王城への侵入
本日二話目。
犠牲者を出しながらも、進軍は滞りなかった。王城を目指して、野戦での敗走軍や貴族の私兵を相手に戦闘をこなしていく。
途中でハルノートの提案により、少数精鋭でとある重要人物の元まで襲撃をかけた。危険を承知で、私もその一人として出向く。ただ注意していた賢者はおらず、重要人物は捕獲できた。
「私を誰だと思っての仕打ちだ! もっと丁重に扱うがよい!」
「こいつ、捕虜のくせして図々しいな……」
第一王子のサァドル・ウィズラモールだ。小隊で第一王子が率いていることから手強かったが、賢者がいなければなんとかなる相手だった。
第一王子はリュークの蔓草にて、身動きを取れなくされている。流石にここままじゃ不味いよね、と即席でないちゃんとした拘束具に変える。
「ふん。其方が魔女か」
「じろじろ見てんじゃねえよ」
「王子相手にも喧嘩を売らないの」
「魔女以外にも小龍に精霊士……常々セットで動いている当たり、よっぽど警戒しているな。だが、今回に限っては不必要であったな」
「……賢者はどこだ。お前、一緒にいたんじゃねえのか」
野戦で敗北してから、第一王子と賢者は合流してその身を守っていたはずだ。王国の手勢は削っていて、有名どころであるザッカルさんを殺した勇者の末裔のカトリナだって致命傷が癒えぬようで復帰してこない。
「あいにく、賢者とは少し前に別行動だ。残念だったな」
「賢者の他の魔法使いも下っ端しかいねえ。どこにいきやがったんだ」
「さてな」
「真面目に応えろよ」
「私は知らん。詳細を言わず、去ったからな」
「嘘だね」
真贋の魔道具が反応している。
ハルノートが第一王子の胸倉を掴み上げて、私は慌てた。
「手荒なことはできねえって思ってるんだろ」
「駄目だよ、ハルノートっ」
「はっ、やってみるがいい」
「貴方も煽らないのっ」
早々に引き離し、護送することになった。これでウォーデン王国は降伏してくれればいいんだけどなあ。
魔国からは勇者は魔王城に辿り着いたという知らせはない。勇者とは王国の希望で、彼を返り討ちにしない限り、いつまでも耐え忍ぶ可能性は高い。
だが攫われたことになっている第一王女と異なり、第一王子を見捨てることはないだろう。捕虜としたことで、何かしらアクションはしてくれると思う。最低限、会話は成り立ってくれるだろうか。交渉もままならない王国なので、そこから心配しなければならなかった。
「くそっ」
「ハルノート、何をそんなに苛立っているの? 賢者はいなかったけど、悪いことではないでしょう」
戦闘にならなくてよかったではないか。野戦の打ち合いと遠距離ではなかったので、私としては操られる危険がなく一安心だった。
「精霊避けも破壊できたし……」
第一王子の居場所が分かっていたのはそのお陰だった。
「ハルノート、もう頃合いだ。素直に白状したらどうだい?」
「サラマンダー!」
「……どういうこと?」
「クレアにずっと隠し事をしていたんだよ。それはもう、重大なことをね」
「ハルノート」
「くっ……」
彼は屈して、洗いざらい白状する。その内容は決して放置できないものだった。
「勇者召喚、ね」
「確証じゃねえぞ」
「でも、以前も同じように魔力を集めていたんだよね」
正確には魔石と奴隷だが、目的は魔力なはずだ。異界から人を招くのに、膨大な魔力が必要になるに違いない。
「いつ行われるかは分かっているの?」
「いや。だが賢者が王子の護衛を放り出して、どこかに行ったんだ」
「もうッ、なんでこんなギリギリまで隠してたの!」
「他の奴らには言ってたっつーの!」
「私にこそ言うべきことでしょ!?」
「一人突っ走る可能性があるだろ! それにお前は色々深く考えるから、戦争に集中しきれなくなるだろうが!」
「かもしれないけど、かもしれないけど……っ」
王子の奪還に注意を払いながらも、私達は急いで総帥となったモンディエさんに判断を仰ぎにゆく。
「コレマデ通リナラバ、召喚サレタバカリノ勇者ハ力ヲ身ニ付ケテイナイハズダナ?」
「おそらく地球の、それも日本という国を限定に召喚されています。一般人なら荒事には無縁の生活でした。剣も、魔法だったら概念すらありませんでしたし」
