店番 前編
ふらふらと飛んでいるリューを見て、私は大体のことを悟った。
「リュー、もしかしてニト先輩の場所教えたの?」
「ガゥー……」
ごめんなさい、と頭をグリグリと押し付けてくることから正解である。
エリスは多分私と同じように、ニト先輩がどこにいるのか疑問に思ったのだろう。
それで一緒にいたリューは、先輩の元に親切心で連れて行ってしまった。
先輩は私のときと同じように隠し通そうとしたのだろう。
私が見たときには調合は終わりごろの段階だった。
証拠の薬は片付けてしまっていただろう。
それで私のときにかいた恥を、その日のうちにまたかきたくなかったのだろうから、隠し通すことは可能だと口を割らなかったに違いない。
その誤魔化す際に、ニト先輩はエリスを子ども扱いしてしまったのだろう。
それでエリスはプッツンと切れてしまった。
ついこの前ようやく私が慣れてきた先輩の告白し振られて落ち込む光景。
そのときの先輩にエリスが物申し、「子どもなんだから、俺の気持ちは分かんないだろ」と言われたばかりだ。
私の想像はそう間違っていないはずだ。
これはバレたくないのて鍵をしていないこと、リューには口止めをしなかった先輩も一因がある。
その考えから悪気はなかったリューを慰めつつ、店番をするためにも調合していたものを簡単に片付けておいた。
*
店番を頼まれたのでお店側に行くと、お客さんはいなかった。
そのことにホッとする。
私は必要なこと以外は、少しでも自分が半魔だとバレないように人前には出ない。
なのでお客さんの接客はしたことがないのだ。
私一人で助けがないまま、初めての接客は荷が重い。
私はカウンターの前にある椅子があるので座り、エリスと先輩のことで物思いに沈む。
先輩はエリスをいつまで子ども扱いするのだろうか、という内容についてである。
最近はエリスが成長期である。
まあだからといって、先輩からしたら「ちょっと背が伸びたなあ」と言われて終わるものではあるが。
それでもエリスの「子ども扱いしないで」という意見を尊重してほしい。
エリスの恋を応援しているがための、私の贔屓目である言葉ではあるが。
だがニト先輩は幼いエリスの頃を知っているから、子ども扱いになってしまうのだろうとは理解している。
エリスは私と同じ八歳でおばあちゃんの弟子になったが、薬学に興味があったエリスはそれ以前からおばあちゃんの元に通っていたらしい。
そのころのエリスを既に弟子であったニト先輩はよく相手をしてくれたのだとか。
「教育に悪くても、ケンカするぐらいならエリスに話してしまえば良かったのに」
ケンカする原因の一つであろう件の薬の調合は、隠し通せるものではないだろう。
材料の処理に手前がかかって時間がかかる調合なので、それを疑問に思うってしまう。
男の手でするというなら男の弟子が増えれば別だが、見込みがありそうな人はいないということでないらしいので。
そこまで考え、私は重要なことに気付いた。
先程私は教育に悪いと言ったが、その教育に悪いことをニト先輩が言った『強壮剤』の言葉で理解してしまった。
私と同じ年頃の普通の子どもであったら、一から説明しなければならないことを、だ。
「もしそういうことに興味があるって思われたら、どうしよう……」
私の場合は前世の記憶があったから知識としては知っていたが、それをニト先輩が知っている訳ではない。
エリスの恋心に全く気付いていないその鈍感さが、私か恐れていることにも働くことを熱心に願っているとカラランと音がした。
お客さんである。
そのお客さんは見慣れない私の姿を見て、店が間違っていないか一回店を出てまた入って来た。
その際カラランの音がうるさかった。
「ここ、スノエさんの薬屋で合ってるか?」
「はい。合っていますよ」
私の顔はフードで隠れているので、明るい声を出すように努めて言う。
お客さんはジロジロと見ながら、回復薬を注文した。
私は棚から一つ取り、代金と貰ってから渡す。
そうしてお客さんは店内を見回し、他に誰もいないことを確認してから私に話かける。
「君はスノエさんの新しいの弟子か? 冒険者もやっている、噂の魔法使いの?」
噂の、と言われて認めたくはなかったが肯定する。
私は冒険者として依頼をこなしている内に、FランクからEランクとなった。
そうして森の魔物に関する依頼を受けるものれるものが増えたが、何も支障はないので今まで通りの感覚でやっていた。
だが顔を隠した子どもの魔法使いがソロでいる、ということで元々あった噂にその内容が増えてしまった。
そのせいで興味をもたれて、「フードとって顔見せて」とちょっかいを出す人がいて、面倒になっている。




