学園祭デート
あまりにも集まる視線が集まっていて、私はひるんでしまう。
「ねえ、ほんとにするの……?」
学園祭デートというものを。
エブスキーが魔法対決も相まって、学園内に知らぬ者がいない程名が売れていること。そんな優秀な彼を、私が独占してしまっていること。生徒と偽っていること。男装姿でなく、薄鈍色以外はありのままの私の姿であること。魔女とバレてしまうこと。そしたら多大なる迷惑を彼にかけてしまうこと。
「ああ。僕は全て承知だ。大丈夫、いざとなれば僕が守ってみせる。……それとも、僕では不安か?」
「ううん。そんなことないよ。でも私はエブスキーの相手として不足だから……」
女性陣とか、男性陣に至っても尊敬やら嫉妬と、見定めているのかまだ直接迫られてはいないが、私は様々な人からそう思われていることだろう。私のせいで大変苦労させてしまうことが予想でき、心苦しかった。
「もしも私のことを問いただされても、きっと何にも答えることができないよ。話をそらすとか、そういうことをうまくできる自信はないから、エブスキーに負担を押し付けることになっちゃう」
「そのぐらい、僕にはなんてことない。皆には僕が口説いている女性として、押し通させてもらうとするよ」
「!?」
「事実だろう?」
笑いつつ彼は先導する。
まずは私が昨日興味を持った、学生が行った研究結果の展示を見に行くことになった。思っていた以上に人がいない。
「殆どの学生は研究より、他の催し物に興味があるからな。来るのは勉強熱心な者と、後は招かれている高名な魔法使いだ」
魔法使いは自らの所属する研究所や魔道具生産場の人材勧誘をするのだそうだ。アイゼントのような学生は、研究結果の披露や説明に来ている製作者以外には一人もいない。
もしかして私ってズレてる?
私は面白いかもしれないが、アイゼントにはつまらないかもしれない。だが彼はさくさくと展示を見ていく私に、あれこれとその内容の感想を言う。返事をしている内に考察が発展したりして、私は展示に夢中になり気付いたら時間があっという間に過ぎていた。
「アイゼント、ごめんね。時間かけすぎちゃったよね」
「そんなことはないぞ。なんならもう一周、見ていくか?」
「ううん。次はアイゼントが行きたいところに行こう。連れてってくれる?」
「ああ。だが、途中でクレディアが面白そうなものがあれば寄っていこう。僕はクレディアが楽しいと思っている表情を見ているだけで、僕も同じようにそう思える。だから先程のように遠慮しないで、興味があるところがあれば言ってくれ」
「……分かった。じゃあ、アイゼントもだよ。お互いにね。後、私のことはクレアでいいよ。クレディアでもいいけど、仲のいい人は皆そう呼んでる」
ずっと気になっていたことだから、事のついでに言う。チェイニーとアイゼントは愛称で呼ぶが、共にいた時間が短いエブスキーは自覚して一歩後ろに下がった位置にいた。彼から言ったのだから、遠慮はなしである。
「クレア」
その名前には、たくさんの想いが込められていた。それでいて甘くとろけたような表情であるから、予想外の攻撃として不意打ちをもらってしまう。
「っ、」
「クレア、あれはどうだ? 香ばしい匂いがして小腹も空いたし僕は食べてみたいと思う」
「いいと思うよっ!」
顔は見せないようにするため、そのお店へと私が前に立って彼を引っ張っていく。
エブスキーは真っ直ぐに想いや言葉を伝えてくるから、そのたびに私は気恥ずかしさでいっぱいになってしまう。
学園祭では料理人を呼んでいたり、学生が火や氷魔法を生かして手軽にできる熱々の肉串や氷菓子を売っているので食べ物には困らなかった。その他にも大きな劇団や曲芸団、演奏家もいて、学生も各々で催し物をしている。
全部を見て回る時間がないことに残念に思いながら、気の向くままに学園祭を楽しんでいった。魔法学園ということで、魔法に関連付けたものが多いのが、普通の祭りと気色が異なり面白い部分だった。
その一つとして、前世でいうところの射的があった。用意された杖を使用して的を倒さないといけないらしい。その杖と的がなかなか曲者だった。
「的が遠いし、杖に癖がありすぎるだろう」
「そこは腕の見せ所ですよ。ナンバーワンの実力、ぜひみせてください!」
「む……」
「あと一回ですよ。先輩頑張れ! ああ、駄目だったかあ!」
「お前、揶揄ってるだろう……」
杖には魔法の軌道を変える仕組みがされているようで、三回チャンスがあったが最後は的をかすめて終わってしまった。惜しい。
意地悪い性格の後輩くんが、エブスキーでも難しいことを喧伝して人を呼ぶ。それが悔しかったらしく、「もう一回だ!」と再度挑戦するらしい。コツを掴んでいたらしく、今度は最初の一回で的を倒して見せた。
「やったぞ!」
「残念だなあ。次は隣の君もやってみる?」
「やめておいた方がいいぞ。これはぼったくり目的だ」
「先輩酷いなあ。まあ、間違ってはいない」
「ほらな」
「そこまで言われると、逆にやってみたいかな」
後輩くんは快く、エブスキーが使用していたものとは別の杖をくれる。徹底してるなあ。
「うーん。これも中々にひねくれた杖だね」
「見るのは杖じゃなくて的だよ。ほらほら速くっ」
「こいつは放っておいて、自分の好きなタイミングでいいぞ」
「じゃあ、さっそく」
魔法を使っては怒られてしまいそうなので目視で解析し終えた後、杖を真上に向ける。魔力を込めれば、無属性の弾が当然上に放たれて斜め後ろに、そしてまた軌道を変えて的の真ん中に直撃する。
修正も考えていたが、運がよかった。ふふん、と得意げになる。魔法が関わると私はこういうところがある。
「どう?」
「一杯食わされました。どーぞ、景品です」
「ちゃちだな。もっといいのはないのか」
「ええい、じゃあこれだけくれてやりますよっ。お似合いカップルはさっさとどっかにいってください、空しくなる!」
一口サイズの菓子を両手の上に山盛りにもらい、追い出される。すると先の射撃と後輩くんの声で、多くの学生に囲まれた。
「エブスキ―様、その方は誰なんですか! まさか、本当にカップルなのです!?」
「お揃いのブレスレットですし……いやあああっ!」
「綺麗な彼女といちゃつきやがって、羨ましいぞ。こんちくしょうっ」
様々な言葉をかけられて、頭が混乱してしまう。女性陣からのは覚悟していたからいいが、男性陣のはなんだか背中がぞくぞくする視線でついエブスキーの背中に隠れてしまう。
「クレア。少し失礼する」
「え? わっ!?」
菓子を持っているものだから、何にも反応できずにいつのまにか膝と背に腕を回されていた。なんだかつい最近にも、同じことをされたような?
抱えられたから体勢が不安定になって、私は彼の上着にしがみつく。
「もっとしっかり掴まっていてくれ。飛ぶぞ」
「私もできるのにっ」
「男の役得を見逃せなくてな。許してくれ」
風魔法を用いて人を飛び越えてしまう。私は落とされないように必死にしがみつくことになった。おかげで私の自尊心と菓子はめちゃくちゃになる。
「後でおぼいておいてよっ」
「ははは! なら、気が落ち着くまでは抱えたままでいるかな」
「そしたら自分で勝手に下りるからいいもんっ」




