罰 ※別視点
三人連続の別視点です。
狼人のロイ→魔王のカデュアイサル→聖女のヴィオナ。
「止めないでください! いかないとっ主が危険なのですよ!?」
「ああ、そうだな」
「っ分かっていて、なぜ……!」
「今のお前は助けにいけるような立場なのか?」
賢者と死闘を繰り広げているときだった。諜報員として一人立ちし、そして王城にて新勇者招喚阻止のためにキシシェらと合流している。
「今のお前は、クレア様の従者でないだろう」
「っ!」
「確かにこれ以上幹部が死ぬことは看過できない。だが、助けに行ったところで何ができる。今の俺達は賢者に見逃されているだけだ」
「なら、私達の存在意義とは何ですか。新勇者招喚の阻止も主達に頼りきりにしておいて、指をくわえて見ているだけですか」
「敵の増援の排除。そして、賢者の殺害だ」
「はい?」
「クレア様達が死闘を演じてくださっている。俺達でも隙をつくことができる瞬間が来たときが出番だ。だがそれもなく、クレア様が討たれそうになったときは身代わりとなって特攻する。これで満足か」
キシシェは冷静だった。だから王城が崩壊し、賢者が落ち行くも転移しようとする決定的瞬間も逃さず、暗器を投擲する。
「主のことは任せましたよ」
私の呟きに、ハルノートは反応したかのように私と目があった。その腕には主を搔き抱いていて、瓦礫に埋もれてしまわぬよう死力をつくしている。
自らの立場をこれほどまでに呪ったことはなかった。諜報員の私は主の側にいることはできない。
血の味がするまで唇を噛み締め、転移してみせた賢者を捜索する。私は第一発見者となれた。転移にでも失敗したのか、下半身がなくなっている。胸には暗器が刺さっていて、放置していても死ぬだろう。それでも確実性を求めて、速やかに死んでもらう。
「でも、その前に罰を与えないと」
主を害したこと、これで気が済むとは思いませんが。
短剣を突き刺そうとして、賢者は魔法で反撃をしてきた。風の刃で私の首元を狙ってきたのだろう。
正直、何もできないと思って油断していた。だが、攻撃を受ける前に結界が作動する。
「なっ」
「あはっあはははははは! ああ、主。私がお側にいられなくとも、主は私のお側にいてくださっている!」
「わ、儂は賢者だ! こんな弱者にやられたりなど、命果てるなど決して――」
「まだ喋れるのですね。いいですよ、もっと叫んで悔いて、己の罪状を思い知ってください」
「弟子も、王も、師匠でさえも利用し、ここまで這い上がってきたのだ! こんな、こんなところでえッ!」
「はいはい、そうですか。ではそろそろ――死ね」
賢者のせいで、服は真っ赤に染まる。だが、それ以上に使わぬようにしていた結界の魔道具を作動させてしまった。主の魔力が消費されてしまったことに、賢者亡き後も怒りは際限なく湧いてくる。
「ロイ。クレア様の無事を確かめにいかなくともいいのか」
「はっ。そうですね。このようなもの、いつまでと構っていられません!」
「…………はあ。お前は扱いやすいのか、しにくいのか、よく分からん」
キシシェが賢者の死体を瓦礫で埋めて、ちょっとした工作をしているのは完全に任せておく。こっそりと眺めた主は傷ばかりで労しいが、ハルノートは無事命は守り抜いたことには感謝しておく。ただ膝枕をされて一人ご褒美をもらっていることに関しては、後でめった刺しにしてやろうかと本気で殺意が沸いた。
*
「派手にやったもんだな」
一足遅れて王城に俺様はやってきた。見事なまでに騒ぎ立てられている。
人に群がれつつも吹っ飛ばしまがら歩いていけば、途中で諜報員が現状を報告しに来る。
「はっ。クレアが王城を崩壊させた?」
外から見やると、一部壁に穴が開いている。
やりすぎだろ。羨ましい。俺様もやるか。
新たに増えても変わりはないだろうと、腕を獣化させて壁をぶち抜き入ってみる。正規ルートは人が集まっているので、こっちのほうが速い。
「なっななななな!?」
「おっ、さっそく当たりだな」
賢者を見放して逃げていた者の首根っこを掴む。
「さてと。賢者は死んだ訳だが、どう落とし前つけてくれるんだ?」
「ち、朕を誰だと心得ておる!」
「コンザッツ王だろ。ちなみに俺様は魔王のカデュアイサルだ」
「っ魔王がなぜこの王城に!? 儂を殺しに来たのか!」
