私も大好きだよ
半魔であるミカル君のために、偽装の魔道具を作成する。私は既に二回は経験済みであるので、作るのには何の問題もない。薄紫色だけで容姿を変更する訳なので、なおそうだった。
材料集めも問題はない。品質の良いものは金額さえ糸目につけなければ、より取り見取りといった具合だ。流石魔法学園のお膝元である。
核となる魔石も、供給分を少なくできるよう大きなものをコルネリア教師からもらっていた。金はない引き換えに、材料は手広く備えているようである。
「先生、どう? 色変わってる?」
「ええ」
「似合う?」
「この前合わせたときと全く同じ色なのですよ。心配せずとも似合ってます」
「やったっ」
完成した魔道具は腕輪の形にしてある。昔と比べて私の技量は上がっているので、髪と目に近い場所としてピアスにする必要はなかった。また日々つけることを考えて金属製のものではなく革製にして、成長に合わせてサイズを調整できるようにしてある。
ミカル君は気に入ったようなので安心する。大切に使って欲しいな、と思う。とはいえどこかでぶつけて壊す心配もあるため、予備の魔道具も送った。
「ありがとう、魔女さん。これで僕、隠れなくてすむ」
「どういたしまして。でも過信しないで、気をつけて過ごすんだよ。感情の高ぶりで色が戻ってしまったり、ずっと一緒に過ごせる人とかがいたら些細なことでバレたりするから」
「その言いぶりだと、経験則ですか」
「そうですね。よっぽどの限り、起こりはしませんが。コルネリア先生、ミカル君のことしっかり守ってあげてくださいね」
「言われなくともそうします。それより貴方は貴方自身に集中なさい」
「私、ですか?」
「私は賢者の弟子です」
息を呑んで、彼女を観察する。その言葉の意味はなんなのだろうか。
「私は全面的に貴方の味方になることはできません。ミカルのことがありますが、自由よりも命の方が大事です」
「警告、ありがとうございます。その心意気だけでも十分です」
彼女は詳細を語りはしなかったが、わざわざ私に伝えるぐらいである。賢者が私に対し、何かしら興味を持っている。または何かしようとしているかもしれない。
これは軽々しく考える事柄ではない。一人で行動せざる負えない学園内では危険で、用事も終わったのだから学園祭を待たずに撤退するべきだ。
だが、全身で喜びを表しているエブスキーを見れば、そう言いだすこともできない。
お揃いのブレスレットを見てはニコニコと笑っている。その無邪気さに、私はいつ賢者と戦闘になってもいいよう心の準備をしておくに留めた。こういう人の機敏に私は弱い。
ただ一度面と向かって敵対したことのある仲間のハルノート達や、魔国側に知らせを送っておく。なにせコルネリア教師が賢者の弟子など初耳なことだ。触れ回ることはしない性格だったので、学園内では全く知られていないことだった。
学園祭まではやることもなくなったので、冒険者稼業をする。かなり久しぶりだった。
言ってはいないが、私が変わらずエブスキーと接しているのを察されていた。ご機嫌取りではなかったが、むすっとしていた表情が改善されたので良かったことだ。
また予定が変わったので、彼のお守りも作ってしまっていた。
編み紐を絡ませてしまうことを笑われながら、丁寧に教えてもらう。好みの石を、今回の場合は魔石の形をフレームに、編み紐でぐるりと一周させる。首から下げれるよう、小さな輪っかを作って別の紐を通して縛れば完成だった。
「やってみれば、そんなに難しくないね」
「最初全然できねえとか言ってたのにか?」
「もうっ。最後には綺麗にできたからいいでしょう?」
「ああ。お前からかけてくれるか?」
「いいよ」
立ったままでは届かないので座ってもらい、お守りを首にかけてしまう。
「似合ってるよ」
「どんな感じにだ?」
「ええ? 普通にだよ」
「カッコよくはねえのか?」
「ふふっ、褒められたいの?」
そういう用途のために作った訳ではないが、容姿端麗なハルノートが身につけてしまえば魅力は増す。だが、そこを正直に言ってしまえば面白くはない。
からかって「似合ってるよ」とだけ、再度伝えておいた。
そんなこんなであっという間に日は経ち、学園祭まで前日となった。私は深刻な面持ちで、チェイニーと向かい合う。
「どうすればいいと思う?」
打ち明ける悩みはエブスキーのことである。同年代の友人はあっけらかんと言ってのけた。
「相手を傷つけない告白の仕方なんて、どう言ったって無理なものよ」
「……やっぱり?」
「ただ、きっぱりと潔く断るのはいいとして、他にも言葉はかけてあげるのよ。理由とか、友人として思いやっている今の気持ちとかね」
「…………それでも辛くなって、疎遠になったりしないかな」
「クレアから疎遠にしなければ大丈夫よ。私としてはこちらの方が心配だわ。私達が押し掛けなければ、一生こうして話もすることはなかったかもしれないのよ?」
「私、今はちゃんと友人関係を続けたいと思ってるよ」
拗ねるチェイニーはかわいらしかった。申し訳なく思わなければならない場面なのに、そんな彼女に心が暖まっていく。
「正直に言ってしまえば、私は生粋の貴族だから恋愛観なんて冷めたものよ。だから政略結婚はしているし、我が国の利益のために、クレアみたいに価値ある人間を繋ぎ止めるためにエブスキーの告白を断らないで欲しいという考えだって持っているわ」
「……そうだったの?」
「ええ。アイゼントはそれ込みで、エブスキーを紹介しているわよ。友人の贔屓もあるでしょうけどね」
エブスキーは恋愛としての好きをよく分かっていない私にでも伝わるぐらい、その想いを言葉や行動にして表してくれた。だから私はその想いを受け入れる、受け入れないという尺度でしか考えてこなかったので、利益の有無なんて言われて藪から棒だった。
彼も内心ではそれ込みで、告白をしてきたのだろうか。想いを邪推してしまって、ぐるぐると考えが拗れていく。
そんな私に、チェイニーは嘘偽りのない真っ直ぐな声をかけた。
「でも、私が一番に優先するのはクレアのことよ。アイゼントと違って私はエブスキーとの関係は薄いし、国の利益なんて貴方の幸せを考えれば二の次だもの」
だから、彼女はエブスキーとの付き合いを勧める言葉はかけない。だが、学園祭をきっかけに好ましくなったら、今の意見を真っ向から翻すことに恥と思わないで、私のしたいがままに行動して欲しいと願った。
「チェイニーって、私のこと大好きだよね」
「……!? 当たり前じゃないっ。あっ!」
「私も大好きだよ。何かあったら、今度は私が相談にのるから言ってね。力になれるようなことがあれば、駆けつけに行くから」
「……忙しい身なんだから、そう易々と言っては駄目よ。でも、そうね。そのときは頼らせてもらうわ」




