パーティー解散
「話には聞いていたと思うけど、私は戦争にいくことになったの。さっき、両親にも認めてもらった。療養し終わったら、きっととても忙しくなると思う。だから…………パーティーを解散しよう」
あまりに勝手なことだった。これまで散々迷惑をかけて、最近は冒険者活動なんて殆どできていない上での仕打ちである。
ハルノートとロイは責め立てはしなかった。
「私もお供します」
「それは、私が戦争にいくから?」
「はい」
正直、予想していたことだった。ロイの献はそれほどまでの域にある。
「駄目」
「なぜですか! 主がいる場所が私の居場所です。どこであろうと共にいます!」
「戦争でそんなことできないよ。もしも私が前線に配置されるなら、きっとその後方だよ。魔法使いだからね。でもロイは違うでしょう」
ロイは魔法を使えない。狼人であるから保有している魔力はないに近く、使うことがあっても精々身体強化ぐらいだ。
「私と共に戦争に行くというなら、前線の中でも先頭に駆り出されるよ。魔法が飛び交う中、敵と接近戦をこなすことになると思う。それがロイはできるの?」
「できます」
「私のためだから?」
「はいっ」
「……ロイが私のことをよく思ってくれていることは知っているよ。でも、かつての恩を返したいだけならもう十分報いてくれてる」
「それだけではありません! 私はただ主の力になりたいのです!」
「そう」
私は努めて冷酷に言う。
「いらない」
「――え?」
「ロイの力はいらない。だって、弱いもん」
明確な意図をもって、私は傷付けていく。
「魔族は皆戦闘に秀でてる。ロイは小さいから体力はないと思うし、そのせいで目をつけられて無駄死にするだけだよ」
「そんなことは、」
「あるから言ってるんだよ。私とパーティーを組んできた今までで、実感してきたでしょう」
戦闘に関して、同格であったことはなかった。ハルノートからは教えを受けていたことがあるし、私もしてきた。
「……私は、確かに弱いです。単純な戦闘力だけでなく、精神力までも。主が溺れたとき、ハルノートと違って私は何もできませんでした。やるべきことも分からず、主が死ぬかもしれない恐怖に震えていただけです」
ロイは顔を伏せて、跪いた。
「主が側にいなくていいというならそうしましょう。私の存在が主にとって煩わしくなるというなら、その願いの通りにします。ですが、私に相応しい場所ならばいいのですよね」
ロイは精神力が弱いと言ったが間違いだと思う。顔を上げて見せた眼はなんて力強いのだろう。
私になんか愛想をつかせればいいのに。ロイは自分のできることを探して、決して諦めたりなんかしない。
「療養期間中はお傍に、それ以降は暇をもらいます」
「危ない真似は許さないよ」
「心得ております。少々席を外しますね」
「まだ話は終わってないっ。ロイ!」
「ごめんなさい、主。私にも、私なりの考えがあるのです」
追わんとすると、ハルノートが止める。
「好きにさせてやればいいじゃねえか。昔はあんなに嫌がってたのに、今じゃあ立派な主然としてるな」
「……そうだよ。私がロイを受け入れたからには、その努めがある」
「だが、ロイの次は俺の番だろ? 先に話ぐらい聞いていけよ。その間には戻ってくるかもしれねえがな」
「ハルノートはロイの味方をするの?」
「そうじゃねえが、するだけ無駄なだけだ。放っておいても死にやしねえよ。あいつはお前と共にいたいがために努力してきた。それをお前自身に否定されようとも、今持てる力をもってできることをしようとしている」
「それは言われなくても分かってる」
「なら信じてやれよ」
「……」
「お前の両親は、信じてくれたから戦争に行くことを認めてくれたんだろ」
「私の場合は、リュークとお母さんが私を守る方面でしぶしぶ認めてくれただけだもん」
「……まあ、後は当人同士でやれ。俺からは言えることは言った」
「じゃあ私は行くから」
「おい。まだある。どれだけロイのことばっかりなんだよ」
言い方に少しドキっとしてしまったのは、私の気にしすぎだろうか。
「ハルノートとは後で話せるでしょう」
「どうせ今からじゃあどこ行ったか分からねえだろ」
「人に訊くからいいし」
私はハルノートを振り切って行こうとする。それを彼は手首をとって、壁に押し付けることで身動きをとれなくした。
「あんま嫉妬させんな」
「!? ど、どいてよっ」
「顔逸らすな。俺がなんにもしねえからって、安心してただろ。それにかまけて様子見ばっかして、今に逃げるのは遅えよ」
「なんで今なのっ。ここ、お城だからね!?」
「あー、そういやそうだったな」
「忘れてたの!?」
「じゃあよ、別の場所ならいいんだな」
「い、いいよ。話だけならね」
「言ったな? ぜってえ逃げんなよ?」
彼はすんなりと手を離す。理由はジト目をして既に帰って来ていたロイで、私はその卑劣さに嫌になる。
だから療養場所である村に到着するまで口を利かないでいると、彼も機嫌を悪くして拗ねてしまう。多少の溜飲は下がったが、ロイのことも合わせて先に不安しかなかった。




