レッグピアススナイパー
公爵様の部下相手に、あんな仕打ちをしてしまって良かったのか。
若干キレてしまって遠慮しないと、凍らせたり暗黙の了解を破って森に入ってしまった。
冷静になった今後悔しながらも、今はリューに追いつくことだと切り替える。
足止めで距離がだいぶ離れてしまっただろう。
森ということで、最大速度で走れないにジレジレと感じながら森を駆け抜ける。
何体か魔物と出会うが、交戦は避けた。
飛び越えたり横をすり抜けたりと何回か繰り返す。
通じなくなってきたころには森の中間付近の深さのころだった。
それでも魔法を発動させて傷を負わせ、無理矢理突破する。
数も単体ではなくなってきたので、多すぎるときは迂回しながら進んでいく。
そうしていくと、戦闘中のリューの姿が見えた。
植物の蔦や根を操って、優勢に戦っている。
私は巻き込まれないよう、中距離から魔法で魔物を倒していく。
あっという間に生きている魔物がいなくなった。
戦闘が終わると、申し訳なさそうなリューがいた。
きっと私と同じで、冷静になって今後悔しているのだろうなと思う。
それでも会いたいからこうして森にいるのは分かっている。
私は眉を下げて笑って、「行こう」と声をかけた。
リューは嬉しそうに「ガウっ!」と返事をした。
私とリューが住んでいた家にある辺りの森の深さまで来た。
魔力探知で見ると、太古の龍の大きすぎる魔力の反応と比較すると点々と見えてしまう魔力があった。
動きはないようである。
これは会ってくれるということなのか。
未だ儀式中なのか。
色々思うところはあるが、進んでいく。
そして、そんな中蜘蛛の魔物と多く遭遇した。
「とても嫌な予感がする」
「ガウー」
魔力の節約のためにも、短剣を用いながら始末する。
杖の方が練習しているので好きだが、持っているのは短剣のみだ。
なんでこんな装備で来てしまったのだろう。
近づいてくる魔物の大きめな魔力の反応を感じて思った。
逃げようとして遣いの蜘蛛を蹴散らすが、数が多い。
ついに囲まれるぐらいになってしまった。
そして、親玉のお出ましである。
それは巨大だった。
体は黒く、脚が十六本。
脚先はどんなものでも貫いてしまうと思うほど鋭利だ。
レッグピアススナイパー
この巨大蜘蛛の魔物の名前だ。
きっと何人もあの脚でやすやすと貫いて殺しているのだろうと思った。
私もあの脚の餌食になったら、レッグピアススナイパーの赤い目のように脚が血で染まるのだろう。
私は母から、森の二番目の強者として知っていた。
勿論一番は太古の龍だ。
とても危険な魔物と遭遇したものである。
己の不幸を恨むしかない。
いや、必然だから恨むも何もないか。
何体も遣いの蜘蛛を殺めたり、動けなくした。
その報いを負わせにきたのだから。
脚の一つが私とリューに迫る。
回りには小さな蜘蛛に囲まれているので、避けられはしない。
まず私は囲んでいる蜘蛛を近づかせないよう、風で私達に結界をはる。
普通の結界だと、直様破られそうだったからだ。
小さくても、鋭利な脚先をもっているのは変わりはない。
その間にリューは真上からの脚の攻撃を、近くに生えていた根を使って強化しつつ受け止める。
「ガウゥゥ」
「ごめん、そのまま耐えて!」
直ぐに次の魔法を練る。
中級魔法の威力の氷魔法である。
レッグピアススナイパーが様子見している間に、怪我を負わせたい。
先程発動させた風の結界で、近づく蜘蛛がバラバラとなっていくのを見届ける余裕がないまま、私は魔法を発動させる。
狙うはリューが受け止めてくれている脚だ。
一箇所に集中して狙った氷魔法は、脚を切断することに成功する。
レッグピアススナイパーからの叫び声というものはなく、ギギギギと嫌な音がした。
切断した脚からはベトベトと血が落ちた。
風の結界があることでかかることはなかったが、質や色的にかかりたくないものである。
思わず「うわぁ」と声が漏れた。
怒ったレッグピアススナイパーから、いくつもの脚から攻撃をされる。
それは敵味方に無差別だった。
風の結界であの大きな脚からの攻撃は防げない。
リューから離れすぎないように避ける。
一本の脚を容易く切断出来たので次も同じようにいくかと思ったが、そこは森で二番目の強者。
中々うまくいかないし、親玉の怒りから遣いの蜘蛛は連携を取り始める。
風の結界はレッグピアススナイパー以外の攻撃は防げるが、魔力の消耗が激しい。
いくら膨大な魔力をもっている私でも、半分をきった。
あと厄介なことに、相手は毒をもっているようだ。
脚の先に、そして時々口から噴射してくる。
リューはその毒を防いでくれている。
もし毒がかかってしまったら、そこらに転がってピクピクとしている遣い蜘蛛と同じこととなるだろう。
決して浴びないよう、必死に避けたりした。




