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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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異種族の子

 頭にある大きな耳。

 そしてよく見ると、しっぽもあった。

 人族ではないその子は、顔を膝にうずめている。


 私はその子の近くに行く。

 遠くから見ているだけではじっとしていたのが、ピクリとだけ耳が動かした。

 私はしゃがみ込み「ねえ、」と声をかける。

 するとそろそろと頭を持ち上げ、伺うようにしてその子は私を見た。


「……酷い怪我」


 顔を殴られているようだった。

 大きな瞳の下の青いあざが目立つ。

 他の子達はこんな酷いことはされていなかった。

 人族とは違う異種族であるから、というだけの理由だろう。

 あの男達は奴隷狩りだけでなく、人族以外の種族の差別もしているようだった。


 傷の手当のために、私はそっと傷に手を伸ばす。

 だが怯えているようで、手から逃げようとする。


「大丈夫、怖くない。私は貴方の怪我を治したいだけ」


 目を合わせながら言うと、異種族の子は目を伏せる。

 信じてくれたのかは分からない。

 だが、もう抵抗はしなかった。



「……亜人なんか、放っておけばいい」


 貴族の少年が言い捨てる。

 相手を見下していた。


「亜人だからといって、私は差別したくない」


 もっと偏見なく、個人として見てほしい。

 半魔である私に対しては多くの噂によって出来ないかもしれない。

 だが半魔以外の種族ならそんなことないはずだ。


「この子は見た目は人族とは違うよ。でもそれは少しの違いで、皆根本的なところは同じ。意思を交わすことができる」

「だが、父上は違うと言っていた。我々の方が優れている、と」

「お父さんがそう思っているだけかもしれないよ。自分の目で、本当にそうだと確かめてみた?」

「……してない」

「なら、今実際に見てどう思う? この子は貴方と同じ被害者―――捕まってしまった子で、姿が少し違うだけの仲間だと思えない?」


 私と同い年ぐらいの貴族の少年は、異種族の子を見る。

 先程までとは違い、見下している感じではない。


 私は思想をそう簡単に変えられるものだとは思わない。

 その子はとって、それが常識だったのだ。

 しかもついさっき会ったばかり私に言われたのである。

 私の考えを否定して、選民意識のあるお父さんを信じることになるかもしれない。

 だが、私のような考え方の人がいると知ってほしかった。



 私は貴族の子と話している間も黙ったままだった、その異種族の子に対して魔法をかける。

 治すとき特有の暖かさに驚いたのか、目を見開いていた。

「他にも怪我はある?」と聞くと、おずおずと足首を見せる。

 捻ってしまったようで腫れていた。

 同じく治癒し、私は名前を尋ねる。


「……ロイ」

「そう、いい名前だね。ロイはお母さんとお父さん達といっしょにいたところを連れてこられたの?」

「おかあさんとおとうさん、もういない」


 ロイは淡々とした声で言い、ぎゅっと口を閉ざす。

 親は亡くなってしまったのだろうか。

 繊細な話だが、引き続き話しかける。

 どこから来たのかという問いには、森の答え。

 その場所は分かるかというのには、分からないと否定。


 どちらも首を振ることによっての答えだ。

 だがその反応も示さなくなっていき、ロイは瞳を潤ませる。

 その様子からこれ以上は続けるべきではないと思い、辛いことを聞いたことを「ごめんね」と謝る。


 リュークがいれば、円滑に話ができただろうか。

 陽気なリュークは癒し的存在である。

 近寄り難い容姿をしていて、対話能力が優れている訳ではないと自覚している私は、自身の不甲斐なさを嘆いだ。



 そのリュークだが、契約の繋がりから私がいるところまであと少しの距離ということは分かっている。

 ロイのことは、リュークと合流してから少しずつ聞いていけばいいだろう。

 だから、私はロイを誘う。


「ロイ、私と一緒に来る? ロイの帰る場所まで、私が送り届けるよ」

「かえる、ばしょ……?」

「うん。ロイが今までいっしょに暮らしていた人がいるところまでね」


 私はリュークを追いかけて、この場所にこれから来る騎士を信用はしていない。

 人族の子ども達は大丈夫だろう。

 だが、異種族のロイはどんな対応を受けるか分かったものではない。


 騎士には貴族出身が多いのだ。

 セスティームの街ではそんなことなかったが、王都に来てから選民意識が強い人ばかりに出会っている。

 皆が皆、そんな人ばかりでないことは分かっている。 

 だが一部の人の行いによって、この子がこれ以上傷付く可能性があるのならそれは防ぐべきだ。


 ロイ一人なら、私とリュークで何とか送り届けれるだろう。

 森の場所は分からないと言うが、奴隷狩りのしていたガムザ達の行動範囲である。

 それに王都から近い場所の森だろうから、異種族が住んでいた

 らその事を知っている者はいる。


 それに親はいないが、ロイは今までは一人で暮らしてはいなかったはずだ。

 幼いロイは魔物がいる森で一人で生きていける訳ではない。

 祖父など気にかけてくれた人はいるだろう。



 そんな思いからの誘いだが、ロイは私のことを少しでも信用してくれたらしい。  

 こくりと頷く。


 こうして私の旅の中に、ロイを送り届ける内容が加わった。

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