心配する言葉
「星が綺麗だね」
「ガウー」
新月なので、光が弱い星も見えた。
キラキラと星は輝く。
リューが初めてセスティー厶の街で、思う存分飛び回れることを祝福しているようである。
私の色を隠す魔道具が完成したことも同時に祝っているかもしれない。
私とリューは街を散歩する。
目的もなく歩いていて知らない道も通るので、探検しているようだ。
監視者はともかく、住人にばれないようにしているので尚更。
私は子供でリューは珍しい子供の龍だからだ。
だがスリルがある散歩なので、とても楽しいものだ。
隠れたり、逃げたり、こっそり後をつけて遊んだ。
監視者にはその様子を見られているが、何もされることはない。
気にしなければ、いないのと同じだ。
「またしようね」
リューは森以外、家にいるから。
こうしてたまにだが、めいいっぱい遊ぼう。
リューは嬉しそうにした。
「……ねえ、リューは寂しくない?」
「ゥ?」と首をかしげて私を見た。
よく分かっていないときにする仕草である。
「お母さんのことだよ。会えなくて、寂しくない?」
リューは最初は捨てられたけど、太古の龍はそれを後悔していて。
けどそれを知らないリューだが、母親の龍の魔力を好んでいることから嫌いという訳ではないだろう。
「……聞かなくても分かることだね」
森で魔力の流れが変わったとき、その流れの方向へとリューは向かった。
母親の元に向かおうとした。
会いたいのに決まっているだろう。
太古の龍が面倒くさい性格をしていなければ、会うだけでなくて森で一緒に暮らしていたかもしれない。
龍の生活はリューには向いてはいないようだが、出来ないことではない。
龍祇祭で、リューの母親が子の様子を見に来る。
おばあちゃんはそれだけでなく、会っていくように仕向けるだろう。
言葉にしては聞いてはいないが、そうするはずだ。
おばあちゃんでなくても誰もがそうする。
太古の龍とリューは両者とも互いを思う気持ちがあるのだから。
そして、会った後は一緒に暮らすことになるのだろうか。
それは寂しいことだ。
互いに赤ちゃんのころから共に暮らしているから、家族で友達で相棒のような存在だ。
母親に会いたい、暮らしたい気持ちをよく知っているから止めはしないが、寂しい。
森にある家で暮らしていた母に追随してリューがいなくなってしまうことになる。
一人になったという気持ちに、どうしてもなってしまうだろう。
頬をぺろりなめたざらついた感触に、私は驚いた。
リューだ。
「わ、なに。……ふふっ、くすぐったい」
私の笑う声で静寂がなくなる。
なんだか犬みたいだ。
失礼だが、なめるのをやめないからそう思ってしまうのは仕方ないことだ。
「甘えているの? それとも……」
一人にはしないということだろうか。
まあ、そんなことは無いだろうが。
きっと私の寂しい気持ちを慰めてくれたのだろう。
変な顔をしていた自覚はある。
「帰ろっか。家に」
あの新しい家に住むニト先輩は、いつだってローブをとらなかった私を見てどう反応するだろうか。
楽しみである。
*
その場にいる人が私の姿を見てざわざわとした。
私は冒険者ギルドの掲示板の前に立ち、どの依頼を受けようかと見繕っている。
杖を見える形でもっているので、私が冒険者であることは明らかである。
だから朝の人が多い時間であることも手伝って、私のことを話している。
「……」
無言で紙を剥がし取る。
Dランクの依頼だ。
本当は一人で出来きて報酬の金額が高いことからCランクの依頼を受けたい。
だが私はEランク冒険者のことから、一つランクが上のものまでしか受けれない。
この年でだと目立つことにはなるが、早く高ランクになりたいものである。
これから時間があれば依頼の数をこなすが、薬屋の方で日々忙しい。
早くスノエおばあちゃんの目にかなう弟子が見つかって、負担を軽くしてほしいものだと思った。
「これ、お願いします」
「はい、分かりました。……クレディアさんですか?」
「そうですが」
それがどうかしましたか、という続かなかった言葉は伝わったようだ。
「ゴブリンの小集団の討伐ですね」とテキパキ受理してくれる。
「気をつけていってきてね」
受付の女性は言葉を崩して言う。
なんだかこの姿になってから、皆心配するような言葉ばかり言う。
確かに子供だから小さななりだが、今までとしていることは同じだ。
なのにニト先輩でさえも、今日出かけるときは「怪我しないようにな」と言う。
そんなにも弱そうな顔でもしているのかと考えながら、冒険者ギルドを後にする。
このときに何人かの冒険者から似たような言葉をもらった。
なんとも言えない気持ちとなったので、依頼達成の報告の際には強そうな顔をして冒険者ギルドに来た。
それでも「無事で良かった」と言われた。
冒険者の貫禄がつくようにするにはどうすればいいのか。
そう考えながら私は家に帰ることとなった。




