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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
世界大震撼

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322/333

復讐の侵入者 ※レナ視点

 調練されている兵は、際立って戦時中なんだって感じさせる。

 階上から、箒を持ってその光景を見下ろす。ここはナリダとソダリが召集をかけられていた砦だ。彼等はウォーデン王国に行ってしまっていないが、入れ替わるように私は村の皆と避難していた。


 住み慣れた村は国境の端で、過去にその付近まで王国軍が侵略してきたことがある。再び王国が攻めてくるかもしれないこと、今回村の大半が出兵して力の弱い者しか残っていないことから、避難を勧められたのだ。

 作物を放置することになるが、元々実りに向かない土地で自給自足程度しか育てていない。王国軍だけでなく、魔物の脅威から身を守るのも難しく迂闊に外にも出れない状態でもある。そういう訳で私達は砦の兵に護衛されつつ、砦で生活を送っていた。


 ただ避難して戦争が終わるのを待つだけではないので、砦で任せられた私達の役割は兵のサポートだ。洗濯や掃除、食事と量が量だけに毎日大変だ。

 でも他の村からも避難しに来ているかそこまで負担ではないし、身近に私達を守ってくれる兵がいるから安心感がある。香りづけにできる薬草がなく、砦の外まで採取しに行くときだってついて来てくれる。


「んー、やっぱり全員分を賄うには量が足りないよ」


 人族のノエが言うので、獣人のサリィがその手元を覗き込む。


「どうしようね。刈り尽くしちゃ駄目なんだよね」

「…………ん。次が困る」

「じゃあ遠くの方いくしかないけど……」


 ノエがちらりと兵を見遣る。


「砦から離れるのはあまり推奨したくないが」

「が?」

「美味しい食事にありつけるためには仕方ない。隊長もお目こぼししてくれるはずだ」


 兵は結構ノリノリで賛成してくれる。ノエとサリィはその分おいしいもの作ると、意気揚々と薬草を見つけに行く。


 村に来たときと比べれば、魔国の生活によく馴染んでいて感慨深かった。特にノエはクレアにべったりで、他の人に心を簡単には許しはしなかった。サリィの場合は魔族の容姿に慣れぬようで、話しかけるだけでもビクビクとしていた。


「あ、ここたくさんあるよ!」


 群集地を見つけて、サリィは腕いっぱいに抱えている。見てみて、と自慢してくるのが微笑ましかった。私はおねえちゃんで通っているので、よしよしと頭を撫でる。

 そんなときに風を切る音がした。兵が立つ側の木には矢が刺さっている。


「伏せろ!」


 私はサリィを被さるように、兵の言葉に従う。再度放たれた矢を兵は斬り捨てていた。


「へったくそ!」

「うっせえな、わざと外したんだよ!」


 襲撃をかけたのは武装した人族だ。把握できただけでも五人はいて、言葉の掛け合いから余裕があることが分かる。対してこちらは兵が三人だ。

 早々に不利を悟ったのか、「逃げろ!」と言われる。その前には私はサリィの手を引いて駆け出していた。


「レ、レナおねえちゃんっ」

「…………行く。いてもお荷物。ノエッ!」

「うん!」


 私達にできるのは砦まで助けを呼ぶことだ。だが、させぬと戦斧が降って来て、強制的に立ち止まることになる。


「逃がさないわよ」


 私はその人族に見覚えがあった。ああ、こうして復讐は繋がれていく。


「…………トピー」

「お前、私を知っているのね」


 獰猛な目をより鋭くして睨みつけてきた。

 私は魔眼を使う前に、腹にその拳を叩き込まれた。トピーは確かドワーフという小さな身なりなのだが、それに似合わぬ力で木の幹まで吹き飛ばされる。受け身を取れないで、まともに背中から衝突した。


「かはっ」

「レナ!」

「その二人を頼むわ。私はこの女をやるから」

「この、……邪魔!」


 ノエとサリィは二人に襲われているが、トピーが迫って来ている。私は採取用に使っていた殺傷能力の低いナイフを投げつける。


「無駄なあがきね」


 戦斧でもって弾かれるが想定内だ。私は貴方の強さを知っている。


「平服せよ。この力の前にお前は無力だ――」


 逃げていくふりをして、小さく詠唱しながら木々へと全力で走る。身を隠したところで足を止め、待ち構える。トピーが木を回り込んでその戦斧を軽々と片手で持ち上げていたとき、その瞳は驚愕で見開かれた。


「な、待ち伏せ!?」

「――従属せよ!」


 詠唱により、石化の魔眼の効力が増す。硬直したところを、私は護身用の短剣で首を掻き切った。初めての人殺しになるから、思うように手が動かず少し狙いからずれた。


「…………ごめん」


 いつか、こんな日が来るとは分かっていた。

 セレダを殺されて私達はヴォロドに復讐し、今度はトピーの番だということを。でも、だからといって殺されるつもりはない。


「…………何もしなければ、見逃せたのに」

「そんなこと、できないわよ」


 もう、動けるの?

