今一度の後悔をして
「貴重なものを見させてもらって、つい長話となってしまった。君と小龍、そして龍の戦闘はとても見惚れるものだったからな」
公爵様の上げる部分の話が終わった。
半分以上の内容が頭には入らなかった。
ここからが下げの部分。
悲観になりながら、言葉を待つ。
……が、私が想像していた展開にはならなかった。
公爵様は部下に街へと帰るための指示を出している。
話は終わったとばかりの雰囲気だが、私はそれで終わって欲しくなかった。
何か言われるのも嫌だが、それは一番マシなことだ。
私がやってしまったことに、何もお咎めなしという訳ではないだろう。
暗黙の了解を破ったことはまだいいだろう。
正式なものではないのだから。
だが、私は公爵様の部下と交戦をした。
命のやり取りがあったものではなかったが、これは公爵家と敵対をするということではないのだろうか。
重く考えすぎかもしれないが、貴族相手だ。
自分がしてしまったことを思い返して、今一度後悔をする。
申し開きをしよう。
部下の静止を押しのけてここまで来たことは、公爵様は分かっているだろう。
ワットスキバー様は切れ者であると、スノエおばあちゃんが言っていた。
そんな方が何も言わないのには、何か意図があるに違いない。
未だ跪いていた状態から立つ。
最初に公爵様へと行くと護衛から警戒されるだけなので、集団から少し離れていた女性に近づく。
白を基調とした服装で、儀式を行った人だろう。
水魔法の使い手でもあって、健診をしてくれた優しそうな雰囲気の女性だ。
「あ、あの」
「はい。あら、あなた顔色悪いわ。あれから体調が悪くなってしまったの?」
顔色が悪いのは精神的なものが体に現れただけである。
大丈夫だと伝えるが、「無理しなくていいのよ」と言われる。
違う。
そうではないのだ。
話を聞いてくれるのは、あれこれと至れ尽くせりされた後だった。
「まあ、そうだったの。大人びているけれど、結構ヤンチャなところがあるのね。それで、どうするのですか、ワットスキバー様」
今気付いたが、公爵様が話を聞いていたらしい。
慌ててまた跪こうとするが「体調が悪いのだからそんなことはしては駄目」と、力強く阻止された。
私はしてしまったことを、全て吐露してしまった。
今思えば、そうするように話が誘導されていた気がする。
自分だけに罰が下るのはいいが、スノエおばあちゃん達に迷惑はかけたくないのだ。
「君は子供だ。やってしまったことの後処理は大人がすることだが……」
「私がしてしまったことです。子供ですが、何か出来ることならなんでもやります」
大人という言葉に、スノエおばあちゃんが含まれていることに違いない。
私の言葉に、公爵様は「うーん」と唸る。
「君が周りに迷惑をかけたくないということは分かった。何か罰のようなものを与えないと、気分は晴れないということも。
なら、こうはどうだろうか。今回のことは私に貸し、ということで――――」
『そこまでにしておけ、坊や』
言葉を発するだけで、体が重くなるようだった。
いるだけで畏怖させる存在の太古の龍が言ったが、側にリューが元気そうにいて空気が少し和らいだ。
『クレディアは我が息子の良き友であり家族のような存在。そして今回のことは我が迷惑をかけた結果、起こったことよ。つまり我の責任と言える』
「いえ、太古の龍よ。そんなことは……」
『そんなことあるからこう言っておる。だからクレディアの自由を縛ってやるな。坊やが考えていることは大体は分かるのだぞ』
「……」
公爵様は口を閉ざした。
笑みを浮かべているが、内心どう思っているかは伺えない。
「分かりました」
その言葉を出すまでにあまり時間はかからなかった。
そして「対価として鱗を数枚頂きたい」と言う。
太古の龍は渋ることなく了承した。
あっという間に、私の問題がなくなった。
だがその問題を太古の龍に任せっきりとは出来なかった。
どうしたらいいのだろうと考えていると、太古の龍が『あの不届き者の成れの果てをあげればよい』と提案した。
「成れの果て?」
「ガウガウ」
リューの示す方向を見て、レッグピアススナイパーの脚、その遣い蜘蛛だと分かった。
確かにあれなら、詫びとなるだろう。
私とリューが切断した脚や遣い蜘蛛の素材はかなりの量がある。
脚に関しては魔法の耐性があるようだし、高級品ではないだろうか。
保存の魔法をかければ、魔力となって脚が消えてしまうこともない。
『これもついでにもらっていくと良い。大部分は潰れてはいるがな』
レッグピアススナイパーの上に乗っていた石を魔法でどかして言う。
石がなくなったことで、グチャグチャな状態を直視してしまった。
護衛達が叫ぶ声を聞いて、同じ気持ちの人はいっぱいいるんだと知れた。