「ム……興味深イコトダ。ダガソレヨリモ、後ノ脅威トナル新タナ勇者ノ招喚ハ見過ゴスコトハデキナイナ。王城デ行ワレルカラ放置セザルエナカッタガ、ソンナコトモ言ッテイラレナイ」
夜禽を用いて書状のやり取りをするが、魔国の返信を待っている時間は惜しかった。別方面にも夜禽を送ることにして、新勇者召喚を止める手段を講じる。
「諜報員ダケデデキルモノカ……」
諜報機関は裏工作も兼ねているので実力者ぞろいだ。だが、王城は王国の最後の砦だ。魔王の脅威があったこれまでの歴史から城は実用的なもので、防衛を突破し且つ賢者もいる中、新勇者召喚を阻止することは難しいことだろう。
「もう一足早く襲撃をかけていればよかったんだけどな」
「今更嘆いたって遅いよ」
「手厳シイ言葉ダナ」
「あっ、モンディエさんに言ったわけではないですよ」
「フム……」
考えてしまったことに、私はおろおろとしてしまう。私に言わなかった理由は重々承知したので、さっきのことは忘れて欲しかった。
「クレア、行ッテキテハクレナイカ。ハルノートトリュークモ共ニダ」
「えっ、いいのですか?」
「魔法使イドモノ脅威ガアッテモ、一番適任ナノハクレアダ。魔法デノ隠密ニ優レ、マタ勇者召喚ノ勝手モ分カルダロウ」
「隠密はそうですが、勇者召喚は仕組みが空間魔法以外にも複雑に絡み合っているので自身はありませんが……分かりました。ハルノートとリュークもいい?」
「クレアを守るために、俺は戦争までやってるんだ。ぜってえ危険だから行かせたくなかったが、やってやるよ」
「僕も、いいよ」
「ナラバ頼ムゾ。コチラノコトハ任セテ、今カラ行クコトダ。空軍カラ一人、イヤ二人ダナ。最速ノ者ヲ出ソウ。到着スルコロニハ夜ニハナッテイルダロウナ。時間帯ニツイテハ、諜報員ニソウ伝エテオク」
*
「お気をつけくださいね」
「はい。ウルさんも」
「これだけ上空にいさせてもらっているので大丈夫ですよ」
いつかのときと同じだった。確か前も添島君の元まで、こうして飛び降りたはずだ。ハルノートの方にリュークはついていた。私の近くまで来てもらって風魔法をかけて減速させる。
王城は目前にあって、砦のときとは違って既に張られて厳重警戒していた。結界を分析しつつ、地面に降り立つ。
「結界はまたアレンジが加えられているみたい。砦のとは変わってる。しかも二重になってるから、解くより壊した方が速いかな」
「時間制限が分からねえし、さっそく使うか」
「なるべく使わないで返してあげたかったけど、そうだね」
結界を壊す魔法を構築するには目立ちすぎる。
私達はモンディエさんから餞別をもらっていた。諜報員の双子がもっていた護身具の強力版である。モンディエさんの体を削ってできたそれは、本体の能力の低下に繋がるが、その分威力は申し分ない。
魔法の鞄から取り出した護身具は、両手で持つような大きさの岩でとても重い。ハルノートが呻いている間に、私とリュークは補助の魔法を準備する。私は一点突破で結界が貫けるよう、氷で円錐を、リュークは護身具を投げ込むための植物をつくりだす。
「お願いします、モンディエさん」
諜報員は待たない。道さえ作っておけば後から来てくれる。
夜が手伝って隠密は確かなものになっているので、門番は不審な私達に気付いていなかった。巻き込まれぬためにも強制的にどいてもらって、護身具が投げ込まれる。結界は城門を開けて直ぐの場所にあった。
拘束で回転しながら、氷の円錐に向かっていった。ドンっと盛大な音を立て、結界の一枚目が割れる。氷は一瞬で粉々になるが、すぐさま補強して二枚目にも取りかかる。
護身具は少し衰えた勢いで衝突していく。二枚目の方が結界は強固なこともあって、破壊できない。私は氷の方に手を取られているので、リュークが動いた。植物同士を絡め合って、私の身の丈を超える大槌を作り上げる。
「せーのっ」
護身具の上からまとめて叩き込んでいた。いきなりすぎて氷の補強が間に合わない。だが、結界は破壊できた。
「さあ、行こう」
先だって配置されていたのか、多くの騎士が待ち受けていたが関係ない。隠密を最大限にかけなおして、行方を暗ます。第一王女から城の構造は伝えられていたので、行先は迷うことはなかった。




