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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
世界大震撼

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317/333

白兵の野戦 中編 ※ナリダ視点

残酷な描写有り。

 次の日も、昨日のように魔法の打ち合いから始まる。恐怖はあったが、それよりも魔族の死体に目がいった。昨日の引き際に死体は回収したが、それが叶わなくて残っている分がある。


「ナリダ、ランドルフの話は気にしなくていい」

「うん。分かってる」


 朝から言われていたことだった。それでも気にしてしまうから、こうも口酸っぱくなっているのだろう。

 その日も無事生き残り、またランドルフがやってくる。どうやら俺に負い目があるらしく、顔を合わせたら安堵された。


「昨日のことは忘れてくれ。頭のとち狂った、確証もない老いぼれの話だ」


 ランドルフも兄ちゃんと似たようなことを言う。でも、俺は見てしまったんだ。ランドルフと同じことをしている魔族を。

 魔石ではなかったが、羽を引きちぎって懐に入れていた。でも口にはしない。より心配をかけてしまう。


 ランドルフは幹部の話を振った。幹部は魔族の憧れで、その活躍ぶりから皆が皆、話題とするところだった。


「今回特に目立った活躍をするのは、新しく入ったクレディア様だな。年は見た目相応だっていうのに、賢者に負けず渡り合っている。今は亡き幹部も魔法使いだったが、その上をいく実力だ」

「へへっ。そうだよな、すっげえよな!」


 クレアが褒められているのはとても嬉しいことだった。自分のことじゃないのに、得意げになる。

 友人だって言えば「羨ましいじゃねえか!」と色々話を訊かれることになった。その関係上、人が集まって来て、クレアの母であるメリンダまでやって来る。


「私の娘は凄いのよ! 才能にたゆまず、ちっちゃな頃から努力をし続けてきた子なんだから!」


 滔々と産まれた頃から語り始まる。そんな親バカぶりに周囲は呆れているが興味はあるようで、割と真面目に聞いている者が多かった。


「あの人族のメリンダとゼノ様との間にできた子なら、納得の実力だな」


 ランドルフはメリンダまで憎悪を持っていないようで安心する。兄ちゃんと同じで、思いやりのある人なんだろうなあ。


「なあ、小僧。俺は老いぼれだから、これまでの経験からものを考えてしまう。だが、俺のように後悔して欲しくないから、つい色々言ってしまうのさ」

「そうなのか」

「ああ。いいか、魔族が悪じゃないって、頑固とした理性を持っていると知る人族はいる。王国が掲げる旌旗は見たか? 王族がいることを示す旗があるんだが、そいつは国の頂点だから確実に知っているだろうな。兵も過去に何度もやりあっている奴は知ってたりする。その上で投降しても、絶対に奴らは捕虜にすることもなく殺してきた。だから、この戦争が終わるまででいいから、人族には心を許すんじゃないぞ」


 ランドルフはぼそぼそと囁くような、弱い声だった。

 俺のためを思って言ってくれている。だが、憎悪を促すような内容なのは本人は自覚していて、後ろめたいようだった。




 三日目の野戦だ。初日のように記憶は飛ぶことはない。ただ白兵戦をこなす傍らで、ずっと考え事が止められなかった。ランドルフの話が、昨日のこともあってずっと頭にくっついて離れない。


 考えを断ち切ろうとするため、その分剣を振るった。斬って斬って、斬り続けて、そして俺の前に聖騎士が現れる。


「オーガよ、よくも数多くの同胞を殺してくれたな! 女神シャラードに代わって、この私が鉄槌を下してやる!」


 全身鎧を着て動きは鈍い分、盾を持っていることもあり防御が優れていた。装備の質の差で、支給品の量産型である俺の剣では歯が立ちそうにない。


「なら、自分の拳でやるまでだ!」


 そもそも剣は慣れていなかったのだ。ずっと連戦になるから、耐久力の問題で拳でなく剣を使っていただけだ。

 疲労が溜まっているはずなのに、体は思ったように動いてくれた。それどころか前よりも滑らかに、それも重い一撃が籠っている。

 でも聖騎士は強く、いっぱい殴っているのに倒れてくれない。その足は地面とくっついているんじゃないかって疑うぐらいだった。


「ああ、もうどうなってんだよっ。中身が重たすぎるんじゃないか、おっさん!」

「なっ!? この無礼者め! 中身は鍛えて筋肉質であるが、すっきりしとる! 鎧と盾に付与された魔法でそうなっているのだ!」 

「そーいうカラクリか!」


 とはいえ、攻略法は思い付かない。


 負傷覚悟で、聖騎士の片手剣を取っ払おう。盾と鎧は後回しだ。

 俺は片手剣の腹を横から殴ることにした。よく見てタイミングを合わせて……今だ!