 胸倉を掴まれ、地面に組み敷かれる。痺れが残っているようで力は弱くなっているが、体重を使ってうまく抑えられている。


「その目、私、覚えだしたわ。詳しいことは何にも思い出せないけど、あのときと変わっていないのね。綺麗で、輝いていて、魅惑的な。記憶がなくてもとっても、印象に残っている」


 短剣は急所を外したが、致命傷は負わせている。溢れる血が私の顔にかかって、視界を赤に染める。生ぬるくて、量が多いことから肌に垂れていく感覚が気持ち悪かった。


「…………他に、何も覚えてないの」

「そうさせたのが、お前たちでしょ。思い出そうとしても記憶にもやがかかって、それでも無理すれば耐えきれない頭痛が襲い掛かってくる。今もそう。ああ、イライラするッ!」


 抑えられた手の力が強まる。骨がきしむ音がして、私は顔を顰めた。それを見て、トピーは嗤う。


「…………死ぬくせに」

「そうね。でもそれまでに何人も殺してやるわ。まずはお前から。その目ん玉抉って取り出したら、あのときの仲間はとっても悲しむでしょうね」

「…………やって、みろ」


 どうせあと少し突っついたら死ぬ。私は目に魔力を籠める。


「もう、効きやしないわよ!」


 そうみたい。でも私は一人じゃないから。


「レナから、離れろッ!」


 人族から奪ったのか、ノエが槍を投擲した。トピーに直撃して、私はようやく拘束が外れる。

 ……手元が狂ったら、私に当たっていた。冷や汗を流しつつ、サリィの手を借りて身を起こす。


「レナおねえちゃん、大丈夫!?」

「…………ん。怪我は、ない?」

「私はノエが守ってくれたから。でもノエが……いつもの発作がでて」

「あっはははははッ! ひっさしぶりでえ、とってもとっても楽しいね! レナを苦しめたんだし、ぐっちゃぐっちゃになって、死んじゃえッ!」


 ノエは完全にハイになっていた。魔物狩りに連れて行ったときに発覚したことだが、ノエは戦闘になると気分が高揚して、かつての名残が出てくる。こうなると手が負えない。

 今はドーピングをしていないからかつての力は出ないが、圧倒的な戦闘センスから落ち着かせるのが一苦労だった。


 でも今は頼もしい限りだ。ノエはトピーの戦斧を奪って、一見乱雑に振り回しているようだが追い詰めている。

 トピーは首を抑えて逃げているのだが、そこに戦斧を横薙ぎにして――思わぬ方向に飛んでいった。……どうやらノエには戦斧は重すぎたらしい。手からすり抜けてしまって無手になる。

 トピーはそんな好機を見過ごしはしない。加勢しようにも、私は魔眼しか取り柄がない。


「わっ!?」

「ノエ!」


 私と同じように吹っ飛ばされていく。

 トピーは追いはしなかった。命の短さを悟ったのだろう。私に執着して、地面に亀裂が入るくらいの力で踏みこむ。


「しっねえええええええええッ!」


 肉薄されるが避けれない。そんな俊敏さはないし、サリィがいる。

 私はサリィをトンっと突き飛ばした。流れる時間がゆっくりになる。倒れ込むサリィは手を必死に伸ばそうとしているが、間に合わない。


 せめて、と私は目蓋をぎゅっと閉じた。この目だけは渡さない。

 村の皆にはいっぱい迷惑をかけた、制御がきかない魔眼だ。私はこの目が好きじゃない。けどあげたりなんかするものか。これ以上、私の目で大切な人を傷付けたくない。


 風圧があった。でも、まてども痛みはやってこない。ただ誰かに触れられる感触と、その暖かな熱があった。


「あっぶなー。ぎりぎり間に合った、かな?」


 至近距離で確認された後、朗らかな笑顔を見せられる。思わず心臓が飛び跳ねる。この状況下で、その笑顔にときめかない訳がなかった。


「あ、やべい。死んじゃう前に回復薬……は効きそうにないか」

「ま、ぞくめ。私、は死んでも、祟って……」

「…………諦めの悪い」


 トピーは息も絶え絶えなのに恨み事を言うのを止めない。死した後も魔物になって復讐してきそうだ。

 徹底的に、骨が粉々になるまでやらないといけなさそうだと考えていると、突然何もなかったところからゼノ様が現れる。そして、トピーを氷漬けした。


「おー、流石ゼノ様」

「…………殺さない、のですか」

「情報を持っている」

「今回の件はただの侵入者とは行動が違って、不自然でしたよね。隠れる気もなく、大人数で襲撃していますし」


 凍らせたトピーは、後で治療するらしい。

 トピーは絶対に復讐を諦めたりしないので、私は二度と同じことが起きないようにしたかったが仕方ないのだろう。助けてくれた彼等の顔を立て、譲ることにする。


「…………名前。なに?」

「俺? 俺はゾルファだよ」

「…………私、レナ。ゾルファ、ありがとう」


 長い前髪を少しよけて、ゾルファをしっかりと見る。うん、いい男だ。名前を聞いたことだし、また会えるかな。


 ゾルファやゼノ様の他にも助けに来てくれたようで、逃がしてくれた兵も無事であるらしい。ノエもまだ気分が高揚したままだが、元気にぴんぴんしている。薬草だけは踏みつぶされて、残念なことになってはいた。



「…………ゼノ様」


 恐れ多いが、私は話しかけに行く。


「…………クレア達、生きていますか? ナリダもソダリも……」

「クレアが死んだという報はない。その他は分からん」

「…………そう、ですか」

「ただ、遠からず分かることになる。決着がつくからな」


 ゼノ様はゾルファに「先に戻る」とだけ言って消え去る。私も人に言える立場ではないが、ゼノ様は相当口下手だなと思った。


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