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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
世界大震撼

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311/333

魔族の反撃 ※辺境伯視点

残酷な描写があります。

 何の変哲もない日となるはずだった。戦争に向けてより一層砦での兵の訓練が激しくなっていたとしても、それだけだった。



 辺境伯である私は王国の最北端である土地柄故に、北に住まう魔族との接触が高くなる。魔族への撲滅のため兵を上げるからであるし、はぐれの魔族を討つためであるし、魔国からと称する使者を内密に処理するからである。


 魔族とは世間一般的には理性のない魔物と同じものとされているが、実際は高い知能を持って言葉を交わすことができ、やみくもに暴力に訴えることもない。

 だが、その真実は我らにとって体操都合が悪かった。魔族は悪で、我らが正義でなければ、侵略行為は咎められることになる。


 ……正直、うんざりしていることだ。二度も侵略して成果は出ず、犠牲者は出て費用がかさむ。王が魔族撲滅の栄光や領土拡大に執着していなければ、三度目なんて手を出しもしなかった。


 我がシュマイザース家は代々辺境伯を担ってきたが、魔国を建設し友好を図ってきた魔王の存在は初めてだった。手を取り合う可能性もあったが、国王の意向のためにかつてと対応は変わらない。徹底的な抗戦をして、王の命令に遵守し続けている。

 今回は勇者がいるので、魔族との決着がつけばいいのだがな。



 私は軍政のため、砦から帰れぬ日を過ごしていた。砦をも揺らす爆発が起こったのは、唐突なことだった。


「何事だ!」


 その場に答えられる者はいない。窓を開けていたことで「襲撃だ!」という叫びはよく聞こえた。

 詳細は執務室まで駆け込んだ者によってもたらされる。


「魔族どもが空から魔道具を投げ込んでいます! 魔法兵が狙撃しますが、防戦一方ですッ!」


 なによりも魔族の襲撃だったことに驚愕だった。想定はしていたが、魔物であれと願っていた。

 矢継ぎ早に舞い込む報告に、私は、いいや王国の認識が甘かったことに気付く。自国で守りを固め続けてきた魔国が、兵を挙げて攻めてきている。我が国が攻めていくことはあれど、逆の立場になるとは思いもよらないことだった。


 空のみに留まらず陸からも現れた魔族の存在や、今や遅すぎる宣戦布告の知らせを魔道具からもたされる。私は迷わず決断する。


「結界を起動する! それまではなんとしても耐えろ!」


 私は辺境伯としての務めを果たすことに尽力する。

 すぐさま緊急時に使用が認められる、砦を追おう規模の結界の魔道具まで駆け込む。大がかりな結界のため、その分起動には手間を要することになる。

 仕舞い込まれた魔石を設置してからの、結界が構築されていくのを待つ時間は苦痛だった。騒ぎの声はどんどん増している。戦況が良くなったのか、悪くなったのか。兵の奮闘や将官の手腕に期待するしかない。


 結界は無事に起動した。魔石から回路と発光して、証を見せている。歓声も上がったので確かなことだろう。

 連れてきた護衛が喜び浮き立つので、私は一喝する。


「気を抜くな! 空から襲撃してきたならば、魔族が砦内に入っているかもしれん! この魔道具が停止させられたら、一瞬で不利に元通りだぞ!」


 起動後は魔道具の守備に移行する。ここは地下であるから窓はなく、侵入口になるのは扉一つだ。だが、そこに至るまでには外扉から二階を経由してから、地下に行けるという複雑な道となっている。

 先程の言葉に反して、ここまで辿り着けはしないだろうと思う。侵入者がいても少数だろう。結界のため砦内の対処に専念できるため、早々に討てるはずだ。


 だが、魔族は悉く私の予想に反してくる。


「邪魔ヲスルゾ」


 地下の狭い空間には、不釣り合いな大きさだった。全身を岩で構成しているその魔族は、かずたの同族を死に追いやったことで有名すぎた。


「『金剛の破壊者』か……!」

「モンディエダ。其方ガ辺境伯当主デ間違イナイカ」

「そうだ。私がウーヴェル・クルツレイシャである」


 魔道具を背後にし、無様に震えそうになる体に鞭を打った。護衛全員で挑んでも勝てる見込みがない相手だ。私も武術を扱えるが、一人加わったところで結果は変わりはない。


 モンディエは何かを投げた。危険物かと警戒して、それは私が一番信頼を置く将官であることに気付く。首だけとなっており、壮絶な最期だったからか目はむき出しとなっていた。


「降伏スルナラ命マデハ取ラナイガ、ドウスル」


 モンディエの拳は血で染まっている。断った後の私の姿がありありと想像できた。骨は砕け、肉はひしゃげる。将官の首の切断面だって、なんて荒々しいことか。


 剣を握ることなくだらりと力が抜けたことから、抵抗なしと判断され拘束される。魔道具の元に行くモンディエだが、破壊するまでもなかった。


「クレアノ方ガ速カッタナ」


 魔道具の発光が収束していた。結界は防衛の最高峰で、魔力が続く限り破られたことはない。


 それをなした魔族がいることに、私は恐れおののいた。

 我らの行く末はどうなってしまうのだろうか。王国の滅亡を幻視して、「ははは」と乾いた声が出る。

 どうか寛大な処置をしてくれればいいのだが、我らが今までにしてきたことだがある。シャラード神教の聖騎士に促され、慈悲も与えなかった。


 命を取られはしないが、死よりも酷いものが待っているのではないか。

 判断を間違えたと今更に暴れるが、もう遅かった。自刃できないようにあらゆる拘束が加えられ、牢屋に入れられる。私は祈りながら、そのときを待つしかできなかった。


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