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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
セスティームの町

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ミーアさんと依頼 後編

 植物が意思を持ったように動いた。

 もう何度も見て慣れた光景で、あっという間に兎の胴体をぐるりぐるりと巻いてしまった。


 やった! と言わんばかりに尻尾を大きく動かすリューを褒める。

 私もこれで依頼は全て達成だと思っていると、ミーアさんが遠慮そうに私達に声をかけた。


「あー……喜んでいるところでごめんなんだけど、これ兎だけど魔物の方の兎だった」

「え」


 少しの距離が空いているのを歩みよって縮めると、額に角が生えギラリとする大きく鋭い瞳のアルミラージだった。

 自分の体に巻き付いて離れない植物から逃れようと暴れている。


「ああ、ごめんっ、そんなにがっかりしないで!」

「……いえ、ミーアさんの言葉を確かめずに安易に信じた私も悪かったので」


 でも依頼が終わったら、おばあちゃん達へのお世話になっているお礼の贈り物をゆっくり選べれると考えていたので、がっかりな気持ちは抑えれなかった。

 兎見つけるのは大変になりそうだと一つ溜息をついてしまう。ミーアさんは「頼りにならないって思われた!?」と誤解しているが、私は聞いてはいなかった。



 そんなやり取りをしている間にも、アルミラージが暴れ続けている。

 魔物だからスタミナがあり、捕まった状態から逃げたくなるのは当たり前のことだ。

 だがいくらやっても胴体に巻き付いた植物からは逃れることはできていないので、捕まえた側からだとしても哀れだと感じた。


 さて、この哀れな兎をどのようにしようか、と考える。

 目的だった動物の兎でなかったからと逃がすのには勿体ない。

 そういえば、この魔物は額の角と肉が取れるのだったな。

 母が今より幼かったころにとってきてくれて、そのときに食べたお肉の味はとても美味しかった覚えがある。


 何かを感じ取ってブルブルと震えだすアルミラージだが、安心してほしい。

 残るところなく美味しく食べてあげるから。

 お肉好きなニト先輩にお世話になっているお礼にあげる贈り物としてもいいかと、結局は食べてしまうことには変わりないことで考え込んでいると、アルミラージの震えが限界を超えたのか失神してしまった。


「……クレア」

「私のせいではないです」


 きっと、多分。

 リューもつついても動かない様子が残念なのか訴えるような目で見てくるが、違うったら違う。


「もしかして死んでるんじゃ……?」

「いや、流石にそれは」


 ない、と言おうとして、リューが首をブンブンとふったことで、私の言葉は出すことなく否定された。


「……これは責任をとって美味しく食べるしかないですね」

「元々そうするつもりだったよね?」


「高級肉だから気持ちは分かるけどなぁ」と羨ましそうにちらちらと見られたので肉は半分あげることにし、残りは私が食べたいことから今夜の夜ご飯にとスノエおばあちゃんに託すことにした。



 魔物だからいずれ血とかが魔力に還っていくが、それまで待っていると肉の鮮度が悪くなる。

 そのためまずは血抜きをしようと剥ぎ取り用のナイフを手に持って近づくと、死んでしまったアルミラージに駆け寄る白いモフモフが二つあった。


 一回り小さい兎だった。

 親子だったのか、アルミラージの前で守るようにして私の前に立ちはだかっていて、キューキューと鳴く様子は私の罪悪感を強く刺激する。


 だがそれはリューが新たな遊び相手を見つけたことで追いかけるまでだった。


「え、あ……。リュー駄目!」


 精神的ダメージがあって止めることは遅かった。

 その兎は魔物ではなく動物だ。

 依頼達成のためにも無事捕まえなければ。


「ガウー! ……ゥ!?」

「はい、捕まえた」


 幸い、ミーアさんが直ぐ捕まえてくれた。

 首の辺りを掴まれていて、ぶらぶら揺れている。

 そして兎二匹も同様に捕獲したようで、守ってくれたことが分かったのか腕に抱えこまれているだけだが逃げる様子はなかった。


「すいません、ミーアさん。ありがとうございます」

「全然いーよ。私は頼りになるからね!」


 溜息の誤解したままだったのでミーアさんがアピールをしているが、そんなことを知らないクレアは話を流した。



「このアルミラージは動物だったのが魔物化しちゃったんだろうね」

「魔物化ですか?」

「空気中の魔力が多かったら、魔物に変異してしまうことがあるの。だから新たに発生する魔物が多くなって依頼の数が多くなったのかな?」


 なるほどと思い、ふと森で起こった魔力の不自然な流れのことを思い出した。

 その流れが起こったのは一週間前で、魔物が増えはじめたのも一週間前だって冒険者のおじさんが言っていた。


 何か関係してそうなものだが、そのことはおばあちゃんに頼んである。

 原因を知っている者に心当たりがあると言っていたが、その人に会うには距離が離れているのだろうか。

 まだおばあちゃんからは何も聞いていないので、会っていないのだろうとは思う。


 まあそのうちおばあちゃんが話してくれるだろうと結論づけ、私はミーアさんが抱えている兎に癒やされようと手を伸ばすが噛まれた。

「この子達の親を殺しちゃったから仕方ないよ」ともふもふを味わいながら慰められたので、捻くれてアルミラージの肉はあげないと言うと慌てた様子になって面白かった。

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