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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
母の元へと向かう旅

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奪還

「っはん……!?」


 その単語を言い終える前に、魔力による威圧をかける。

 ガムザの手から剣が落ちる。

 その前にはリュークによって縄は解かれ、私は相手の仲間から人質の少年を奪っていた。


 人質を預けられていた人は、あっという間の出来事に反応が出来ていなかった。

 だが魔法使いは別だ。


「土よ―――穿て!」

「護りを求めるっ!」


 詠唱省略を用い、威圧をしながら風魔法を発動する。

 相手は元々詠唱をしていたようで、魔法を発動させる少しの言葉だけで高い攻撃力の土の塊を放ってくる。

 対して私は魔力は多く込めた、構築があまい風の盾である。

 私は物理と魔法の耐性が付着されているローブで、体ごと少年を包み込む。


「うぐぅ」


 背中に強い衝撃。

 だが体を貫くまでには至らない。


「っリューク!」

「ガウ!」


 リュークは分かってると、魔法を発動させる時間が惜しく魔法使いに体当たりする。

 助走はないので勢いはなく、ヨタつくだけの結果だ。

 だがそれだけあれば十分だと、魔法使いを先の戦いで生やしていた植物で絡みとった。

 口を最優先で防いだので詠唱は唱えられなく、魔法は使えない。



「こ、のっ……っ舐めたマネしやがって! てめえは生かしてはおけねえっ。ガキを殺せ!」


 魔法使いからの攻撃によって、威圧は解除されている。

 ムノバは復帰し、仲間に命令を下す。


 私は戦おうとするリュークに、少年を連れて逃げるように伝える。

 リュークの魔力の残量が心もとないからだ。

 そして信用できそうな兵や騎士団を連れてくるようにと頼む。

 リュークは少し迷い、私の言葉を聞き入れることを選んだ。

 助けた人質の少年がいたからである。


 口頭でなく契約の繋がりで意思疎通はしたので、リューク達がドアから逃げ出すのは容易だった。

 相手の戦力が私に集中したこともある。




 私は数多い相手の攻撃を避ける。

 杖や短剣はない。

 だが風魔法で戦闘不能にした相手から剣を拝借し、身体強化を用いつつ攻撃を捌く。


「人を殺したことがあるってやっぱり嘘じゃねえかっ。この臆病者め!」


 威圧から抵抗したが、ガムザの体は前や後ろへと揺れていた。

 もう私は威圧はしていないが、影響が残っているようだった。


「私は臆病だから人を殺さない訳ではないよ。ただ、基準があるの。そして貴方はその基準に満たした」


 拝借した剣は大きくて建物内では動きづらく、私は捨てた。

 そして避けることだけに専念して、魔力で構築。

 とても大きな氷の結晶が出来上がった。


「死にたくなかったら避けてね」


 相手をしていた敵ににこりと微笑む。

 青ざめ我先にへと逃げ出したので、氷を放つ線上からいなくなつた。

 いるのはよたつくガムザだけだ。

 ならば何も躊躇はない。


 氷の結晶はガムザの腹に突き刺さった。

 放った氷の速度は速かったので、そのままの勢いで壁に突き刺さることになった。



 ガムザの腹からどばりと血が流れるのが見えた。

 口からも咳き込むのと同時に血が出る。

 その場には咳き込む以外には音がしなかった。

 誰もが固まり、息を止めてムノバの惨状を見ている。


「お、俺は逃げるからなっ。ムノバ達がやられた以上、こんなやつに勝てるはずがない!」


 足が中途半端に氷漬けになっている男は、宣言通り逃げ出した。

 一人が逃げ出せば他の者も続き、「殺さないでくれ!」と命乞いする者もいた。


 私は扉を凍らせる。

 魔法の発動までの時間で何人か逃してしまったが、半分以上は部屋に閉じ込めることに成功。

 窓からも逃げ出そうとするので、脆そうな壁も含めて魔法で凍らせる。

 そして攻撃を仕掛けてくる者を撃退していけば、反抗する者はいなくなった。





 剣と短剣を取り返して、私は大人しくなった敵を残してガムザの元に向かう。

 まだ生きていた。

 壁に貼り付けられた状態のままではある。

 だが氷の結晶を中心として体がこおり始めており、そのお陰で傷が氷で塞がれて血が流れることを防いでいた。


「私ね、本当に人を殺したことがあるの。最後は私が手を下した訳ではないけれど、黙ってその人の死を受け入れた」


 森で暮らし、何も知らないことで幸せを得ていた最後の日だ。

 母が外出中にダルガ達が家に侵入し、私とリュークは戦った。

 守るための戦いは、奮闘したものの最後には死んで負けるところだった。

 だが母が帰って命からがら助かり、そして二人の一騎打ちを見た。

 そのときにはダルガは立っているのもやっとの状態だった。

 そうでなくても母は負けなかっただろうが、すんなりと勝てたのは私がダルガ相手に戦って消耗していたからだ。


 そして母の勝利と同時に、私は人を殺したことになった。

 母はそんなことないと否定することだろう。

 だが私は母一人だけに、人を殺したということを押し付けるつもりはなかった。


「あのときは血の匂いで吐きそうになるぐらいだった。けれど、今の私は貴方を殺せて清々してる」


 魔物をたくさんも殺したことで、血の匂いには慣れたということもある。

 だが魔物と人を殺すのでは、差がある。

 人という同類を殺すのだ。 

 躊躇ったりするものかと思っていたが、何も感じない。

 それ以上だった。

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