第3歩 響庭イブキ
ヒナミは恥ずかしさの中、ただ棒立ちしていると、前の方から25歳ほどの女性が歩いてきた。
「やあやあ、君がヒナミちゃんだね。後ろの空いてる席に適当に座って。」
ヒナミは道中の目と合わせないよう、そそくさと後ろの席に座った。
「ねえねえ、あんたさっき遅刻した人でしょ。」
ヒナミの隣に座っていた少女がヒソヒソと話しかけてきた。まつ毛が長く、髪もサラサラ、綺麗な顔で、絡み易そうな不思議な雰囲気をだしていた。
「そうですけど…。」
「入学式そうそう遅刻なんて、けっこうやるじゃん。私、響庭イブキ。よろしく。」
イブキが手をだしてきたのを見て、急いで手を差し出した。
「光里ヒナミです。よ、よろしく…。」
ヒナミが挨拶を終えるのを見て、女性が話し始めた。
「私は氷堂ミサキ。クラス分けが終わったら、鳥組の担任になるよ。」
「クラス分け…?」
「そうクラス分け。この後、実力を測るテストライブをやるよ。曲とかは自由だし、気軽にやってねー。10時から適当に呼んでくから、ここで待ってて。」
そう言うと氷堂は教室から出ていき、クラスからは不安の声が漏れた。ヒナミもそのうちの一人だった。
氷堂がダンスホールに向かい歩いていると、待っていたかのようにアリサが現れた。
「氷堂先生、今年はどうでしたか?」
「ああ〜、面白い子がいたよ。響庭イブキ、響庭カノンの妹さんが入ってきたよ。」
「響庭カノン…。先生は大丈夫ですか…?」
氷堂は渋い顔をした。
「大丈夫だよ。いちいちそんな事気にしないさ。それより、アリサも抜かされないように気をつけなよ。あの子も〈星々の子〉かもしれないからね。」
そう言うと、氷堂はまたダンスホールに向かい歩き出した。
「イブキちゃん、ライブとか得意?」
次々と生徒が呼ばれる中、ヒナミは緊張を紛らわすためイブキに話しかけていた。
「別に、ここで得意とか言ったら嫌な奴でしょ。」
「…それもそうだね。わ、私、ダンスはダメダメだけど、歌は小学校の時、上手いって言われ…」
「次、光里ヒナミさん、どうぞ。」
なんとか話しを長引かせようとしていると、放送でヒナミが第2ダンスホールへ呼ばれた。
「呼ばれたじゃん。頑張ってね。」
「うん…。」
隣の教室にあったダンスホールには氷堂を含む審査をする先生三人と、見物しにきた上級生が複数人いた。
「では、自己紹介とかライブをお願いします。」
「えっと…はい。光里ヒナミ、12歳です。好きなのは歌う事です。では、踊ります。」
ヒナミがそういった瞬間、スピーカーから大音量の音楽が流れ出した。最初は驚き、反応できなかったが、すぐに気持ちを整えた。歌はキーを外さない程度で、ダンスはキレがあまり感じられなかった。しかし、おぼつかないステップの中にも、懸命に踊っているのがわかった。
音楽が終わりダンスを止めると、ヒナミは大きく礼をした。
「ありがとう。この後また発表があるから、カフェテリアで待っていて下さい。」
「は…はい。」
ヒナミがダンスホールから出て行くと、審査員の一人だった[南木ユズ]が困った顔をして口を開けた。
「小野田先生、今の子、どう思います…?」
「ああ、ダンスは言うまでもない。歌も好きだと言っていたが、この学園では下の中だ。今見たところだと学園でもドベだろう。」
「ええ、でも、私たちが成長させないと。私たちが…。」
苦言を放つ[小野田徹]に対し、氷堂は強く決意を固めた。そして、見物していた生徒の中から、楓がじっと先生を見つめていた。
「可愛そう…やっぱりヒナミちゃんには、私がいないと。」