報い
「貴方みたいに人を甚振り殺すことに喜びをもつ犯罪者、私は殺すことに抵抗はなかった。ある訳がない」
前世と違い、犯罪者を殺すことは問題はないのだ。
軽い罪状はともかく、奴隷狩りをしていて何人も殺したことがあるガムザはそれに適する。
「貴方達のせいで死ぬ必要がなかった人は亡くなって、その親しい人達の生活に亡くなった人の存在が欠けることになった」
「はん、ま……」
「うん、そうだよ。私は半魔。けれど今は関係ないことだよ」
感情の乱れで、魔法に影響していることは自覚していた。
だが私を半魔だと分かってるのは、目の前の男だけである。
ガムザ以外は気付いていない。
感情が魔法に影響するといっても、私は微々たるものに抑えていた。
そのぐらいの理性は残っているのだ。
きっと、髪と瞳の色は紫に揺らいでいるぐらいに留められている。
それだけでも私にとって一大事だが、フードを被って遠くにいるガムザの仲間には見えないようにしているので、バレることはない。
「さみ……ぃ」
ガムザの出す息は白かった。
弱々しくも息を吸って吐くことから、まだ生きていることを示している。
死ぬまでに時間がかかりそうなことも。
「報いだよ。今まで多くの人を苦しめた分」
「す、まなか……た。だから……た、すけ……」
「……いいよ。私は人をいたぶる趣味はないから」
私は一言、「―――風よ」と詠唱を唱える。
半分以上凍っているガムザは、まだ感覚が残っているようだ。
肌に触る風の脅威を理解したようで、身を動かし逃げようとした。
最後に思い残すことはないように、ガムザに自らの立場を理解させ時間をあげた。
だが無意味のようだった。
譫言を繰り返し、反省する様子はない。
「死ぬ苦しみは知ってる。だから、一瞬で終わらせるね」
魔法を発動させる。
ザシュっという音がして首がごとりと落ちる。
自身に飛び血がついた。
もうガムザに対する関心はない。
これで紛れもなく、私は人殺しとなった。
最後まで魔法でやったので、呆気ないという気持ちが大きい。
ただ、心がざわめく。
この感覚は生涯覚えておこう。
私はそう思い、心に刻んだ。
*
リュークに連絡をとると、あの少年を騎士団の駐屯場にまで送り届けたようだった。
安全なところまで逃げたはいいが道が分からず迷っていたところ、巡警していた騎士に保護されたらしい。
私がいるところまで騎士団が駆けつけるには、まだ時間がかかるらしい。
元々争い事が起きていることは分かっていたらしいが、駆けつけることをわざと遅れさせている者がいるということ。
他にも十分な人数を揃えてからという慎重な意見もあってのことらしい。
後半の考えは妥当な判断だと思うが、もう戦いは終わっているので速く来てほしいという気持ちである私だ。
騎士にも奴隷狩りの男達に通じている者がいて邪魔しているので、その通りにはなりそうにないが。
なのでリュークに私のところまで戻って来てくれるか頼む。
危険対象として、なんとか自分のものにできないかなどなど、様々な思案をもって騎士の人達から見られて居心地が悪かったらしい。
少年には父親が駆けつけて安心であるので、分かった! と元気よく返事をもらった。
これでリュークを追いかけてくる騎士は、私がいる場所まで来てくれることになる。
リュークには引き離しすぎず捕まらないよう、私は頑張ってと応援した。
それまでの時間、私は捕まった人達を解放することにした。
騎士の人達が来てからでもいいが、少しでも速く助けて不安を取り除いてあげたい。
拘束してある男達を置きざりにして地下へと階段を下りる。
だがなんやら騒がしい。
そういえば、魔法封じの枷を取りに行った男がいたのだった。
気配を消しつつ、急いで階段を駆け下りる。
「このっ手間取らせやがって!」
「離せ! 汚い手で触るなっ」
「へっ。貴族の坊っちゃんには、俺みたいなやつに触られるのすら嫌だって―――ブゲラ!?」
言い争っている小綺麗な少年を今にも暴力を働きそうな男の頭上に氷の塊を落とすと、変な声を上げて沈没した。
「怪我はない?」
「……えっ? は、はい。平気、です」
最後は聞こえづらかったが、なんともないようだった。
目視でそのことを確認し、私は「良かった」と呟く。
辺りを見回すと、されほど広くない空間に多くの子ども達がいた。
助けに来たことを伝えると、歓喜の声と恐怖から解放されて泣く声もあった。
全員が腕に枷をつけられていたので、氷魔法で鍵を作り出して外す。
王都外から来た子達であるようで、長い間拘束されていた跡が残っていた。
痛々しく思い、魔力はまだまだ残っているので魔法で癒す。
「ありがと、おねえちゃん」
「うん、どういたしまして」
助けた子達から感謝の言葉を貰うと、最初は助けに来るのに反対していたが今となっては良かったと思った。
「これで全員?」
「ううん。あとあの子がいる」
枷を外して欲しいと、私のところまで皆押し寄せてくるものなので、それが途絶えたことからもう全員終わった。
だが、まだあと一人いるらしい。
教えてくれた子が指を指したので、探す必要はなく見つかった。
その子は灯りが乏しい部屋の端にいた。
俯いて膝を抱えていて、一人だけ他の子どもとは違う様子である。
疑問に思ったが、直ぐに納得した。
その子の頭には人族にはない大きな耳があったから。




