エピローグ
王城での戦闘は、終戦までに導いた。どうやら添島君は、魔王様に連れてきてもらったらしい。魔王様が直々に王城に乗り込んで、見事王を降伏させた。
「魔王には感謝してる。けど、その方法はどうにかならなかったのかって思うよ」
私が作り上げた魔法による魔王城からの空路は、余程過酷なものだったらしい。ネチネチと責められた。また、縛りの状態であるから仕方ないだろうが、魔王城にて滅多打ちにされたこともある。
賢者の死はそんな添島君からもたらされた。落ちた場所から離れた位置で、瓦礫に埋もれていたらしい。居場所に関しては転移によるもので、だが失敗したことで死体は見れたものでない惨状だった。だが、確かに賢者だと確認された。
新勇者招喚で見かけた、残り五人の魔法使いも死んでいたし、殺したという。荒っぽい方法だが、私と添島君が操られないためには必要なことだった。添島君は聖剣の性能で縛られなかったが、その力を解放したときでないと効果は得られない。
操ることができる魔法使いはこれで全員だと思いたい。だが、念を入れて勇者召喚の魔法陣を解析することになった。戦後、暫くしてからのことである。
「ひっ魔女よ!?」
「魔女ね、なんてこと!」
「ええと、ごめんなさい。魔女様の第一印象が恐かったそうで……悪い子ではないんですよ?」
双子姉妹と運悪く邂逅しつつ、マデリア王女が私を王城へ招いてくれる。
「うーん。人の視線が痛いね」
私がしたことを考えれば、当然のことだけど。
王城は未だ修復作業中である。見られる度、双子姉妹と同じような反応をされる。
「クレディアさん、有名になっているからね」
「幹部で魔女の称号持ちのせいか、色んな場所に行かされたからね」
主に脅し要員として。政治的なことは全然分からないため、合図をしたら威圧だこう言えとやらされた。そのせいか、ウォーデン王国での私は恐怖の権化である。半魔なこともあって、魔王様以上に恐れられていることもあった。
私、頑張っただけなのになあ……。
添島君は現在王城で暮らしているので、招く側となって案内してくれる。だが、実質は監視人だ。その強さから魔女でも抑えることができるから、と教えてくれる。
「まあ、そんなこと起こりえないけどね」
なんせ目的は勇者召喚の解析だ。当事者であるし魔法の知識もあるため、添島君とは協力関係にある。
マデリア王女と恋人関係になったというから、国同士で険悪になった場合を考えると完全な味方ではないんだけどね。ぜひとも良好な関係を結んでいて欲しいものである。ウォーデン王国は魔国ファラントに逆らえない状態と力関係ができてしまっているが、隣国なのだからいずれは手を取り合えるようになりたいものだ。
勇者召喚の解析は、古代魔法が使われているため何度も足を運ぶことになった。
縛りに関しては魂に刻むのは分かっていて分析が困難だと思われたが、原理としては契約魔法に準ずるものだった。私はリュークと結んだこともあって理解しやすく、縛ることのできる者はもういないと判明した。
繋がりがあるのだが、途中で途絶えてしまっていたのだ。これは相手の魔法使いが死んだからと考えている。
王国の優秀な魔法使いをピックアップしたり、勇者召喚を行った者の候補者と照らし合わせたりすると死亡者と合致もした。こうして危機はないと、ようやく胸を撫で下ろせたのだった。
とはいえ勇者召喚は他にも機能は盛り沢山なため、私は研究のために解析は続けていく。
「この魔法陣だと、召喚は一方通行みたいだね」
「そっか……」
「文献も一通り目を通したけど、地球へ帰還できる魔法は考えた痕跡もなかったよ。賢者が言っていたことは、やっぱり嘘だったみたい」
私は地球に未練はないが、添島君は悲しそうな表情で肩を落とす。マデリア王女は寄り添って、そのまま二人だけの世界に入っていってしまった。もしも帰れた場合など、事前に話し合っていたのだろう。
うーん、甘い雰囲気だね。二人とも奥手だからよそよそしさがありながらも、離れようとしないところとか特に。
帰還できる魔法を研究してみようか、と完全に言いそびれてしまった。まあ後でいっか。解析に集中できるし。
