一通の手紙
その後、スノエおばあちゃん、エリス、ニト先輩、門番さん達など、様々な人に心配された。
私とリュークのことは、公爵様の部下から聞かされてはいたらしい。
だが戦闘で怪我をしたということも聞いて、皆会って口々に心配し、そして怒られた。
ぐっすりと眠った翌日からは大変であった。
リュークのことを聞いて訪ねて来る者多数だったのだ。
薬屋の営業は休まざるを得なかった。
次の日からは営業出来た。
どうやら公爵が何か手を打ってくれたようだ。
べリュスヌースからあまり公爵家には頼らないようにと言われたことは、既に守れていなかった。
おばあちゃんからの罰で暫く調合に専念してから、冒険者ギルドへ行った。
従魔の登録のためである。
記入をし、従魔の契約をしているか確かめられた。
その契約に詳しいものは職員にはおらず、別物の魔法であることは見破られなかった。
従魔と示すものを身に着けなければならないと言われた。
規則であるらしい。
一目で分かる首輪を勧められたが、アンクレットにした。
首輪の選択はありえなかった。
本当は従魔の関係となっていることも嫌である。
私とリュークが対等な存在であることを、事情を知らない人には分からないし理解出来ないので仕方のないことだが。
リュークが気にしていないことが救いである。
試験が終わってお昼寝の時間だと、寝ていたことはよろしくないが。
都合よくアンクレットはなかったことから、職人に作ってもらい、それを取りに行くときに事件は起きた。
「いい天気だね」
「ガウー」
晴れ晴れとした日だっあので呑気に歩いていると、豪華な服を着た人に絡まれたのだ。
どうやら商人らしく、リュークを譲れと言われた。
勿論断った。
そしたら大通りにもかかわらず、商人の護衛の人達にリュークが無理矢理連れていかれそうになった。
ニ、三人の弱い護衛だったので、リュークだけで難なく対処していたが。
だがそれがいけなかった。
リュークは植物魔法を使った。
それを街の人達に見られ、噂として広まる。
そしてその噂を聞いて、小悪党な商人以上の者達が来た。
「落ち着き始めたので、もう良いと思ったのですけどね」
「セスティームの住民限定でならな。公爵や太古の龍の影響は街の住民にしか効果はない。だから街の外の人達に関してはしょうがないことだ」
ネオサスさんと話す私ではあるが、どこぞの街の裏を牛耳る大柄の人を縛っている最中である。
他にも床の上には多くの人が縛られ転がっている。
貴族でさえもリュークのことを狙ってくるのだから、私は公爵家に頼る他なかった。
そうなるようにさせられた節もあるが。
そのせいで私は一時公爵様の部下のように働かされている状態である。
公爵様は子供の私でも遠慮しなかった。
ちなみにその間リュークはあまりにも狙われるので、母親のべリュスヌースのところに避難してもらっている。
『思っていた以上に頭の悪い奴らは多かったようであるの。どれ、我が叩き潰してくれる』
怒り心頭のべリュスヌースを留めるのは、とても肝が冷えた。
馬車馬のように働かされている内に、あっという間に時は過ぎた。
とある情報と引き換えにするまでは、本当にそうであった。
途中からだんだんとご子息の護衛をする回数が多くなり、このままでは公爵家に仕えることになる。
気のせいではない一つの未来になっていきそうで、私の危機感は凄かった。
当主にどこかの令嬢だと疑われ、それを証明するためにドレスをきて舞踏会での護衛をしろというおかしな命令をできるものなら断っておけば良かったと、今なら分かる。
そこからずるずると言葉巧みに言われて、護衛などを断れなくなったのだ。
きっと当主は私が令嬢ではないことは分かっていた。
ただ面白がっていたのと、ご子息の護衛として欲しかったのだ。
一言ではとても言い表せないあの性格から、私はそうだと確信している。
付け足しとなるが、私が提供した情報は前世の知識である。
前世の記憶をもっていることは明かしていない。
治癒の魔法を発動させるときの、効率的な方法として伝えたからである。
私の無属性の治癒の魔法だが、学校の授業で習った人体の構造などを知っていることで、治癒の速度は速い。
体の働きを活性化させる魔法の効果は同じであるので、無駄が省かれるのだ。
その結果、消費魔力が少なくそして効率が良くなる。
そのことを自身の顔をフードで隠していた理由を探られる中で提供した。
より興味を引かれてなんとか逃げる日々となるが、それ以外に価値のあるものを私はもっていなかったのだ。
なるべく不自然なものではないように、薬屋関係で誤魔化せる内容にはした。
その情報をスノエおばあちゃんに聞かれてもいいように、話すことにはなったが。
「一度手放されただけで、余計に目をつけられたんじゃないかい?」
「そ、そんなことない……はず」
「ガウー……」
リュークもおばあちゃんの意見と同じのようだ。
項垂れる私に、公爵家の部下となるのに賛成なおばあちゃんが「別にいいと思うがねえ」と言う。
「仕えることになったら、世界を見る私の夢は叶わないよ」
部下になったら忙しいことは体験済みで分かっている。
公爵様にはお世話になった恩義は感じている。
だがそれとこれとは話は別である。
リュークも世界を見たいと感じてくれているので、私は私の意思を貫き通す。
公爵様にはっきりとそのことを告げている。
それでも部下にと誘われるのは変わりはないが、魔物がいて危険なことで私の夢に反対なおばあちゃんはそうではない。
だが条件を出された。
スノエおばあちゃんは公爵様に次いでの曲者である。
どんな条件かと身を構えるが、冒険者ランクがCになるまで許しは出さないというだけであった。
現在の私のランクはDである。
Cランクとなるには、依頼を何個もこなすだけでなく試験があるので壁はある。
だが高いものではない。
つまり、おばあちゃんはそれほど強く反対している訳ではない。
やる気十分となった私は薬屋で働く傍ら冒険者として熱心に活動し、半年もかからずCランク昇格した。
私はただ公爵家で働いているだけではなかったからである。
魔物との戦闘の中で闇魔法を使えるようになったり、部下の方から魔法のことで意見を言い合ったりしている。
太古の龍からの手ほどきも数回だけだが受けているので、昔よりも成長はしているのだ。
リュークとの連携も取れている。
契約をして、声に出さずともどう動くかは手にとるように分かる。
安心して背中を任せるようになっていた。
お世話になった多くの人達のために、私は直ぐには街から出発はせずにたくさんの恩返しをした。
街を出ると言うと、応援の言葉やこれまでのありがとうの気持ちを伝えられる。
きっと、ここで暮らしていても幸せであろう。
現に幸せを感じている。
だがそうしないのは、叶えたい夢があるのと母がいないから。
私は母のことを思い出して寂しくなった。
それを察して、リュークが寄り添ってくれた。
暫くそのままでいると、スノエおばあちゃんが私達を見つけて一通の手紙を私に渡した。
私はその差出人を見て、目を輝かせる。
それは母からの手紙だった。




