第13歩 私のドレス2
「南木先生いらっしゃいますか?」
「はいはい、ちょっとまってね~。」
教室の奥から優しい声とともに、女性がやってきた。
「こんにちは、私が南木よ。なにか質問?」
「はい。あの、ブランドとかドレスデザインのことが聞きたくて…。」
「わかったわ。どうぞ、中へ入って。飲み物は紅茶でいい?」
「は、はい。」
ヒナミが教室に入ると、作りかけのドレスが机の上においてあった。ピンクと白で作られた可愛らしくも綺麗なドレスだった。少しくらい教室の中、窓から漏れる少量の日の光を反射し綺麗に輝いていた。
「あの、ドレス見てもいいですか?」
「そのドレス?全然いいわよ。」
ヒナミがドレスを見ると、細かい縫い付けのあとが見えた。一つ一つの布地が光を反射し、キラキラしていた。そしてドレスの隣にはラフ描きがあり、それには[Tutu doreamer]と書いてあった。
「…すごい綺麗…。[このツツどれあめ]って何ですか?」
「これは[チュチュドリーマー]って読むのよ。」
その言葉を聞き、ヒナミは元来た理由を思いだした。
「そうだった!私、チュチュドリーマーをドレスデザインに使おうと思ったんです。」
「そうなの?なんで?」
ヒナミはバカらしい理由を話すか迷ったが、良い誤魔化しが思いつかなかったので、しぶしぶ話すことにした。
「なるほどね。使いやすいブランドか…。言われちゃったな…。」
南木の顔が暗くなった。
「…あの、使いやすいブランドって、どういう意味ですか?」
「……。…人気のブランドっていうのは、そのブランドの質を高めるために優秀なアイドルとしか契約しないの。つまり使いやすいブランドっていうのは、人気がなくて誰とでも契約するブランドっていう意味なの…。」
普段空気の読めないヒナミでも、さすがに南木の心情を考える事は出来た。
「…ごめんね、こんな話しちゃって。でも、ブランドは簡単に決めちゃいけないものよ。もう一度よく考えてみてね。今日はもう遅いから、また明日いらっしゃい。」
「…わかりました。」
ヒナミは黙って紅茶を飲み干し、頭を下げると出口のドアの方へ歩いていった。
「ありがとうございました。」
ヒナミはそう言って教室から出た。その時見た南木の悲しそうな顔を、ヒナミは忘れる事ができなかった。