地球と行き来できるようになったら面白いよね。私に未練はないが、それは人間関係に限ったことだ。文明は地球の方が発展しているので、皆と遊びに行ってみたい。前世はそういうことはしてこなかったから、余計にそう思う。魔力の問題があるため、簡単なことではないだろうけど。
戦争は起こったが、物事はよい方向にあった。魔女と恐怖されたり、他国と国交できるようになったとはいえ、凶暴な魔物がいることから現状交易が叶わなかったりと、勿論問題はある。
だが、それ以上にいいことばかりなのだ。
魔国は国として、魔族は魔物でなく人として正式に認められた。シャラード神教で改革が起き魔族の常識を訂正されたことで、民衆の理解も得られてきている。
私の身近では、まず友達であるナリダとセレダが生きていること。ナリダは精神状態が不安定だったが、今は生来の元気を取り戻して戦前通り生活している。片腕を失ったセレダはそうはいかないが、弟のナリダや村人に支えられてうまく適応してきている。
共に戦争に行った母も無事だ。逆に私が心配された口で、父やリュークと共に家族水入らずの時間を過ごした。
戦争で魔国に居残った者は侵入者や民族により大変な目にあったようだが、レナなんかは皆で返り討ちにしたと自慢げである。
そして私自身も。戦後処理が終わってからは、なんとか待望の冒険者稼業に戻れた。
「なんとかなるもんだね」
幹部として引き留められたが、冒険者の方が気は楽だ。行き場所や依頼内容を自由に決められるしね。そんなところに、幼い頃からあこがれたものである。
「どうせ、どっかで幹部の呼び出しはかかるだろうよ。そういう取り決めなんだろ?」
「どうしようもならないときって言ってたもん。そうそう呼び出しなんてかからないよ」
「どうでしょうか。主はとても頼りがいがあるので、頻繁にかかったりするかもしれませんよ」
ロイは悪戯っぽく揶揄ってくる。最初の内は問題が多発して、本当にそうなりそうなんだよなあ。
戦争でずっと離れていたせいか、甘えたがりになってロイは帰ってきた。触れ合い多めにしていれば気持ちよさそうに落ち着いてしまうので、楽なことではある。
会ってはいないはずなのにハルノートの仲がより険悪になったので、その分仲裁が大変になったけど。
ハルノートの方は、サラマンダーの精霊避けの件は殆ど破壊できたらしい。後の分は精霊避けの制作過程を知っている者が売れてたからと勝手に作るので、その者を叩きのめしては破壊を繰り返し、断絶の最中だ。
「なあ」
ハルノートに真っ直ぐに見られ、少し構えてしまう。彼との恋愛事情は以前と変わらずである。諦めないで告白してくるのを私が断る。
結局恋というものが分からないままだった。だが、ハルノートにあんな破廉恥なことをされてもパーティーを組み共にいるあたり、私の気持ちはそういうことなのかなと思う。
嫌だったら、縁を切っているはずだしね。絶対調子にのるから、まだ言わないけど。
「本当にその色でいくのか」
「うん。ヘンリッタ王国なら、そこまで恐がられないだろうから」
「そりゃ、ウォーデン王国と比べればな」
私は紫紺の色を偽らないでいる。半魔の証明となって、というか、最近では私こと魔女のトレードマークとなりつつあった。だが、いつまでもこの色のしがらみに悩んではいられないからね。色を曝しつつ無害だよ、とアピールしていくつもりなのである。
いつかは堂々と半魔が道を歩けるように。誰もが傷つかない世界のために、地道にやっていこうと思う。目立つのは好きではないが、そこは気合いだ。ハルノートやロイ、リュークも協力してもらうからね。
「僕、がんばるよ」
「うん。ありがとう」
私が叶えたい夢にはまだまだ遠くて。それに満足できないから改善していくつもりだけど、居心地がいい皆との関係性はずっと続いていけばいいなと思う。
「クレア、とっとと行くぞ」
「主、行きましょう!」
リュークと顔を見合わせて笑い、私達はどちらともなく歩き出す。仲間がいるって、やっぱりいいことだ。
最初は原点回帰でヘンリッタ王国内を旅するが、その後は心の赴くままに。
まだまだ知らない世界が待っていて、これから思う存分見ていくことができる。私は今からとても楽しみでならなかった。




