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古い物語の終わり

 唐突に書きたくなって書き始めました。

 不定期更新・駄文ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

 R‐15設定にしてありますが、それほどグロくなったりはしない予定です。

 貴方には叶えたい願いがある。小さな幸福から、世界を変えるかもしれない奇跡まで。

 ですが、残念ながら貴方には叶えられるだけの力は無かったようです。


 どうしますか?



 これは新たな話。新たな物語の始まり、そして古き物語の終幕。カーテンコールは……。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 雨が、降っている。

 深い森の中央にある天井の崩れ落ちた大広間。その中央に騎士と魔女が寄り添っていた。


「……ごめん、なさい。貴方に、こんな真似を、思いをさせて」


 鎧を纏った青年が、悪魔を身に宿した魔女、ステラをそっと胸に抱く。ステラの腹部には、騎士団の物ではない刃が深々と刺さっており、そこから止めどなく血が溢れている。

 出血の具合から、おそらく臓器を損傷しているだろう。治癒処置を施さねば、彼女はあと数分の命火だろう。


 ステラは、青年の頬に触れる。赤い血が、白い頬を汚したが、青年はその手を握りしめて、失われつつある命の灯火を感じようとしていた。指先から徐々に熱が失われていき、氷のように冷たくなっていく。それを、青年が止めることはできない。悔しさのあまり、ぎり、と歯を食いしばった。


「……そんなこと、言わないでくれ……っ」


「……いいの。だって、私は最後の魔女。悪はいつか、消えなくちゃいけないから」


 サレイア帝国の脅威の対象、魔女。その最後の一人が、ステラ自身だった。


「……あいしてる」


 それが、終わりを告げる合図だった。


 ふいに、ステラの身体が途端に重くなって、紫の髪によく似合っていた赤の瞳から光がきえていった。人は、死するときに身体から力が抜けるというのは、本当らしい。だが、そんなことはどうでも良かった。騎士は目を見開き、焦る。

 だが、人の生き死にを騎士は見すぎた。だから、漏れた声は至って冷静だった。


「……すてら」


 そんな自分が、嫌だった。


 もっと悲しい。もっと切ない。もっと辛い。慣れてはいけないはずなのに。

 それなのに、涙は出てくるのに、それは、どうしてこんなにも形式的なものなんだろう。



 騎士はステラの亡骸を抱き締める。そのまま無機質な涙を流した。頬に手をあてがう。その温もりを忘れないように。


 ステラを想っているはずなのに。なのに、どうして自分はこんなに冷静でいられるんだ。


 大切な人が死んだくせに、どうして、自分はもっと悲しめないんだ。


 ステラの死に対しているのとはまた違ったモノがせりあがってくる。嗚咽が、はち切れそうな想いが、騎士の中で混じりあって、さらに悲しいものへと変わる。


「……先を越されたみたいだね、アレン」



 一際高い声がした。騎士、アレンには聞きなれたもので、振り向かずともそこに誰が立っているのか、容易に分かった。


「イザベル……」


 黒い翼に、頭から生えた二本の牛のような角。身体中に刻まれた刻印。悪魔イザベルが、涙を流すアレンの前に立つ。


「ステラを殺したのは……教会の連中?」


 ステラの脇腹からナイフを引き抜く。血が垂れ落ちるのを険しい表情で見つめ、イザベルは、それを向こうの林に投げ捨てた。


「……そうだ。ステラを、守ることができなかった」


「アレンのせいじゃないよ。……今は、それしか、言えないけど。軍人たちがこっちに向かってる。今なら、雨に紛れられる」


 悪天候で気がつくことができなかった。イザベルが居なければ、ステラの亡骸でさえも守り通すことが出来なくなっていただろう。


「ありがとう、イザベル」


 ここにずっといるわけにはいかない。

 泣き腫らした顔をやっと上げて、アレンはステラを抱き上げ立ち上がる。ガシャガシャ、と音を立てながら大広間を抜け、二人は石の階段を下りて森のなかに消えていった。


 


 帝国歴1495年。東世界を統べっていた帝国は栄華の絶頂にあった。

 豊かな自然と暮らし、遠征による成果。もうすぐ皇女ミーレンの婚約も控えており、帝国は幸せの中にあったと言えるだろう。

 

 だが、それが多大なる犠牲の上から成り立っていることを知るものは、きっとそれほど多くはない。








 

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