龍使いの魔法使い 前編 ※騎士視点
「全く、嫌になるな」
「何がだ?」
「決まっているだろう。あの団長野郎殿のことだ」
同僚のルスイは敬意を払っているのかいないのか、よく分からないことを言う。
「何が『龍使いの魔法使いを連れてこい』だ。私達をなんだと思っている」
「小間使いとかじゃないか?」
事実、その通りだ。
まず団長殿は貴族で、俺達は騎士であるものの平民。
生まれもった身分または上官であるから、あれこれと上から言う権利がある……かもしれない。
まあ、細かいことはいい。
今は命令に従えばいいのだ。
上官の命令は絶対である。
「うだうだ言ってないで行くぞ!」
「引っ張るな! この力馬鹿が!」
「うん? 俺は馬鹿ではない!」
「そういうところが馬鹿ぽいんだっ」
ずるずると襟元を引っ張ると「離せこの馬鹿が!」とまた言われる。
昔からルスイは俺のことを馬鹿と表す。
そのたびに何度も訂正するがやめない。
これは言っている本人が馬鹿であると俺は思う。
眼鏡をかけていて頭が良さそうであるのに。
自分でそのことに気づけないのは可哀想だな、と自分の幼馴染みを眺める。
その際歩いていた足を止めたので、ルスイは足で俺を蹴った。
そうなると驚いてパッと手を離してしまったので、ルスイは「ぐはっ」と体を地面に打ち付けていた。
大丈夫かと声をかける暇なく、ギロリと睨まれる。
元気があっていいことだ。
「ハハハハ」と笑うと、何が原因かはよく分からないが「……もういい」と怒っているようだった。
なんでだろうかと考えるが、さっぱり分からない。
俺が「うーん?」と唸ってると、ルスイは「置いていくぞ」と目的地まで先頭を歩いていった。
俺は黙ってついていくことは経験上分かっていたので、そのとおりにする。
ルスイはスタスタと歩いて行ったので、あっという間に目的地には辿り着いた。
昨夜駐屯所に来た子龍を追いかけて、辿り着いた奴隷狩りしていた連中のアジトだ。
「隊長野郎の命令に加えて、昨夜の後始末もしなければならないとはな」
「敬称はつけなくていいのか?」
「もういい。この仕事が終われば、騎士は辞めるつもりだからな」
「そうなのか?」
あれだけ苦労して、なることが出来た騎士であるはずだ。
平民から王に忠誠を誓う騎士になることは、多くの者が目指す中狭い門だ。
その騎士を辞めるのは。
初めて聞いたその告白に、「急にどうしてだ?」と聞く。
「別に急なことではない。以前から考えていた。働いても功績は奪われ、何かと難癖をつけられ給金は低い。あんな腐ったやつらがいる隊にいても、馬車馬のように働かされるだけだ」
ルスイの言い分は理解出来るものだった。
自分の身にも心当たりがある。
「まあ最後の仕事ぐらい、真面目やるが。たとえ不信感しかなくとも」
「不信感、か?」
「こうしてアジトに来ても配置する人員は少なく、なおかつ焦ったように龍使いの魔法使いを連れてこいだぞ? この様子では、あの噂を信じられるものだ」
「確か貴族が奴隷を扱っている―――という噂か?」
「そうだ。噂は噂にすぎんがな。だが考慮する価値はある」
先程馬鹿だと思っていたのを修正しておく。
ルスイは頭がいい。
「何か変なことを考えてないか?」
「ああ。ルスイは頭がいいな、ということをだ!」
「まあ、お前に比べればいいだろうな」
「そうだな!」
「……こんな入り口でいつまでも話していても仕方がない。中に入るぞ」
顔を背け、またはや歩きでルスイは先を進む。
なんだか耳が赤い。
指摘すると「気のせいだ」と返ってくる。
確かにそうかもしれない。
建物内は暖色の灯りが照らしている。
「お、バンヌ、ルスイ。手伝いに来てくれたのか?」
「ああ! だが他にやることもあるから、少ししか手伝えない」
「お前らも大変だなあ」
「それはお互い様だろう。今日は寝たのか?」
「いいや。こいつのせいで、また仕事が増えた」
仕事をしていた同じ隊の騎士が、顎でそこにいた男を示す。
ムスッとした様子で男は縛られていた。
「もしかして残党か?」
「ああ。間抜けにも、アジトに戻ってきたからな。ご丁寧に足に証拠があるままで」
「ああ、氷か」
「溶けねえんだよっ。好んでこの状態にいるんじゃねぇ」
間抜けだと思っていると、縛られかつ足が凍っている男は反論する。
「ちょうどいい。バンヌ、こいつを取り調べるぞ。例の魔法使いについて知っているだろうからな」
「ああ。おい、急に元気がなくなったが、平気か?」
足が凍っている男の顔色が悪い。
べシベシと叩いてみるが、反応が悪い。
「馬鹿が。それでは余計悪化するだけだろう。おい、しっかりしろ」
「いや、ルスイも体揺すっている時点で、大概同じだからな?」
騎士の言葉を気にかけることなく、ゆさゆさと男を動かす。
それから体調が悪くていつの間にか気を失った男が起き、魔法使いについての話を聞くのには時間がかかった。




