龍祇祭
今日は龍祇祭当日である。
ニト先輩はあれからエリスを祭りに誘った。
舞い上がっているエリスはこの機会に恋が進展しようと意気込んでいて、それが私にも発揮された。
前世でも祭りというものに馴染みがなかったので、私はうきうきで昨夜は寝るのが遅くなった。
そのせいで寝坊をしてしまい、起きたら目の前に櫛や服やらを持ったエリスがいた。
お姉ちゃん的存在であるエリスは、テキパキと私の身支度をした。
私が寝ぼけている間に素早く寝間着を脱がし、服を着せ、いつもおろしているだけの髪をセットする。
「よし、出来た。鏡で見てみて」
髪のセットの後、手鏡を渡される。
覗いてみると、リボンを使った編み込みのツインテールだった。
複雑なつくりでどうやってやったのかと驚きながら、色々な角度で見る。
「凄い……」
「えへへ、ありがとう」
「ねえ、このリボンって」
紫色である。
エリスを見ると、少し照れながら次の言葉を言った。
「今の髪の色でも似合ってるけど、紫だった髪好きだったから。だからせめてリボンで紫色を纏えたらなあって思って」
「駄目?」と私の顔を伺うエリスに「そんなことない!」と言う。
私の母も紫の髪を好いてくれていた。
多くの人にとって、髪と瞳に紫は恐れを抱くものだ。
その色を好いてくれることは嬉しいことである。
エリスは今髪に編み込まれているリボンをプレゼントしてくれるらしい。
私は祭りに行く前から、幸せな気持ちとなった。
*
龍祇祭ということで、街は人、人、人で溢れかえっていた。
人族だけでなく初めての猫の耳をした亜人の姿も見えて、祭りの人を呼ぶ効果は大きいものだった。
そんな人だかりを、子供特有の体の小ささを活かして歩く。
肩からかける鞄の中にはリューが収まっているが、重くない程度に身体強化をしているので足取りは軽やかだ。
大道芸や吟遊詩人の歌、遠くの地の珍しい品物、屋台など圧倒されるものばかりだ。
リューは鞄の中にいてもいつもと違うことは分かるようで、きょろきょろと見ている。
一応、鞄にローブに付着されていた魔法を発動させているので、鞄からはみ出ても真っ暗にしか見えない。
なので龍とは分からない。
私が変な目で見られることにはなるが。
だが今日は祭りだ。
いつも窮屈な思いをしているリューに、今日は大人しくしていてとは言わないつもりである。
「ガウー」
「あれが欲しいの?」
「ガウッ!」
喧騒に紛れるリューの声に従い、主に果物を買う。
声が周りに聞こえないよう、風魔法でリューの声を私にだけ届かせているが、範囲は小さな声だけだ。
大きな声までにすると、目に見えて魔法の風が見えてしまうからである。
なのでリューが大きな声にならないよう、素直に指示通り動く。
そうして果物を鞄の近くに持っていくと、ぱっと手からなくなる。
鞄の中で食べているだろうが、後で鞄の中身を見るのが怖いものだ。
私も目についた魔道具を買った。
そして気付いたのだが、鞄は一つでその中にはリューがいる。
「入れる場所がない」
どうしようかと立ち止まって考えていると、耳元で「ガウ〜〜!!」と大きな声がした。
魔法のせいもあって、がんがんと頭が痛いがそれよりも。
周りが「がうー?」「がうって言った?」と困惑している。
だがリューは気にした様子はなく、とある方向に行けと鞄の中で動く。
私はその場から逃げるように行くと、そこには。
「土……?」
先程の反省をしてか、とても小さな声でそうだという反応が聞こえた。
土のために私はあんな思いをしたのかとプルプルと震える。
弁明するように何かを伝える声がするので、よくよく観察するとこれは魔力が潤沢に含んでいるようだった。
リューがじっと眺めている様子から、太古の龍の魔力ではないかと推測する。
魔力の質が森で強く感じるのと同じであることが、それを裏付けた。
土の値段を聞くと、驚きの値段だった。
きっと森の深くまで潜ってとってきただろうから、その分の手間がかかっているのだろう。
手持ちのお金の三分の二は減るが、森の深くまで潜る事は私には難しいので泣く泣く買った。
そして増えてしまった荷物は邪魔となるだけなので、一旦家に帰ることにした。
魔道具は結局鞄の中にいるリューに持ってもらう。
手でベタベタになりそうだが、踏みつけられて壊れるよりはマシだ。
そうして軽やかでなくなった足取りで歩いていると、哀愁漂うイオの姿が見えた。




