで抜刀のように構えるカノンに、奈々は突撃した。武器のリーチは明らかに奈々の方が長く、ここから切り出しても届くはずがなかった。そして奈々の槍が目の前まで迫って来た時、カノンは剣を縦に構えた。しかし、切りつけるのわけでも、槍を弾くわけでもなく、そっと槍と重ねて合わせるように剣を添えた。それは今までの闘いでは見ないほどの異常な速さだった。そして滑るかのように槍をつたい、奈々の胸元まで近づくと剣で奈々を切りつけた。


決闘が終わり、二人のライブが終了した。悔しさの中、既に奈々の目には涙が浮かんでいた。


 「決着!勝者[響庭カノン]!遂に史上初の3年連続優勝を達成させました!同時にアイドルランク、日本初のプリズムランクに昇格です!」


 会場がこれ以上ないほど盛り上がった。カノンへのコールが起こり、皆立ち上がり拍手した。ヒナミは前を塞ぐ大人たちの隙間から必死にカノンを覗いた。歓声を浴びるカノンが客席に向かい手を振っていた。そしてヒナミの方を向いた時、カノンは自分を見て微笑みかけたような気がした。



 「その時思ったんです。私もカノンさんみたいになりたいって…。」


 「おお、長い回想だね。私にはナレーションばっかで全く場面がわかんないけど。」


 「それで先輩、練習は何をすれば良いですか?」


 楓は少し悩み、少しすると立ち上がった。


 「ジョギングよ…!体力作りが一番よ!」


 「それって、ここに集まった意味は…」


 「大丈夫よ!今日はここの空気に慣れる為に来ただけだから!さあ、走るよ!いざ校庭へ!」


 そう言うと、楓はヒナミを連れ、ダンスホールを飛び出し廊下を突き抜けた。


 (危ない危ない。何も考えてないのがバレるとこだった…。)


 楓はひっそりと思った。ヒナミは第3ダンスホールを見つめていた。ダンスホールの窓には人影がこっちを見ていた。

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