 調子がいいし、成功すると思った。でも突然眩しい光によって邪魔される。精一杯身を翻したおかげで、腕の皮一枚斬られるだけに負傷は抑えた。

 俺は勢い余って、地面に転がる。何かにぶつかって止まったので見れば、それは魔族の遺体だった。


 魔物と同様に、魔族の肉体は死亡してから三から四日で魔素へと還元し、なくなる。初日に亡くなったとしてもまだ二日しか経っていないのだが、この遺体は傷が激しかったのか、心臓を中心に既に肉体が徐々に欠けている最中だった。俺がぶつかったせいでより速まっている。

 魔石を取らないと、と思った。知り合いでもないが、俺のせいでもうすぐ肉体すらもなくなる。でも魔石はない。

 俺は代わりに爪や牙などをと残っている体を見て、そして頬が負傷していたことに気付く。全身を鱗で覆われている魔族なのだが、魔法が当たったのか、鱗が剥げて見えるようになった肌が焦げている。


 いや、違う。剥げてはない。剥がされている?

 無理矢理鱗を取ったのか、そのせいで肌まで破れてしまっている。鱗は半分に折れているところもいくつかあり、それは見える肌から外側の方にだ。不自然で、人為的にされたことが窺える。

 なら、火傷も魔法によるものじゃない?


 想起するのは、夜に見た炎だ。俺は近くにいる人族を、聖騎士を睨んだ瞬間盾で殴られる。頭にやられて、吐き気のままに胃の中身を吐いた。

 ぐらぐらとする頭を持ち上げれば、聖騎士は剣を振り下ろしている。ゆっくりと流れる視界で、ぼんやりと光ったままの十字架があった。今更気づけても遅いよ。


「ナリダッ!」


 俺の前に立ち、剣を防いだのは兄ちゃんだ。ただ俺がいるせいで、その後がうまくいかない。立ち回りが制限されることになり、剣だけで聖騎士の攻撃をいなすのだが、盾で打ち付けられその剣は破壊されることになる。

 そして聖騎士は片手剣で、兄ちゃんの腕を斬り飛ばした。


「ああああああああああ!」

「兄ちゃんッ!」


 断面から血が噴出する。俺は追撃しようとする聖騎士を、片手剣もろともぶん殴った。刃によって拳は血で滴るが、兄ちゃんと比べたら大したことのない。

 片手剣から手を離してしまっているので、その剣を使い、聖騎士を抑え込んだ上で鎧の隙間からねじ込んで首の辺りを掻き切る。急いでいたから上手くいかなくてこの剣も折れるが、聖騎士は悶え苦しむことに夢中で、その場から動けなくはなった。


「兄ちゃん、ごめん、どうしよう。俺は、どうすればいい……っ」


 頭の中がぐしゃぐしゃだった。兄ちゃんは血を流しすぎてしまって顔は蒼白だ。尋ねても、答えられるわけがない状況にある。

 そこにランドルフが現れた。


「俺が医療部隊まで連れていく」

「お、俺もっ」

「小僧は仲間の助太刀だ! お前が抜けたら、この場はもたないぞ!」


 周囲を見れば聖騎士は他にもいて、仲間を追い詰めている。一人斬られたところで、俺は自分の務めを悟った。


「っ兄ちゃんを頼む!」


 庇ってくれた兄ちゃんの分まで、俺が敵を斃す。だからセレダ兄ちゃん、どうかソダリ兄ちゃんを連れて行かないでくれ。


 俺は聖騎士へ一直線に駆けた。途中、体が一気に重たくなるが、聖騎士も同じらしい。片膝をついてまでいる。

 どうやら地面に引っ張られているみたいだ。聖騎士は鎧がある分、かなり負担になっているらしかった。俺は上から下に、聖騎士を叩きつける。沸騰しているかのような感情がのり、鎧を大きく凹ませるまでに至った。ごぶり、と何かを吐き出た音がしている。


 俺は同じことを繰り返した。拳の骨が砕けて威力が出なくなるが、仰向けかうつ伏せにしてしまえば、立ち上がってこないことに気付く。

 聖騎士全員を戦闘不能するまで、それほど時間はかからなかった。

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