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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
世界大震撼

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331/333

諦めない

 体は倦怠感と痛みに包まれていた。それでいて、ずっしりと重い何かが私に伸し掛かっている。

 その不快感でしぶしぶ目蓋を開けた。


「ハル、ノート?」


 王城で賢者と戦っていたことを思い出す。私、どのくらい気絶をしていたんだろう。

 魔力回復量から判断しようとして、少ししか持ち得ていなかった。時間はそんなに経っていない? でも魔力器官がおかしくなっているのだから、あてにならないかな。


 それよりもハルノートだ。瓦礫同士が合わさって、ちょうど倒れ掛かってこないようになっている中に私達はいる。

 まずは慎重に私がそこから抜け出して、ハルノートが正常に息をしていることを確認した。安心しつつ、次にその場から引っ張り出そうとして、片足が瓦礫の下敷きにされていることに気付く。ハルノートを移動させるより、瓦礫を除去した方がいいかな。身体強化で、なんとかどかしていく。


「ハルノート、起きて。ハルノート、ハルノート……」


 肩を叩いてみるが駄目だ。遠くの方で人の気配がするから安全な場所に移動したかった。魔力が限られているので自力で歩いてもらいたかったのだが、私が頑張るしかない?

 治療を優先したいが、安全確保は譲れなかった。意識すれば痛みを訴えてくるのを無視してとにかく考えていると、契約の繋がりからリュークが呼びかけていた。答えると、小龍姿で飛んでやって来てくれる。無事な姿を見て、心底安心した。


「良かった……! 傷は癒えてるけど、え、添島君がやってくれた?」

「ガウウ、ウー!」

「そう。賢者と国王が……」


 私とハルノート以外にも、その二人の姿も見当たらなかったため捜索していたらしい。

 国王はともかく、賢者は生き延びていたら厄介だ。傷と魔力回復薬を持ちあわせていたため、それだけ貰って添島君への報告と捜索の続行をお願いする。

 賢者の支配領域なので、無事であるなら私達の居場所は把握できているはずだ。それなのに攻撃を仕掛けていないのだから、できない状況にある。


 魔力探知をしてみると、賢者らしき者は付近にはいない。死体であっても反応するはずだから、逃げ延びてしまったのだろうか。

 だが、下に落ちていくとき、賢者はとても転移できそうな雰囲気ではなかった。気絶まではいかないが、その一歩手前だ。


 死んでいて欲しいと切に願う。もう賢者の相手は懲り懲りだ。



 リュークには一通りの捜索後、見つかる見つからない関係なく迎えに来てもらうことになっている。そのとき添島君も合わせて王城から脱出する手筈だ。


 それまでは私自身とハルノートの回復に努める。私がめちゃくちゃに破壊してしまったせいで人は来れない環境にあるが、物影にだけ移動する。隠密の魔法は節約だ。魔力回復薬を飲んでも、亀並みの遅さの回復なのが痛かった。

 次にハルノートの瓦礫に下敷きとなっていた足を治療する。抉れて骨まで見えているし折れているようなので、変なふうに治ることがないように回復薬でなく魔法でだ。詠唱まで使用して慎重に行う。魔力は再び空になったけど、これで大丈夫。


 後は回復薬で補完するのだが、うーん。どうしたものか。そのままぶっかけるより、呑んでもらった方が体全体に効能が行き渡る。

 見た感じでは他に大きな傷はない。意識がない者に呑ませてしまうのは危険なので、取り敢えず一滴だけ舌に垂らす。吸収率が高いため、この程度なら肺に入ることはない。


 ハルノートは意識がないにしても、時々呻いたりしてする。無理に口を開けさせたこともあって、現に反応があった。顔を背けられて、そして苦悶の表情が和らいでいく。

 へえ、この回復薬効能高いね。私とハルノートがもっていた分は喪失してしまっているので添島君のものだが、流石聖女やフォティと治療の専門家と共にしていたこともあってよいものを使っているようだ。スノエおばあちゃんのレシピを上回るものなんて、初めて見たよ。


 起きそうな雰囲気があるので、残りはそのときに吞んでもらう。リュークもまだ来ないようなので、私は手持無沙汰となった。

 そうなると気になるのはハルノートを寝かせている環境である。右も左も瓦礫で埋め尽くされていたことから、そんな硬い地面の上だ。


「…………命懸けで、助けてもらったからね」


 なんだか言い訳みたいだ。私は座り込んでから、そーっとハルノートの頭を膝の上にのせる。


「皆、生きてるよ。諦めないでくれたから、私もここにいる」


 睫長いな。耳つんつんしてるな。

 暇を持て余しすぎて、観察したり弄ったりする。いつもはさらさらの髪の毛は埃っぽくなっていた。前髪を全部よけて普段ならしない姿にするなど、やっていくうちに楽しくなる。

 思う存分遊んだ後には、足が痺れていた。もぞもぞと体勢をずらしてみるが、あんまり効果はない。対してハルノートは随分と幸せそうな表情だ。


 これ、もしかして起きてるんじゃない? つねってしまおうかな?

 実行に移す前に、ハルノートはそろそろと目蓋を開けた。嘘っぽくないので、今の今まで本当に寝ていたようだった。


「おはよ」


 自然な流れで彼の髪に触れる。いや、遊んでいた痕跡があったんだよ。これで元通りだね。

 つねろうとまでしていたので罪悪感があった。手を伸ばして逆に私が触れられるのも、されるがままと甘んじる。だが、その先は受け入れがたいことだった。


 手を頭に置かれていたのだが、そこから下に引き寄せられる。ハルノートからも頭を上げていたので、あっという間にゼロ距離となった。


「っ~~!???」


 ま、って。待って待って待って!? 何をしてくれているの、このエルフは!


