エリスの母
スノエおばあちゃんに見守られながらのエリスとの話は、終わったときには日が落ちていた。
森の中にある家で育ったことや魔法のことなどの私のことをあれから色々と話していたせいだ。
そうして今日起こったことプラス遅くなったのを心配して、エリスの親が迎えに来ていた。
そこには父であるネオサスさんだけでなく、母もいた。
「エリスが迷惑をかけてしまったようで、ごめんなさいね」
エリスは母親に似たことが直ぐに分かるぐらいの顔立ちをしていた。
とどこまで事情を知っているのか分からないので「そんなことないです」と言うと、少し困った顔をしていた。
どうしたのだろうと思って首を少し傾けると、どうやら見た目のわりには利口過ぎてどう反応していいか考えたかららしい。
「大人びているとはよく言われます」
私は精神年齢が高いし、静かな環境を好む大人しい性格をしている。
自分より年上には敬語を使うので、今の私の子供姿だと違和感はあるだろう。
「もっと子供らしく振る舞ってもいいのよ。気持ちを抑圧しなくてもいいのだから」
私は元からこんな性格なのだが。
誤解を解こうとすると私と目線が合うためにしゃがまれて、「半魔だからと気にしないで」と言われて動揺した。
「エリスが話したから知った訳ではないのよ。夫から聞いていたの」
「……いつからですか?」
「七年ぐらい前からかしら。森に行ってくると言って次の日の朝になって帰ってきたから、私が問いただしたのよ」
七年ぐらい前。
思っていた以上前から知っていたらしい。
私が一歳ぐらいなときだが、そういえばそのころにネオサスさんとミーアさんが家に訪ねにきた。
「夫はあそこにいるリューちゃんのことだけで、あなたのことを話すつもりはなかったのよ。けれど何か隠し事をしていることは分かったから、全て話してって追求して……。だから、私はあたなの事情は大体分かっているつもりよ」
ニト先輩の頭にしがみついて戯れているリューだが、ネオサスさん達が連れてきてくれたのだと思い出した。
小さいころの記憶だったから、その二つは片方だけを思い出しても結びつかなかった。
「彼はモテるから……」とぼやいている独り言を聞いて、浮気か疑ったのかなと思った。
お似合いの二人だがあのときは私の母とミーアさんもいたので、疑ってしまうのは仕方がないことだし。
「私はあなたの味方よ」
心のこもった言葉だった。
私の周りには優しい人ばかりいるなと思った。
半魔だってことを知っていてエリスの母はどう思っているかと考えないようにしていたが、言葉一つで簡単に不安を溶かしてくれる。
「もちろん私だけじゃなく、家族皆そうよ。だから、悩みがあったら一人で悩まないで。いつでも助けになるわ」
涙がまた出てきそうになった。
フードを被っているから見れず分からないだろうが、俯いて顔を隠す。
そうしたら優しく抱擁され、花の香りがした。
私はもしかしたら寂しがり屋なのかもしれない。
何回も抱きしめてくれた自らの母と重ねてしまって、自分も控えめにギュッと返してしまった。
しばらく経たずに離れたが、居た堪れなくなってスノエおばあちゃんのところに逃げる。
「なんだい、おまえは意外と甘えん坊だね」
「ほら」と逃げた先でも抱擁された。
違う、そうではない。
一瞬呆けて捕まったが、甘えん坊ではないとバタバタしようとする前におばあちゃんは見越してその前に離れた。
「いいかい、クレア。次から気をつけるんだよ」
「うん。……ごめんなさい」
「怒っている訳じゃない。だがエリスだったから良かったが、他の人だとどうなるか分からない。ニトの奴はいいかもしれないが、半魔だってことは隠しておいた方がいい」
その通りだ。
私はそのことを再認識しなければならない。
半魔だと知って優しくしてくれる人はごくごく少数なのだ。
身近な人が受け入れてくれたからと調子に乗ってはいけない。
私は「分かってる」とだけ告げた。
それで半魔に関係する話は終わりだ。
この場には事情を知らないニト先輩がいるから、話が聞こえないぐらいの大きさで喋るのを意識しなければならず、ちょっと大変だった。
「話は終わったか?」
エリスを片腕で抱き上げながら、ネオサスさんが来た。
エリスの母も陽動係に自然となっていたリューとニト先輩も集まり、そうして家に帰っていった家族を私達は見送った。