「散々戦争を吹っ掛けたんだ。このまま暴力で解決してもいいが、後始末をやってもらわないといけないからな。穏便に、話し合いといこうじゃないか」
「穏便に、だと? 王城をこれほどまでに破壊しておいて……」
「なんか文句でもあるのか?」
それが戦争だろうに。
空を飛んでいたから、ちょうどいい加減になるだろう。威圧すると、プルプルと情けなく震えだした。粗相もしていて、その度胸のなさに呆れてしまう。
「朕は賢者に言われて、やっただけだ。全て賢者が……」
「でもお前はそれに従った。責任は取ってもらうからな。なに、他国の目があるからそう酷くはならないだろうよ」
まあ、俺様だけに限るがな。
コンザッツ王は民を虐げて税収や兵役をとっていたので、そのことに関しては知らない。色々と謀略はしようと思っているので、民の心が煽られて騒動が起きてしまうかもな。圧倒的地位を占めていた賢者もいないことで、貴族も好き勝手に動くことだろう。
「これでお前が望む夢には近づけたんじゃないか」
クレアは誰も傷つかない世界を語った。多大なる犠牲を払ってこれだから、あいつの夢なんぞ叶うはずがない。だが、夢を持つことはいいことだ。人生の目標となる。
この先、魔族と魔国が認められることになるだろう。俺様の夢は民の安寧であるが、まだまだ道のりは長そうだ。
一先ずは人族と手を取り合うことには叶いそうではある。戦勝することで静観していた他国と繋がりを持てるし、ウォーデン王国にもまともな奴が極少数いるのは分かっている。
報復は受けてもらうが、ウォーデン王国を潰したい訳ではない。俺様は魔族が次の段階に進んでいけることに喜びつつ、それをなしてくれた魔族に心から感謝した。
*
ときは満ちた。魔王討伐でどうなることと思ったが、その相手方の支援もあり、準備は完璧に整えることができた。
レセムル聖国は最大限の援助をしたが、ウォーデン王国は完全敗北した。聖騎士の大半が失って帰還していて、魔族の名誉は時間を経る度に上昇していくことだろう。
閉ざされたレセムル聖国だが、国内から情報を流しこむのにはそう苦労しなかった。独自に築き上げた支援者はいるし、ゴズを筆頭に暗部を手なずけているから刺客が来ても返り討ちにできる。
「ヴィオア――我らを裏切るのですか!」
「事前に分かっていたことでしょう。教皇様は常に穏やかでいられましたが、このようにお怒りの声を上げるのですね」
ずっと、ずっとこうしてやりたいと思っていた。先代聖女様を使い潰されてから、いつかこの恨みを晴らそうと虎視眈々と機会を窺っていた。
私はシャラード神教の改革を執り行った。聖国の政治までも牛耳る、腐りきった上層部を排して、魔族がいても存続できるような宗教とする。
人族至上主義はもう古臭いのだ。古の時代からあるシャラード神教だが、時代の流れとともに形を変えていかなくては滅されるのみ。
「教皇様を含め、皆様には贄となってもらます。都合よく聖典を解釈していたようですし、元々あるべき姿であった内容と改竄して、この先の未来にあった聖典を作らせていただきますね」
「ヴィオナとて我々の同類であったのに、一人だけ逃れられると思っているのですか!?」
「私は皆様と異なり、民と接し信頼がありますので。それに、皆様の口を封じてしまえばいいだけのこと。私の悪行は、皆様の命令に従ってしていたことですし」
「この、聖女とは名ばかりの悪女め!」
「そんな悪女を、聖女としたのは皆様でしょうに」
ああ、おかしいことこの上ないですね。
腐った膿は、全部綺麗に取り除いてしまわないと。まずは全員を牢に移し、その後のことを想像して内心愉悦に浸る。信頼のおける護衛として連れてきていたゴズも同じ思いでいることが、手を取るように分かった。
「さて、これからも苦労をしますよ。後で最高に楽しるためにも、一仕事しましょうか」
関わった人数は多い、大胆な改革だ。それでも知らずに生活していた者の方が圧倒的なため、周知しなくてはならない。
「魔女さまさまですね」
「は?」
「いえ、なんでもありませんよ」
魔女のおかげでこの大胆な計画を練る決意を得て、戦争の功績者となって改革を成功させやすい流れを作ってくれた。
魔女でなかった頃の彼女と死闘したゴズと少数には分かる言葉だ。表情をとりつくろえなくて、笑っているのに私も微笑をたたえてみせた。




