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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
セスティームの町

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勝負だ! 後編

 イオから受け取った木剣を、試しに上から下へと真っ直ぐ振ってみた。

 空気を斬る音はしない。

 その代わりに地面と衝突して打ち付ける音がした。


「お前、剣もったの初めてか?」

「初めてではないよ。でも私が扱うのは短剣だから……」


 私は魔法以外には、接近戦で短剣と杖を時々武器とする。

 普通の剣の場合だと、私は振り回される形でしか振れないからだ。

 体の大きさと筋肉量が足りていないからである。

 足腰は森を歩き回っているので多少はいいが、腕とかは全く自信がない。

 私は魔法で直ぐに身体強化をしてしまうので、筋肉がつかないのだ。

 強化して長時間筋肉がつくようなことをすれば違ったかもしれないが、そのような場面は滅多にない。

 母に魔法なしの条件にされて打ち合ったときぐらいだ。



「ねえ、家まで短剣か杖を取りに帰ったら駄目?」


 手荷物にならないよう短剣は家に、杖は携帯できる小さな大きさをもっている。

 そちらの方が慣れているのでそうさせてほしいのだが、勝負から逃げるかもしれないということで駄目だった。

 とことん逃げさせたくなく、勝負に勝ちたいらしい。

 イオは私に勝てそうなことで、口角が少し上がっている。

 そんな勝負に勝ったとしても、それは嬉しいのか私には分からないものだが。


 ただそのイオに有利な勝負なので、私は条件を出した。

 もう次からは勝負をしかけてこないでということだ。

 毎回会うたびに「勝負だ!」と挑まれるのは迷惑なのだ。


 イオは負けるつもりはないので簡単に了承した。

 私は何回も何回も嘘偽りがないかを確かめておく。 

 あとでやっぱりなしと言われるのを防ぐためだ。


 そんな条件を出したので、私は勿論勝算をもっている。

「魔法を使うのはなしだからな」と言われるが、それでもだ。



 *


「準備はいいー?」と高い声で審判が言った。

「怪我しないでね」「男気見せろー」という内容様々の声も聞こえる。


「手加減はしないからな」

「うん、別にいいよ」


 そのほうが私にとっては都合がいい。

 勝てる確率がより上がる。



 私とイオは六歩離れた位置で各自木剣を構える。

 イオは正面に、私は剣先を地面に置いた状態だ。

 私のは構えの形とは言えないかもしれないが、重いので長く持ち上げ続けられないのだ。

 広い目で見てほしい。


「じゃあ、始めるよー」


 審判の開始の合図はもうすぐだった。

 勝つ勝算はもってはいるが、それは確実なものではない。


 私達から騒ぐ音はなくなり、公園で他の者が遊ぶ声が遠くから聞こえるだけになる。

 自分の鼓動がいつもより速くなっているのを感じ取りながら、合図を待つ。

 イオは私と違い、うずうずとしていた。


「よーい」


 小さな風の音でさえも聞き取れる。

 さわさわと葉が鳴っていて、母との模擬戦のときみたいだった。


「はじめー」


 なんとも気が抜ける合図だった。

 イオはこれまでの付き合いから予想していたのか、気にすることなく剣で交わるだあろう距離まで踏み込んでくる。


 相手は頭上にまで木剣を上げていた。

 そしてそれを振り下ろす。


 私はそれをすでに地面との接触はしていない、持ち上げている木剣で対応する。

 ここだ、というときに木剣同士が交わる。

 交わりは一瞬だった。


 力と力の勝負では私の方が不利である。

 私はイオの木剣を受け流した。



 宣言通り手加減しずに随分と力を入れていたようだ。

 イオの体勢は崩れ、予想外のことに「うわっ」と声が漏れている。


 私はそのチャンスを逃しはしない。

 今度は私が木剣を振り下ろす番だった。

 重力に従うがままの行動で、私はこれはやばいのではないのかという危機感をもった。

 勝ち負けのものではない。

 この勢いのある木剣を止めるだけの力がないので、このままだとイオの頭をかち割ってしまう。


 表現は大げさなものだが、流石に私の力でも脳に衝撃がいってしまうだろう。

 私は咄嗟の判断で魔法を使い、衝突寸前でピタリと木剣を止めた。



 ふわりとちょうど風が吹いて、緊張の糸が切れた。

 それと同時に手に力が抜け、ゴンとイオの頭の上に木剣が落ちた。


「いってぇー!」と叫ぶ声を横目に、「危なかった」と溜息をつく。

 本当に危なかった。

 子供同士のお遊びのような勝負で死人が出るところであった。



 私は魔力を辿ってとある人物に視線を送った。

 その人物は女性で、私とイオの様子を見ていた。


 私は一つ礼をした。

 どうやら私達のことを心配してくれていたらしい。

 危なくなったら止めれるように、風魔法をいつでも発動できるようにしていた。


 私自身が危ないだと思った攻撃を女性も同じように思ったようだった。

 遠く離れた距離からだと一歩間に合わなかったが、私のもつ木剣に魔法をぶつけるつもりだったのだと魔力の痕跡から分かった。

 私がぎりぎりで止めれたことから、慌てて攻撃魔法であった風を離散させたようだが。


 私が礼したことで、その女性はにこりとした。

 この世界は礼をする習慣はあるようなので、意味が伝わって良かった。



「ねえ。自分が言ったこと、ちゃんと守ってね」


 頭を押さえているイオに向き直り言うと、「……ああ」と小さく言った。

 私は邪魔になるからと預けていた荷物を返してもらい、ようやく家に帰ることができた。


 お昼休憩はとっくに終わっていたことから、スノエおばあちゃんが待ち構えていて怒られることになった。

 だが「本は買えたかい?」と尋ねられ「うん」と言うと、「良かったね」と頭を撫でられた。



 こうして私は闇魔法を自分のものにする前進をすることができた。

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