馬車の護衛 中編
スノエおばあちゃんの毒の嫌な思い出で「辛いなら思い出さなくていい」と気を使わせてしまった。
そうさせる表情を私はしていたらしかった。
意識をスナイパーとの戦いに切り替える。
馬車は残りの冒険者に守ってもらうことにし、一度停車してもらう。
馬車で休んでいたときに話をした子供が不安がっていた。
魔物の元へと行こうとするときに、着ていたローブの裾を引っ張られた。
「怖い?」
「……怖くない」
「そっか。ならリュークのことお願いしようかな」
言葉では否定しているが、強がっている。
裾を引っ張る力が強いのだ。
なので方向性を変える。
「私は魔物の討伐に行ってしまうから、その間リュークを守っていてあげて」
僕かとのほほんとしているリュークなら、不安を紛れさせてくれるだろう。
リュークを預けたことで、子供の手がローブから離れた。
まだ不安そうであったので頭を撫で、私は待っている冒険者三人の元へ向かった。
私達は馬車の護衛であって、スナイパーを倒すことが目的ではない。
だが危険から守るのが役目であるので、手薄になった馬車から離れることを時間をかけずにやらなければならない。
剣士三人、魔法使いが私一人で計四人である。
私は主に万が一魔物から毒をもらったときのための要員だ。
レッグピアススナイパーの遣い蜘蛛と同じ種類の魔物であるから、この相手の解毒は手のものである。
だがその分の魔力を残しておけば、戦闘に参加してもよい。
共にいる冒険者は皆Cランクであるので、二匹のスナイパー相手にそうなることはないと思うが。
地面が平坦なことから、視界は開けている。
だからスナイパーが私達四人のことは直ぐに気付いた。
人が多く通る道の近くにいることから、魔物はその種族の中でも大きめの個体であった。
そうでなければ人の近くに近寄ってこない。
魔物は連携をとって攻撃するかと考え、そのときは二分にして剣士一人が一匹を受け持つつもりであった。
だがその必要はなかった。
片方のスナイパーが突進したためである。
「なんとも間抜けな魔物だな」
「これならただ図体がでかい蜘蛛だ」
呆れたように、冒険者二人がスナイパーの相手をする。
勝つのは簡単だが相手は攻撃力が強いので、セオリーとして脚を一本ずつ斬ってなくしていく。
とても余裕そうである。
「やっぱ出番はなさそうだ。レッグピアススナイパーがいなくなってから、格段と弱くなったなぁ」
危うくなったら投擲武器で掩護するために、待機していた冒険者が言う。
この地域のスナイパー達は単体ではそこまで強くなく、群れて連携を組むことから脅威とされていた。
だがその統率者として君臨していたレッグピアススナイパーが倒され、まとめるものがいなくなった。
遣えていた蜘蛛達は散り散りとなり、次の統率者となる個体は現れることはなかった。
これは太古の龍の逆鱗に触れてしまったことが原因と思われる。
リュークを命に関わらせてしまったスナイパー達に、太古の龍が睨みをきかせているのを知っているからだ。
そんな太古の龍に関する裏事情を思い出し、余裕そうなので馬車の様子の確認の為に魔力探知をする。
すると近いところで魔物の反応があった。
暇そうに待機している冒険者の名前を呼び、反応があったことを知らせる。
祭り以外では見かけることが少なかった、獣人の冒険者だ。
五感が優れていることから大体の場所を伝えると、岩の後ろにいることを直ぐに突き止めた。
「どうしますか?」
「魔力の質からして、同じスナイパーなんだよな? 加勢しそうな感じがするし、俺らで倒しに行くか。あの二人はもう終わりそうだし。というかちょうど終わったか」
「おーい」と呼びかけて、もう一匹いることを伝えた。
毒をもらっておらず、怪我もない。
魔石の剥ぎ取りをするということで、私達二人だけで行くことになった。
隠れているスナイパーに近づくと、当然だが逃げていこうとした。
投げナイフで追撃しようとするのを止める。
「私がやります」
毒を持っているので、投げたナイフの処理が面倒となる。
戦闘前にぼやいていたことを思い出して、適当にぶつぶつと詠唱を唱える振りをする。
内容はそれっぽいことを言っただけである。
そうして詠唱は適当で魔力操作だけで発動した風魔法は、敵の腹部を深く切ることとなった。
逃げる脚は力が抜け、地面に倒れる。
こうして仲間意識を発揮して連携をとろうとした魔物は、一撃で倒された。