 口付けをされているようだった。それも遠慮がないのを。

 閉じていた口を無理やりこじ開けられ、舌が入ってくる。舌とで触れ合って、私がびくつくのも構わず絡めてくる。頭は固定されているので逃げられようがなく、深く貪り食われる感覚だった。


「ふ、ぅ……も、やめ」

「まだだ」


 打ち付けてしまったのか、頭が沸いているの!?

 息ができなくて涙がでてきたから、ぎゅっと目蓋をつぶる。そのせいで、無遠慮が更に無遠慮になってしまった。口内を蹂躙されて歯を撫でられたり、クチュと音が鳴ったりとしてるし、私は大パニックだ。

 片手が際どいどころを触り、ついには胸まで触られたときは怪我をしている相手なのも忘れて無我夢中になった。突き飛ばして、大きく息をする。体は熱を帯びていて、私自身までおかしくなった気持ちになる。


「なんだ、夢じゃねえのか」

「あったり前だよッ!」


 それに、夢でもしていいことじゃない!

 無意識で身体強化を使っていたせいで、ハルノートは変な体制で転がっている。もっと遠くの方までいけばよかったのに。回復しても魔力が殆どないせいで、怪我していることを考えれば妥当な罰にはなっていた。


「ち、近づかないで!」

「そんなエロい顔しておいて無理だろ」

「!? してないもん!」


 言っても聞かないハルノートは、力が抜けてその場から動けない私を見下ろす。もう駄目だ。私はここで死んでしまうんだね。

 行き過ぎた思考に陥っている私に対して、ハルノートは膝の上に寝転んだ。


「だるい」


 冷静さを取り戻した私は、ジト目で非難する。知らんぷりして目蓋を閉じてしまった彼に、寝てしまう前にと慌てて回復薬を出す。


「ほら、全部呑んで」

「一人じゃ呑めねえ」

「じゃあ私がもらうよ」

「それしかねえのか」

「私は魔力回復薬はもらったから」

「ふーん」


 正直私も体がじくじくと痛むが、庇ってくれたハルノートよりはマシだろう。

 ハルノートは体を起こし、素直に回復薬を呷った。もっとごねると思ったのに。いや、半分しか吞んでない?


 訝しげにしていると、ハルノートはまたもや口付けをしようとした。もう私は許しはしないから!

 その元気さがあるなら、と腕に力を入れて押しのける。ハルノートはゴクリと嚥下して「もったいねえ」と、なぜか私が非難された。


「仕方ねえな」


 残りの回復薬を手に取る。これ、もう一度同じことをするつもりだ。


「全部一人で吞めばいいでしょう!?」

「賢者に手酷くやられてたくせに、遠慮するからだろ」

「なら、自分で呑むしっ」

「いや、せっかく譲ってくれたんだ。これは俺が好きなように使う」


 言ってることがめちゃくちゃだ!

 ガシリと肩を抑えられて、「ひえっ」と悲鳴を出す。


「わ、私、初めてだったんだよっ」

「溺れたときに一回やってるじゃねえか。だが……へえ。前世も含めてか?」

「そうだけどっ。悪かったね!」

「いや、責めてねえからな? 誰彼構わずするんじゃねえぞ」

「する訳ない!」

「俺にはしたけどな」

「不可抗力だしっ。怪我してるからって、調子に乗らないで!」

「……あーもういい。一旦黙れ」

「んぅ……」


 この、エルフならぬエロフめ! ジタバタと暴れるが、決して離してくれなかった。回復薬を流されて、無理やり吞まされる。


「っぷは。もーあっちいって!」

「無理」


 固く抱きしめられる。苦しく押しつぶされるぐらいで、その強さに内心を感じ取って閉口せざる負えない。


「無茶しすぎだ」

「……そうしないといけなかった」

「勝手に一人で死のうとするなよ。俺がいねえと今頃どうなっていたことか」

「分かってる」


 貴方が気絶中に反省済みだ。優しく背中を叩いて、ようやく解放される。腕は掴まれているから、引き続き近くにいるけどね。


「これで、戦争はケリがつきそうだな」

「もしかして、賢者が死んだのを見たの? 今、リュークと添島君が捜索中なんだけど」

「見てはいない。けど、多分そうだろ。それよりも」

「……なに」

「もっかいキ「いや」…………いいじゃねえか」


 回復薬でも頭はおかしいままだった。叩いたら治るのかな?


「もう何回もしてんだ。一回増えたって変わりはしねえだろ」

「あのね、私達そんな関係じゃないから」

「問題ねえよ。これこそさっさと諦めて、受け入れろ」

「やだ」

「あのなあ。……まあいい。戦争をだしに断わってたんだ。これで俺のこと、考え始めてくれるんだろ。お前の思う恋ってもんが分かるといいな」

「うっ」

「さっさと俺のこと好きになっちまえば楽だぞ。それにほら、キスは気持ちよかっただろ?」

「それは考えたことなかった……って、そういう問題じゃない!」


 まだ敵地というのに、私達は騒ぎ合う。その内容はともかく、生きているからできることで嬉しいことだった。

 それからリュークと添島君が迎えに来て、王城を脱出する。王城は外から見ても崩壊しているのがよく分かる程だった。


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