不憫な少年
母の友人と別れた後は、午前中の服屋でつぶれた時間を取り戻す勢いで必要なものをそろえていった。
エリスにあれもこれもと言われながら買っていくので、当然荷物は増える。
動きが制限されるので服のときと同様に家に送ってもらったが、今頃大量に届いて騒然となっているだろうか。
薬屋を営業しながらそれらに対応しなければならないので、家に帰ってからが怖くなった。
屋台での美味しそうな匂いにつられて衝動買いし、食べ歩きをしているときだった。
「エリス!」
声のする方を見ると、一人の少年が先頭にして男女が複数人いる子供の集団がいた。
エリスの友達らしい。
「なあ、今日仕事は?」
奇しくも、ネオサスさんと似たような言葉。
最初にこう言われるぐらい、エリスは仕事ばっかりしているのだろうか。
ちょっと不安だ。
「今が仕事中だよ」
「焼き鳥食ってんのに?」
美味しそうな匂いにつられて焼き鳥を買ったのだが、男の子に食べている姿を見られると恥ずかしくなってくる。
けど相手の視線はエリスに多く集中している。
さっきからエリスに話しかけている少年は特にだ。
私はさっさと食べてしまおうと口にほおばり、もぐもぐする。
するとエリスはネオサスさんと同じように説明したので、皆の視線が一気にこちらへ向いた。
「……おまえ、誰だよ」
「クレディアだっていったじゃない。だからおまえって言わないで。私の友達なんだから」
「ふーん」
少年の視線がやけに攻撃的だ。
ぐさぐさと突き刺さってくる。
この目は見たことがある。
エリスが嫉妬して見せたものと同じだ。
つまり、少年はエリスが好きってこと?
エリスは可愛いから、納得できる。
けどエリスはニト先輩が好きで。
つまり三角関係!?
頭がぐるぐるしてきた。
私よ、待て。
ニト先輩が誰が好きかは知らないし、いるかもどうか分からないからその考えは早計だ。
とりあえず、ごくりと口に入っていた焼き鳥を飲み込む。
このままじゃ、のどに詰まらせてしまう。
ここは冷静に周りの様子を確認。
母が言っていた。
正しい判断が出来なくなったまま行動すると、最悪の事態となってしまうと。
私はまず少年の後ろにいる子供達が囁き合って何か話しているので、風魔法を用いて音を拾った。
「まさか伏兵がいるとは」「仲良さそうだよ」「杖を持ってる」「魔法が使えるかも」「怪しげなのに」「顔がいいかもだよ」「フード取ったらカッコよかったりして」「二人で買い物って、デートだよね」「イオは気を引こうとして精一杯なのに」「エリスの前だと強引なところがあるよね」「それでちょっと避けられてる」「男子はバカだから」「俺らもか!?」
私がいつの間にか恋の障害となっていた。
森での生活で訓練ばっかりだったせいで、私服はズボンが多い。
今日も女らしさがないズボンだから、男と間違えられたのだろう。
エリスとイオという名前らしい少年を見ると、どうやら私のことを話しているらしい。
エリスはイオが私に良くない印象を持っていると感じたのか、私の魅力について語っていてイオは不満げに聞いている。
それは逆効果だ。
どんどん私を見るときの顔が酷くなっていくことがそれを証明している。
私が女だって教えればいいんだけど、会話の入りどころが見当たらない。
聞き役が多い私なので、こういうときは困ってしまう。
「もうイオなんて知らない!」
内心オロオロとなっていると、エリスが怒った。
ずっとどう話しかければいいか考えていたので、どうしてそうなったか分からない。
そしてエリスは私の手を引っ張ってイオ達から離れていった。
「エリス、どうしたの? 何をそんなに怒っているの?」
「クレディアはなんで怒ってないの?イオは悪口ばっかり言ってたんだよ」
つまり、私の為に怒ってくれたということだろうか。
それは嬉しいけど、イオはショックだろう。
エリスに強引だったということから好感度が元々低かっただろうが、今回のことでさらに悪くなった。
イオが不憫すぎる。
「別に私は気にしてないよ。相手は意地になっているだけだから」
「……クレディアは優しいね」
フォローしたが失敗する。
「もしイオがまた何か言ってきたら、私が守ってあげる。だから安心してね」
逆に安心出来ない。
そんなことをしたら、余計こじれてしまう。
私は意気込んでいるエリスにそう言えないまま、残りの買い物を済ませた。
幸いイオ達とは会うことはなく、ほっとしながら新しき家へと帰ると、おばあちゃんが仁王立ちしていた。
その近くには、魂が抜けているニト先輩もいる。
「買いすぎだ!このバカ弟子が」
ゴンと拳骨が下る。
こうして私は夜遅くまで買ったものを部屋に整理し続けることとなった。
エリスも途中まで手伝ってくれたが、自分の家で食事をすると逃げた。
リューはお土産を買い忘れたことから、手伝ってくれない。
散々な日だとと全体的に今日のことを振り返って、私はこれからの生活に不安を抱いて眠った。




