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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
セスティームの町

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少女の監視者 ※別視点

 それは程度の低い勝負になるだろうと思っていた。  

 十にも満たない少年と少女のものであるから、当たり前のことではあるが。


 少年の方はまだその年齢にしては良い腕前だと思うが、少女の方は駄目だ。

 木剣をもつ筋力が足りていない。

 持っているだけでもつらいのではないだろうか。



 勝負は少年の方が勝つと予想していた。

 考えて当然のものであった。

 ただそれは魔法なしの予想だ。

 魔法が使えるらしい少女が、負けたくないと魔法を使う可能性がある。


「瞳に映さぬ刃は一路に駆ける。

 触れることを許さない風は、私の要求を聴き入れ切り刻む」


 風魔法の詠唱をして、いつでも発動できるようにして念の為に備える。

 もしそうなったとき、どれほどの魔法を扱えるのかは知らないが目の前で怪我が起こってならない。

 こうして監視をしている身ではあるが、民を第一に考えるあの御方なら許してくれるだろう。



 *


 少女と少年の勝負が始まった。

 直ぐに決着がつくだろうと思いつつ、眺める。


 結果はある意味予想通りであった。

 想像していたものとは違ったが。



 少年はまっすぐに少女の元へ行き、木剣を振り下した。

 少女はそれに対応するために、地面に切っ先を置いていた木剣をようやく持ち上げ対応する。


 これは勝負あったなと思った。

 少女はただでさえ力で負けているのだ。

 上から下にへと振り下ろす少年に力負けすると考えるのは当然だ。


 だが、そうはならなかった。


 少女は少年に勝った。

 私は少女が剣術に覚えがあるとは思ってはいなかったが、そうではなかった。

 少女は迫りくる木剣を受け流した。


 受け流すということは難しいことだ。

 例え少年の見切りやすいものであっても。

 風の魔法使いである私でも、同僚からそう聞いて知っている。


 偶然ではないだろう。

 迷いは見てとれず、多少木剣の重さにふらつきながらも狙ってやっていた。



 そのことから私は剣の腕前に感心していた。

 だからその後の少年に向ける木剣の勢いを危険だと判断するのに遅れた。


 そんな自分に舌打ちをしつつ、構築済みである魔法を発動する。

 木剣を対象にしているが、弾きかえす前に木剣が少年に到達する方が速いだろう。

 後押しするように魔力を込めたが、間に合わない。



 だが、またしてもその考えは否定されることとなった。

 少女はピタリと木剣を止めたのだ。

 魔法で。

 体内の膨大な魔力を、自身の体の負担にならない程度を一瞬で身体強化をしてのけた。


 驚愕で、思わず目を見開く。

 それでも制御できるようにと魔力の繋がりを切っていなかった魔法を離散させたことは忘れなかった。



 あの少女は本当に見た目通りの者なのか。

 私は魔法一筋であるので、身体強化は数回かやったことがあるぐらいだ。

 だが私はあんな一瞬ですることはできなかった。


 身体強化は詠唱なしでもできる唯一の魔法である。

 そのため人によって得意不得意が分かれやすい魔法である。


 詠唱が必要ないということは、補助なしの自身だけで魔法を構築することだ。

 才能がある者は練習する前から無意識に身体強化していたということがある。

 逆に詠唱に慣れきっている者は身体強化出来ないということがある。

 それぐらい差ができる。


 私は身体強化を苦手とする部類であったが、それでも一瞬でとなると一握りの者でしかすることは出来ない。

 それをあの少女がするとは。

 実は有名な魔法使いか武術の達人と言われ方が納得できる。 


 そう疑ってしまうのは、あの少女がいつもフードを被り顔を隠しているからだろう。

 なんとか顔を確認するということが出来ないものか。

 これまで何度も考えてきたことを繰り返していると、少女が私の方向へ向いた。



「まさか、」


 そのまさかだった。

 少女は一つ、礼をした。

 遠く距離がある私に対してだ。


 魔法を少女の木剣に向けて発動させた。

 ただそれは到達する前にある程度の距離を空けて、離散させたはずだ。

 それを気付かれた。


 私は自身の頬を引きつらせてしまった。

 ヒクリと動いてしまうのを、少女は遠い距離のおかげで変とは思わなかったらしい。

 少年の友達から自身の荷物を受け取り家に帰っていった。



「……報告をしないと」


 公爵様に。 


 普通の少女ではないとは気付いていた。

 冒険者として依頼をこなすために森へと行く少女を尾行するのに、毎回気付かれていたからだ。

 身を隠しても魔力からこちらのことを探知される。

 なので魔力を隠す魔道具を支給されるまで、森の尾行は断念せざる負えなかった。


 そしてその後見たのは、子龍と共にいる少女の姿だ。

 目を疑うことであった。



 危険性は分かっているのだろうか。

 例え少女が世話になっている、薬屋の主人と太古の龍が知り合いだとしてもだ。

 小龍に傷がついたり連れ去られたら、街にどんな被害が出るか。


 そんなことを起こさないためにも、こうして子龍と一番仲が良く素性が腕が立つ女冒険者の娘としか分かっていない少女と小龍を監視しているのだが。


 あの少女は魔力量がとてつもなく多い。

 暴走したら、街の半分なくなってしまうほどに。



 薬屋の主人は何を考えているのだろうか。

 このことを公爵様に話せば安全で、なおかつ関係が悪くなることはなかったというのに。

 知らないところで何か話がついているのかも知れないが、それでも私が不満を抱いているのには変わりはない。


 魔力量の危険性から、少女を公爵家が囲い込むことが一番楽で安全だ。

 そして小龍は親元か森に返してしまえば一件落着。

 それが駄目なら小龍も公爵家が世話をするということにしてしまえばいい。


 それが出来ないのは薬屋が保護者になっているからだ。

 だからこんな回りくどく監視をしなくてはならない。




「監視対象は家にまで帰ったぞ」


 声をかけたのは別の場所から同じく監視していた男性である。

 少女を家に入るのを見届け、戻ってきたのだろう。


「対象に顔は覚えられてしまったと思う?」

「さあな。だがそこまで気にした様子ではなかった」

「そう。……あの子、とんでもないわね」

「今に知ったことではないだろ」

「確かにそうね」


 私が少女を楽観視していて、男がそうでなかったということだろう。


 そうして、少女の監視をしていたとある女性と男性は報告のためにその場から立ち去った。

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