店番後
女性のお客さんが帰り、その後は新しくお客さんは来ることはなかった。
なのでおじいさんとお茶を飲みながら、まったりと店番をした。
そうしていると速い歩きでスノエおばあちゃんが帰ってきた。
そして早々、深い溜息をつかれた。
「……一応聞くが何か問題はなかったかい?」
私の店番を心配していたらしい感じである。
確かに私は半魔だってバレないようにと接客は今までやったことはなかった。
だが、薬の販売の接客はそう難しいことではない。
注文され、棚から薬を取り出すだけである。
おじいさんのように「いつもの処方されているもの」と言われると、こうしておばあちゃんの帰りを待ってもらうことになったが、それ以外は私一人で出来た。
話好きのお客さんが来て厄介なことになったが、ちゃんと対処することが出来た。
だから私は誇らしげに、問題はなかったこと、店番ぐらい簡単だと伝えた。
するとまた溜息をつかれることとなった。
疲れているのかと私は心配する暇もなく、おばあちゃんは座って待ってもらっていたおじいさんにテキパキと薬を出した。
そしておじいさんが店を出ていった後、「本当に何も問題はなかったのかい?」と聞かれる。
「うん。ちょっとお客さんが喧嘩してたぐらいだよ」
「それが問題というんだ」
確かに問題と言えるが、普段から起こっていることではないのだろうか。
効力が高いので回復薬を求めて冒険者はよくおばあちゃんの店に来る。
それで仲の悪い冒険者と冒険者が店でかち合うと喧嘩をするのだとエリスから聞いていた。
「そんなの、たまにしか起こらないだろう」
「でも店側からよくスノエおばあちゃんの怒鳴り声、聞こえるよ」
「それは生活習慣が悪い客に説教しているんだ」
「そうなんだ」
おばあちゃんは面倒見がいいからなと考えていると、今日は何度も聞いたカラランという音がした。
お客さんかと思って見ると、ニト先輩とエリスであった。
「どこいってんだい! この馬鹿弟子共が」
「すいません」「ごめんなさい」と言葉は違うが揃って謝った。
二人共、しょんぼりとしているが、重苦しい空気は見られない。
仲直りしたようであった。
ニト先輩がどうやって、エリスに謝ったのかとても気になるところだ。
あの薬の件、話したのだろうか。
「クレア、ごめんね。迷惑かけちゃった」
「ううん。短時間だったから、大丈夫。それよりもエリス、泣いた跡が残ってる」
私は目元へと手のひらを向けて、魔法を発動させる。
傷や病気を治したりするのには水や光属性の魔法の方がいいのだが、無属性でも体の活動を活性化させる方法で出来る。
無属性は効果や時間は劣ってしまうが、目の腫れ程度なら問題はない。
「ありがとう。私が魔法で治せれたらいいんだけど……」
エリスは水属性の魔法を使える。
だが、水を生み出すことや操作することまでの段階だ。
魔力の量から一日に練習できる回数は限られているので、ゆっくり上達していけばいいと思う。
話を変えて「どうやって仲直りした?」と詳しく、こっそり聞いてみた。
そうすると顔を真っ赤にしたので、ニト先輩は話したんだと察した。
エリスは純粋だとしみじみと感じていると、おばあちゃんは私に話があるようで接客の方をニト先輩とエリスに任せた。
そして私を部屋にと引っ張っていく。
途中、暇にしていたリューに向かってこられたのだけれど、おばあちゃんが見事に撃退していた。
二人だけで話をしたのだからだというのが理由らしい。
「結果はあとどのくらいで出るかい」
リューに聞かせられない話をするというのに心当たりがないまま部屋に入ると、おばあちゃんは早々に話を切り出した。
結果というのは、魔法陣の研究のことを言っているのだと思う。
「あと一ヶ月……と半月かな。闇魔法で色は変える手前まで出来ているけど、魔法が発動しているのを隠すのと魔道具にするのにだいたいそのぐらい。どこかで詰まると、もっとかかるかもしれないけど」
「そうかい。なら今日から時間をあげるから、急いで魔道具にするまで完成させな」
「いいの?」
今までは夜にしか出来なかったから、研究が一気に進むだろう。
遅々とした進度だったので、とてもありがたいことだ。
でも薬屋の方はいいのだろうか。
私が抜けたら、また以前のような人手不足になってしまうだろう。
そう伝えると、「このままだと強攻手段をされてしまいそうだからね」と返ってきた。
「誰に?」
「公爵のワットスキバー様にさ」
「……私が半魔だってバレたの?」
「いいや。だが、どこぞの令嬢やら亜人だとは疑われてはいる」




