第2歩 初めての出会い。初めてじゃない出会い。
ここ奏生音楽学科灯明院女学園、通称〔灯明院学園〕は、勉学共に日々トップアイドルを目指し鍛練する一流有名校である。そしてそんな学園でも、始業式からやらかす生徒は必ずいる。
「…という訳で、迷っていたら鍵のしまってない部屋があったので、入ってみたら聖城さんの後ろにいました。」
学園長室でヒナミが謝罪と経緯を話していた。学園長と三年主席、聖城アリサに囲まれた状況は地獄のように感じられた。
「まあ、登校初日ですし、慣れないことも沢山あったのでしょう。今回は遅刻に数えませんが、これからは気を付けて下さい。」
「学園長、それでは他の生徒に示しがつきません。通常どうりの罰を与えるべきです。」
学園長は寛容な態度をとっていたが、アリサは厳しい姿勢をとっていた。双方がもめていると、学園長室に一人の生徒が入ってきた。
「…すみません、遅刻しました。牧菜です。教室を教えて下さい…。」
ヒナミは目をやった。無気力な声にやつれた顔、眼には生気を感じられなかった。そして、制服は自分とも、三年生のアリサとも違う色をしていたことから二年生だと察しがついた。
「牧菜さん。停学明けから遅刻とは、やる気がないなら来なくてよかったのですよ。その方が皆の為です。」
アリサが睨みつけながら牧菜に言った。牧菜もたまらず目をそらした。その時ヒナミと目があった。牧菜は目を丸くした。
「学園長、この子は…?」
「ああ、ちょうどよかった。彼女は光里ヒナミさんです。すみませんが、彼女を仮教室2に連れて行ってあげて下さい。あと、牧菜さんは鳥組です。」
牧菜はヒナミという名前を聞くと少し呼吸が荒くなった。そして落ち着くとゆっくり口を開いた。
「わかりました。ヒナミさん、行きましょう。」
そう言うと、牧菜はヒナミの手を取り、そそくさと部屋を出ていった。
二人がいなくなり少しすると、アリサが話し始めた。
「学園長、彼女をほっておいていいのですか?また去年の様なことを…。それにあの光里という子が〈星々の子〉でない可能性もないのですよ。」
「ああ、わかっている。だが、これが彼女達にとって吉と出るか凶と出るか。それもまだわからない。」
「もし凶とでたら?」
「私の役目は、そんな状況の彼女達に手を差し伸べることだ。」
ヒナミは牧菜と共に廊下を歩いていた。気まずさから話かけようか迷っていると、牧菜の方から話かけてきた。
「はじめまして?私、牧菜楓。あなたはヒナミちゃんね。」
「は…はい。」
ヒナミが楓の方を見ると、眼に光が宿っているのが見えた。
「あの聖城アリサって人、嫌な感じでしょ。大丈夫だった?」
「はい、私は特に…。」
「よかった。うちの学園、行事とかでヘマすると、地下の第3トイレの掃除一週間やらされるんだよねー。」
いきなりペラペラと話し出した楓に、ヒナミは少し困惑していたが、話せる人だと思い、安心した。
「あの…、牧菜さん、すみません。迷惑をかけてしまって。」
「ああ、いいのいいの。私も怒られずに済んだし。あと、楓でいいよ。」
「えっと、じゃあ、楓先ぱ…」
「ついたよ。」
ヒナミが言いかけると、二人は仮教室に到着した。
「辛いこともいっぱいあると思うけど、無理しないでね。いつでも私のところに来てくれていいから。」
「は、はい。ありがとうございました。」
楓は手を振ると、二年の鳥組へと歩いて行った。
「ヒナミちゃん…。なんで…。」
楓はブツブツとつぶやいていたが、ヒナミは気づいていなかった。
ヒナミは扉の前に立つと大きく息を吸った。
(恥ずかしくない、恥ずかしくない。)
扉は重く、ゆっくりと開いた。教室を見ると100人ほどの生徒の視線がまた、ヒナミの方へ向けられていた。
私も高校の初登校日に遅刻&席を間違えて視線を集めました。恥ずかしい。