薬草取り
懐かしい風だった。
完全に同じではないが、街では味わえれない自然を感じられる。
懐かしいという思いは、森での生活ではなく母との生活に対してだ。
まだ一週間も経っていないのに、こんなにも寂しい。
森から近くの、野原での風でそう感じるほどに。
「クレディアー! こっちだよー!」
エリスの呼びかける声。
感慨に浸っていたことで足が止まっていたらしい。
私は背負うリュックを揺らしながら、駆け寄る。
「これが下級回復薬の材料になる薬草だよ」
「この辺り一面?」
「うん」
「たくさん生えてるね」
辺り一面、その薬草だらけだ。
森の中の家で住んでいたころに、本に書いてあったのとスノエおばあちゃんに教えてもらったから雑草ではないと判断できるが、何も知らなかったらそうとは限らなかったかもしれない。
「一束ぐらい、採取してみるか。冒険者ギルドに持っていく分は帰りにすればいいし」
ニト先輩に言われて、私は根っこの上をもって鎌で薬草を採取する。
冒険者になって次の日、私は弟子として薬草の採取の仕方、注意、群集の場所などについて教えてもらうことになった。
スノエおばあちゃんはいない。
今日は定休日になっていて、休んでいるということはなく薬の調合をしている。
代わりに同じ師匠の弟子で私からすると先輩であるニト先輩とエリスに教えてもらっている。
街から出て、こうして実践的にだ。
誰かに教えることも大切だというおばあちゃんの方針で、互いに真面目に学びあっている。
森から近い場所だが魔物との遭遇はない野原で生殖しているありふれた薬草なので、Fランクの冒険者が受けられる常時の依頼だ。
家の手伝いや薬屋の商品を少し運んだぐらいしか家を移ってからやれることはなかったこともあり、薬草の採取の練習だということで一束採取するという弟子らしいことをして気分は上々だ。
「クレディアちゃんも子供っぽいところがあったんだな」
「私、子供ですよ」
「そうだけど、子供にしては落ち着いた雰囲気を持っているからな。少し安心したよ」
前世の記憶があるせいで精神年齢は高校生だ。
気分が高まったりすると体につられて年相応になりはするが、それはたまにしかない。
もっと子供らしくした方がいいかと考えるが、静奈だったころの時代も今とそう変わらない気がする。
親の影響で色々と達観していたので、このままでいいかと結論を出した。
それから、森に移動することになった。
野原辺りの薬草は誰でも採取しやすい薬草で、そういうものはおばあちゃんの薬屋では買い取っているらしい。
街の子供の小遣い稼ぎにもなる薬草採取なので、だから私達は採取の仕方が特殊なものだったり希少な薬草を主に採取しにいく。
もぞりと背中で何かが動いたことで、そういえばと私は思い出す。
「リュー、そろそろいいよ」
背負っていたリュックにそう言えば、その中からリューが飛び出てきた。
「苦しかったよね。大丈夫?」
「ガゥッ」
パタパタ私の周りを一周飛んでいるのを見る限り、大丈夫そうだった。
森の中だと人目はそうないので、冒険者にさえ気をつければリューは見つからないだろう。
「元気そうだね。街だと寝てばかりいたから意外」
「俺も。昼によく寝ている分、夕食時は起きてはいるがまた寝ていたからな」
「リューは寝るのは好きだけど、遊ぶのも好きだよ」
ずっと家に閉じ込められる状態だったから窮屈で、寝るのを優先していたに違いない。
溜まっていたのもあって、今はいつも以上に元気いっぱいだ。
「気持ちは分かるけど、危なくなるようなことはしては駄目だからね」
この場所は森で、森の中の結界内という訳ではない。
魔物がいる。
注意を促すと、分かっているよと鳴き声が返ったきた。
「魔物避けをしているから、そう心配しなくてもいいと思うよ」
「森の深いところまでは行かないからな」
森には魔物がいることから、魔物を遠ざけるお香を炊いている。
そんなものがあることをさっき知って、便利だと思った。
だけど弱い魔物にしか効果がないらしいので、楽観視はできなかった。
再度私はまだはしゃいでいるリューに忠告して、止まっていた歩みを進めた。




