奴隷狩り
どうやら男は仲間思いのようだった。
肝心な質問では言葉を濁したり口を割らない。
取り敢えず、私とリュークを狙ったのは売ったら金になるという理由は聞き出せた。
他はあまり信用ならない答えである。
リュークは珍しい小龍であるからともかく、私までも金になると思われる対象とは思わなかった。
だが身に持っているものが高価なものである。
一目見て高価だと分かる杖からして、魔法使いである私だがその分見返りが大きいと思ったのだろう。
魔法使いは一般的に詠唱さえさせなければ何も出来ない。
事実、そういった人達は多いので間違ってはいない。
だが無詠唱と接近戦もある程度鍛えられている私は、その一般的な魔法使いではなかった。
それにしても王都で奴隷狩りか、と思う。
この国、ヘンリッタ王国は奴隷は禁止されている。
数十年前に禁止された。
なので奴隷禁止に反対という者がいることは知っている。
ドワーフといった良い影響を与える種族には寛容ではあるが、獣人には冷たい者が多い。
つまり異種族を差別的に見る者が多くいるのだ。
セスティームの街は交易が盛んであったので、そういう者は少なかった。
だが亜人を見かける回数が少ないことからして、居づらい国ではあるだろう。
きっと、私以外にも奴隷狩りをされた被害者はいる。
だが半魔であると隠している以外、私はただの旅人である。
その者達を助けるのは、騎士団や憲兵といった人達の仕事だ。
男が何か私に関係することで正直に話そうとしないという、納得いかないところはある。
聞き出したい気持ちはあるが、痛めつけて無理やりそうさせる方法はやりたくない。
よっぽど必要にならない以外、痛みを与えることは好きではないのだ。
一回死に、二度目に殺されそうになった経験から、その想いは強い。
だから私にとって一番重要な質問で、男から聞き出すことは最後とする。
「これだけは正直に答えて。あなた達はリューク……子龍のことを誰かから依頼されて捕まえようとしたの?」
「違う。お前らがたまたまいたから捕まえようとしただけだ」
具体的に誰に売り渡すつもりであったかを聞いたとき男は返答しなかったが、この内容は言えるものであったようだ。
少ない情報であるが、それだけ分かれば私にとっては十分である。
これからも同じ者に付け狙われないことを知れただけで満足だ。
「おい、俺をどうするつもりなんだ」
「勿論、留置場まで連れて行くよ。……暴れるつもりなら眠ってもらうけど」
意識がなくなるので連れて行くのには大変になるが、暴れられるよりマシである。
男自身で歩かせることはできなくなるが、身体強化して引きずっていけばいい。
暴れても眠ってもらうことになっても、私にとってはどちらでもいいと伝えると、「別にそんなつもりはない」と男は言う。
「……やけに落ち着いているね」
「まあな。だって」
「だって?」
「俺が連れていかれることはないからな」
男は嘲笑った。
直後、背後から私を昏睡させようとする男が迫るのを、私は杖をもっていなす。
「なっ、気付いていやがったのか!」
「仲間がいると分かっていて、警戒していない訳がないよ」
男の拳が前へ突き出されるよりもよりも速く、足元から植物が生えて急速に成長して体をぐるぐると拘束する。
人間アートの完成である。
植物魔法を発動させたリュークに、捕まってのんびりとして下がっていた好感度が上がる。
これで下がった分は元通りだ。
「このノロマっ! 失敗しやがって」
「先に捕まっておいて何言ってんだ! 助けにくるんじゃなかっだぜっ」
「なんだと! 仲間は大切にしろっていう決まりを破る気かっ。ガムザにぶん殴られるぞ」
「それが嫌だから助けにきてやったんだろうが!」
ぎゃあぎゃあと言い争う男達は、片や凍っていて片や植物に縛られている。
なんと滑稽な姿だろうか。
ガムザとはこの男達のリーダーの名前だろうと推測しながら、呆れた様子で二人を眺める。
名前以外にもポロッと何か情報が出てこないかとのんびりとしていると、言い争いの果てに「こうなりゃ最終手段だ!」と言い大きく息を吸った。
男二人、両方ともである。
「あっ駄目!」
「誰か助けてくれえええええええええっがふう!?」
男は無様に情けなく、どこかにいる仲間へと叫んだ。
すぐ意図に気付き、口の中に氷を突っ込んだがもう遅い。
声は王都内を遠くまで響かせた。
もう一人の男はリュークのお陰で、叫ぶことはなかった。
「ガウッ!」と掛け声で植物がギリギリと男を締め上げ「うぐぁああ!」とこれもまた叫んでいるが、あまり声量はでていない。
息が漏れている感じである。
私は初歩的なミスをしてしまったことで、下唇を噛んでしまいながら魔力探知を行う。
実は近くに多くの人がいる建物があるのだ。
今いる辺りは暗く汚れた場所であるので、そこには荒事専門の人が多くいると予想される。
リュークが袋に入れられたときに男が向かっていた方向にある建物だ。
男の仲間がいれば、声を聞きつけて動きがあるのだが。
仲間でありませんようにと願いながら把握した魔力探知の反応は、私達がいる場所へと来るものであった。




