そうして、本を買いに行くことにした
あれから兎に関するミーアさんとやり取りを終えた後、一度薬屋でもある家に一度帰った。
そんなに時間はかからないと思うが、依頼の報告などの間の時間にリューが隠れることで窮屈な思いをしないようにするためだ。
あと意図せず殺してしまったアルミラージを置くことも。
自分で思っていた以上に高級肉として知られていたようで、その場にいたエリスも食べたいということから今夜はエリスをいれての夕食となりそうだった。
そうしてミーアさんの腕に収まっている兎を、噛まれながらもなんとか自分で抱え、まずは兎の飼い主になる家へ向かった。
そこで驚いたのが、依頼主がイオの友人である女の子であったことだ。
ミーアさんに咳払いをされるまで話は盛り上がってしまい、「また今度話そうね」と約束し別れた。
だが兎を渡して話すだけ話して去ろうとして、依頼主からのサインをしてもらうのを忘れそうになった。
呆れられながらも、私は冒険者ギルドで依頼達成の報告をした。
受付嬢は「早かったですね」と言った。
高ランクのミーアさんに手伝ってもらったことがあったので、規則としては問題ないのだが背徳感があった。
依頼の報酬は難度の低い依頼だったため少ないものだったが、道中倒した魔物の数が多かったことから魔石を売ることでまあまあまとまったお金を手に入れた。
だが魔法陣の本を買うぐらいのお金は調べたところ高価なものなので、それだけではスノエおばあちゃん達への贈り物の分でなくなってしまうぐらいだった。
予想以上にお金を稼ぐことを甘く見ていたことで唸っていると、ミーアさんが「時間あるし、また森に行く?」と誘ってくれた。
どうやらミーアさんの実力だと暴れたりないらしい。
私も一発の魔法で沈む魔物には感じるところがあったので、その意見には賛成だった。
そういうことで、軽い昼食を食べて私達は森へ潜った。
リューは一旦家に帰ると寝ていたので、二人での戦闘だった。
剣士と魔法使いという組み合わせは母で経験していたので、即刻でつくったにしては上手くいったと思う。
連携とまではいかないが、一人で相手取るよりは効率良く魔物を狩ることができた。
ただ前衛であるミーアさんをすり抜けて、中・遠距離で私の魔法で倒しきれなかった魔物は杖や短剣でいなす事があった。
それは久しぶりなことだったので、へっぴり腰になってしまった。
ミーアさんが駆けつけるまでで初級魔法で威嚇しながらだったので何とかなった。
だがそのことが原因で「そういえばメリンダから、接近戦教えてあげてって頼まれたんだよね」と思い出さなくてもいいことを思い出させてしまった。
「実戦が一番だよね」という言葉の元、魔物の目の前に放り出されて戦わされた。
そのおかげで私は元の感覚を取り戻すことができたが、ミーアさんにはそれ以上の技術を求められる。
「もうやりたくない」「接近戦は嫌い」と駄々をこねた結果なのだが、甘い精神を叩き直す為にと魔物の集団と戦わされた途中で私は嫌々メーターが振り切れた。
もう技術とかなにそれ面倒くさいという考えで、力に任せて杖で突く。
すると無意識で身体強化を限界まで魔力で補強したせいか、魔物の体に穴が空いた。
そこでミーアさんは変なスイッチが入って厳しかったのが正気に戻った。
「才能はあるのにそんなこと言うから、無理やりにでも伸ばしたくなったんだよね」
ミーアさんは後ほど原因を自分で語る。
「魔法で精一杯ですので、ある程度の技術で十分です」
「そりゃ魔法の才能はとびきりあるからそれでもいいけど、勿体ないよ」
「性格的に向いてないのです」
「最後の穴を空けた一撃のときはスッキリしてたのに?」
「それはそれです」
ときには力の限りにぶっ飛ばしたいときもある。
魔法でだと土地が見るも無残な光景となってしまうから、こういう形でしかストレスが溜まったときはできない。
「口では言うけど、そんなことなさそうなんだけどなぁ」と呟いているが、スルーする。
少なくとも闇魔法が他の属性と同じぐらいの完成度となるまでは、やっている暇はない。
そんなこんなで、夕方になるまで魔物を狩った。
魔石やら高い値段で売れる毛皮などで、私が目立たないようにするためにもミーアさんに換金してもらうと結構な額となった。
山分けにしてお金を得た私は、閉店になるまでに急いで元々目星をつけていた物を買った。
帰宅してまだ夕食までには時間があったことからラッピングをしたところでご飯だと声をかけられる。
アルミラージの肉をメインにした夕食はと美味なものだった。
昔食べたときはただ焼くだけで一種類の料理だったが、今回は煮込んだり調味料で味付けがしてあってとても美味しい。
それはスノエおばあちゃんがいつも遠慮して好きなお酒を私の前では飲まないのだが、今日はワインを夕食に出してニト先輩に勧めるぐらいのものだった。
いつかこんな料理をつくれるようになりたいものだと思った。
食後お世話になっているお礼だと買った品を渡した。
そんなこと気にしなくてもいいとスノエおばあちゃんはいうが贈り物のお酒をあげると嬉しそうにしていた。
私はお酒を飲める年齢ではないのだが、人にあげる用だと言うとお店側は売ってくれた。
ニト先輩やエリスにはハンカチだ。
手触りがよいもので、「ありがとう」と笑顔で受け取ってくれた。
そしてこれだけでは物足りないかと思って、三人にはプラスでリューと共同でつくったポプリをあげた。
どの花がいいかを毎日悩み、何回も失敗して作り上げたものなので、いい匂いだと言ってくれてとても嬉しかった。
こうして私の休日は終わった。
次の日からは気を引き締めて薬屋のお手伝いに精を出し、用事があるということでスノエおばあちゃんが一日留守にするときはいつも以上に張り切り頑張って働いた。
そして薬の調合で魔力を使うものは安定して良い品質のものができるようになったので私の担当となり、役に立てているという実感をもてた。
そんな日々を何日か過ごし、今日はお昼にいつもより長い時間の休憩をとれたことから、魔法陣に関する本を買いに行くことにした。




