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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
世界大震撼

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306/333

先行き不安な勇者一行 ※ヴィオナ視点

聖女視点。

 ウォーデン王国第一王女マデリア・ウィズラモールが、魔族に攫われた。その一報により世界は大震撼する。勇者一行もその対象に漏れない。


「ご厚意に感謝します」

「ええ。どうぞごゆるりとお過ごしください」


 とある貴族の邸宅にて賓客として滞在することになった。主人は人格者であり、私達の様子を察して挨拶もそこそこに部屋に案内してくれる。私は暫くここで一休みしようと決める。それほどまでに真希様の精神状態はよくない。


「ごめん。僕は先に休ませてもらうね」


 第一王女との深い仲は良く知っていた。文通の中身は改めさせてもらっているので、男女の仲に近いことも把握している。

 真希様は第一王女の辛い状況を日々憂いている。抵抗空しく、無理やり攫われてしまった惨状はよくよく伝えられていた。


 私はそれが偽りであることを知っている。暗部によって、第一王女は自らの意思で魔族についていった事実を調べさせた。また、第一王女が直接来て、弁明している。

 だが、真希様は第一王女の言葉をもってしても、事実を歪曲して認識する。頑なに第一王女は攫われたと思い込み、魔族を率いる魔王を討ち、救い出そうとしている。私の諫言も聞き入れようとしなかった。

 誰かにとって、なんて都合の良い流れなのだろう。見え見えの黒幕に、私は苛立ちが募る。その原因がその他にもあるのが辛かった。


「あ、いいもんみっけ! バンヌ、皆どうせ食べないし、二人で食べちゃおっ」

「うむ」


 もてなしの洋菓子を発見して、わあわあとはしゃぐヤナイはメイドにお茶を頼んでいる。ヤナイはまだいい。優雅さのない無遠慮さには、長旅の付き合いにて慣れている。

 問題は最近仲間として加わったバンヌと、もう一人についてだ。


「ヴィオナも喉は乾いているだろう?」


 バンヌはそう言ってお茶を勧める。気遣いはできる男だ。元々騎士であったからか、性格は善良である。だが、その方向性が空回ったり、行動を起こすと全力で突き進んだりする。結果、思う通りに事が進まない。

 目を離した隙にどこかへ消えてしまうことは何度経験しただろうか。話が通じないときはあるし、これで戦闘に不満があればユレイナと同様に追放しているところだ。戦闘については私が目をつけて仲間に誘ったのだから、不満がないのは当然のことだが。


 私ははしたなくも、グイッとコップの中身を飲み干す。バンヌはそれを見て、メイドの仕事を奪って新たに注ごうとするので、私は「結構です」と拒否する。全く、油断も隙もありませんね。

 バンヌは持て余したポットをどうしようか黙考し、私に次いで空となったコップに注ぐ。


「バンヌ殿。私に気遣いは無用ですよ」

「遠慮しないでいいぞ」

「いえ、遠慮ではなくてですね……あの、入れすぎではないですかねえっ!?」


 バンヌの後に加わった仲間は声を荒げていることは、私にとって痛快だった。

 勇者一行は勇者の他に、癒しの聖女、斥候や遊撃の盗賊、盾となる騎士という構成で、魔法使いの存在がずっと探していたものの足りていなかった。そこでウォーデン王国から派遣されたのが、オットマーという名の男である。


 パーティーとしてのバランスは良くなったのだが、私はオットマーが気に入らないでいた。真希様を侮っているかのような態度が、ちらちらと垣間見えるのだ。魔法使いとしての腕は確かだが、その自負が強い印象もある。つまりプライドが高い。

 聖女である私への対応はそつが無いのだが、ヤナイは丸々とその弊害を受けているようだ。『あいつ、きらーい』とは本人談である。

 ヤナイはバンヌとの仲は良好で、だがオットマーにとっては気を狂わせてくるバンヌは苦手らしい。誰にでも同様に接するバンヌを除けば、三すくみの状態ができないこともない。



 そんな勇者一行の現状に、先行きの不安を感じる。新たな仲間により戦闘面は盤石になったが、真希様の精神状態や特にオットマーは信頼できない。

 真希様の元に行こうとするオットマーを、私は止める。


「お休みの邪魔をしてはなりません」

「私はその助けとなるために行くだけですよ」

「お一人でいたい気持ちが分からないのですか」

「聖女様こそお分かりでないのでは? 勇者様は日頃頭痛に悩まされているそうですが、私と共にいれば和らぐとのことです」


 頭痛に関しては知っていることだった。だが、私の癒しでは治らぬことから、原因は精神的ストレスと思われる。

 私の力の及ばぬところを、オットマーならできる? 真希様との付き合いが短いこの男が?

 気が合うだとか、性別の違いがあるからだとか、そんな理由では納得いかなかった。だが、オットマーが側にいることを厭う真希様の姿は一度たりとも見たことがない。


 私が言い返せないでいると、元々細い目が孤になっていく。私をも見下しているのだろう。



「ゴズ」

「ここに」


 暗部の筆頭は姿を現さないで、声だけ発する。


「何か調べはつきましたか」

「戦の準備が着実に進んでいます。此度の本国は聖騎士団を最低限だけ残し、遣わすようです。物資の方は大公国に圧をかけ、王国内でも念入りに搔き集めています」

「本気なのでしょう。上層部から何か言を預かっていませんか」

「……聖女の務めを果たすように、とのことです」

「それだけですか」


 私がひっそりと進めていることには、多少なりとも把握しているはずだ。大きな事を起こすには大人数が必要となるので、どこかしら情報は漏れる。ただ相手は厳選しているため、大部分までは知られていない。


 聖女の務めとは、勇者の補佐。これまでの魔物を斃したり人助けなんかではなく、ようやく本命である魔王討伐へ動き始めるのだろう。戦争の訪れからして、確実にそうだ。

 そこに聖女の務め以外でかまけているな、と牽制しているかどうかは微妙なところである。



 私は暗部以外誰もいないのを確認した客室にて、錫杖を手に持つ。ここで首に下げる十字架のネックレスはいつものように片手で持って祈る振りはしない。女神シャラードなんかいないのに、人目がない以上する必要はなかった。


「――我が行く末に幸あるか?」


 詠唱は短く、問いかける形で。占う対象は私だ。真希様でないところが、献身さに欠ける聖女の表れである。私は聖女の務めをさっそく放棄していた。


 錫杖は手を離しても床から浮く。その浮く時間だったりが、占いの結果となる。

 錫杖は浮いている間、ふらふらと揺らいだ。かなり長い時間をおいて、ゆっくりと床に落ちる。シャン、と音が立った。


 まだそのときではないらしい。私が行動に移すのに問題はないが、時期がある。

 あまりよくない結果だ。魔王討伐までには来て欲しいものだが、情勢から見て望みは薄い。

 占いは頻繁に行っては結果が揺らぐ。遠い未来について占ったから尚更だった。時期については、日をおいて確認していくしかないだろう。


「そのときまで、私は生き延びているといいのですが」


 行動に移すことができるのか、占った内容とは別問題となる。だが、死なない自信はあった。生に執着してここまで来たのだから、私の想いが枯れない限り、誰にも殺されやしない。

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