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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
世界大震撼

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301/333

整理

「ただいま。帰ったよー」


 村にある我が家に帰れば、どたどたと音を立てて二人の少年少女が出迎えに来てくれた。


「「お帰りなさいっ」」


 私の前で速度を一気に落とし、ピンっと姿勢を正しくしている。少年は人族のノエで、少女は獣人のサリィだ。片やシャラード神教の暗部でドーピングをされながら育てられ、片や奴隷として既に修復済みだが腕を切断されたという不遇な境遇を経験している。

 人国よりは魔国で暮らした方がよいという判断により、我が家にて預けられていた。私が留守の間、母と共に暮らしていたのだが、今は城にて滞在していることもあり、村全体で二人の面倒を見てもらっている。といっても村人からは時々様子を見にいっているだけと、二人は逞しく、協力して生活できているようだった。


 久しぶりであるからか、二人はとても元気がよい。サリィは普段は私を見ると隠れたりするのだが、はにかみながらも顔を合わせてくれる。


「困ったことはなかった?」

「「うん」」

「二人とも仲良くなったんだね。私が引き取っていて顔も出せていなかった上でなんだけど、安心したよ」


 私ばっかりが二人を独占していてもなんなので、話はそこそこにリュークとロイにも譲る。

 ハルノートはいなかった。この家は元々両親と私とリュークに合わせて建てられているので、彼を覗く五人もいれば手狭になるのだ。それに幼いノエはともかく、ハルノートは大人の男性である。私に好意を寄せているという関係もあり、以前のように別々の家で泊まることになった。


 それにしても、皆年齢が低いこともあって和む光景だ。一番身長が高いのはロイで、順にノエ、サリィ、リュークとなっている。

 リュークは言語の特訓を経てから、人化している状態が多くなっていた。ゆっくりでありながらも人語を介して、今はお土産を渡している。


「これ、どうぞ」

「わあ、果物がいっぱい……!」

「食べきれるかな?」

「そしたらジャムにしたらいいんだよ。保存がきくし」

「ケーキとかパイも作りたいなー」

「そのままでも、おいしいよ?」


 ほのぼのしてるなあ。戦争やハルノートとの話で荒んだ心が洗われていく。

 療養には一か月以上はかかる予定だ。いつもは魔法の研究や鍛錬で暇を潰していたが、彼等に混ざって穏やかに過ごす時間を多くとろう。思えば最近は各地で奔走していて、且つ療養後は戦が待っている。穏やかに、がとても魅力的に見えてきた。極秘の書類も読んでおかないとなあ。



 荷物は魔法の鞄で纏まって入っている。生物以外は何でも入れられるため大量に物が入っているが、出し入れは詠唱だけで簡単に取り出せる。

 といっても長期的に生活するためそのままにはしないで、整理も兼ねて部屋に置いていく。ノエとサリィはそれを手伝ってくれた。それも後遺症があると知ったら、よりあくせす働いてくれる。

 いつの間にか私は指示を出すだけになっていた。皆が優しすぎる。初日からロイにより安静をモットーにとされてしまったので、完治となるまでこの状態が続きそうだった。


 後遺症といえばノエも同様の立場である。ドーピングの副作用により、特に精神的な悪影響があった。


「シュミットさんはちゃんと定期的に来てくれてる?」


 主治医のことだ。父の研究仲間であるが故か、研究のためならば見境がなかったりする。私の中では危険人物としていた。


「うん。でも、この先はあんまり来れないって」

「城勤めだし、かなり忙しくしてるのかな」

「そうみたい。でも僕、最近は感情が変なふうにならなくなってたし、元々そうするつもりだったって。『まー大丈夫でしょ』って言ってた」

「うーん。言い方に不安があるけど、シュミットさんいつもそんな感じだしなあ」

「一応ね、非常時用の薬をくれたんだよ。でもまだ一回も使ってないんだ」


 なら、本当に大丈夫なのかな。腕は確かな方である。

 ノエは鬱であったり、気分の高低差が激しくなったりしていた。精神の不安定なところがあったが、見たところ落ち着いている。


「少しでも不安なことがあれば遠慮なく教えてね」

「クレアもだよ。僕なんでもお手伝いするから」

「じゃあ時々頼らせてもらうね」

「任せて」

「主様。これはどこに置けばいい? 大切なものだよね」


 サリィはブレスレットを指差す。学園祭での風習の、エブスキーとお揃いのものだ。


「そうだよ。よく分かったね」

「キラキラしてるし、高そうだから……」

「ああ、確かにね」


 貴族であるエブスキーがくれたので、その通り中々の品物だと思う。


「ひとまず私が預かっておくよ。貰ってもいい?」

「どうぞ」

「ありがとう」


 丁度いい箱に入れたいところだけど、家にあったかな。

 ロイの分の荷物も整理したところで、家の中を物色する。セスティームの方の家と同じく、こちらも所々配置が変わっていたり者が増えていたりしている。


「んー、ないなあ。作った方が早いかな?」

「何がだ」

「っ! ……びっくりした。驚かないでよ」


 窓の外から声をかけたのはハルノートだった。


「機嫌は直ったのか」

「そっちこそ」

「まあいいが、それ」

「……これが何?」


 ブレスレットのことを見遣るので、咄嗟に背中に隠す。なんとなく見咎められた気がした。


「随分と大切にしてるんだな」

「まあね」

「今後つけたりするのか」

「……しないよ。けど、時々見ようかなとは思ってる」

「でも振ったんだろ」


 なぜそのことを知っているの?


「本人から訊いた」

「顔に出てた?」

「ありありとな」

「まだ機嫌悪いね」

「そりゃそうなるだろ。お前が――」

「言わなくてもいいっ」

「あっそ。なあ」

「……なあに」

「デートしようぜ。今度はちゃんとしたやつ」

「ちょっと待って。私、ハルノートとデートしたことないよ」

「だろうな。俺はしたつもりだったが」


 いつの話のことだ。直近で思い出せるのは、彼とロイの贈り物を買いに行ったことだ。

 多分当たりだ。でもあのときの私、徹夜でかなり酷い状態だったと思うのだが。


「逃げねえって言ったよな」

「その話を持ちかけるのはずるいよ」


 でも話をするだけって言ったし、逆に都合がいいかもしれない。


「いつにする?」

「明日はどうだ」

「駄目。その日は私と予定がある」

「レナ。予定なんてあったっけ?」


 ハルノート側にレナが俊敏にやって来る。


「…………今できた。だから後回しにして」

「勝手話だな」

「…………友達の特権。クレア、お願い」

「いいよ」

「おい!」


 ハルノートは無視しておく。

 せっかくだし先延ばしにしておこうっと。いつかはしなくてはならないので、無意味なことだが。


「…………ありがと。楽しみにしてる」


 レナはさっさとどこかに行ってしまう。ハルノートも「てめえ、どういうつもりだ!」と追いかけていった。


「なんか、あんまり重要な話じゃなさそう?」


心当たりもあってすぐに了承したが、そんなこともないらしい。

 やけに弾んだ声だったのが、私には不思議だった。

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