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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
ソレノシア学園

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徹夜

 マデリア姫は自分で引き起こした惨状について、教師にひとしきり叱られた後、見るからにしょんぼりとしていた。


 今日は彼女について情報収集しよう。

 演習後も尾行して、観察を行う。おっとりとした性格なのか、何もないところで躓いていた。

 また、ぼんやりと授業を受けているときに、教師に問題を問いかけられている。教師からは目をつけられているらしい。


 深い仲の者は見られず、昼食は一人でとっていた。他の生徒からは遠巻きにされながらも、はらはらと見守っている空気が感じられる。

 とても気持ちが分かる。次の瞬間には何かをしでかす不安さや、悪気があって行動している訳ではないのでつい目をかけたくなるのだ。


「お姫様には見えない人だね」


 添島くんはこういう子が好きなのか。

 文通はシャラード神教とウォーデン王国所属の者によって、それ以外の他者の存在を挟まず行われている。なので内容は見れていないようだが、勇者側の近辺からは恋仲になれるよう応援されているらしい。


 文通内容も把握する必要があるよね。徹底的に調べ尽くす、とはそういうことである。

 寮生活である彼女の部屋内も見なければならないので、予定を頭の中で立てていく。


 姫であるとはいえ、学園では専属護衛や侍女はいなかった。寮の警備をなんとかしてしまえば、侵入は容易いことだろう。

 魔道具が設置されているかもしれないが、魔法関係ならどうにかできる自信があった。



 放課後になって、マデリア姫は帰ることなくあてもなく学園内を歩き回っていた。何の目的があるかと思いきや、時間をつぶすためのようだ。

 彼女は昼食を園庭にあるベンチでとっていた。静かな場所を好むようで、人の少なくなった図書館に入っていく。

 私も時間を置いて続いた。


 圧倒的な書物量を誇る図書館はとても広い。興味深いタイトルに目移りしつつ、彼女を探す。隅にある書架におり、見つけ出すのは遅くなってしまった。


 台を使わず、高いところにある本をとろうとしている。手には何冊も抱えている状態なのに、なんて無茶をするのだろう。

 陰ながら見守っていたが、本が雪崩を打ってしまえばそうもいかなくなった。


 姿を隠していた魔法を解いて、マデリア姫を抱えさせてもらう。体に本がぶつかるが、身体強化して耐えしのいだ。


「……大丈夫ですか」


 一先ず声をかける。またぼんやりとしているようだから、そっと足を地面につけて立ってもらった。


「これ、取ろうとしたのですよね?」


 目当ての本を差し出す。両手で持ったと思ったので手放すと、本は落下した。


 衝撃からは全て守ったはずだが、どこか打ってしまったのだろうか。

 助けただけでも姿を隠して諜報していた身としては大変なことをしてしまっているのに、怪我をしているとなれば更にいけない。


 物音を聞き付けて人が今にも駆けつけてきそうなのにと内心慌てていると、彼女はようやく反応を示す。


「ご、ごごごごごめんなさいぃぃぃ!」


 顔を真っ赤にして走り去っていった。

 ぽかんと呆気にとられるしかない。追いかけることもできず、取り敢えず人が来る前に魔法も用いて最速で本を棚に戻す。ただ彼女が取りたがっていた本と元々持っていた本だけは手にもって場所を移動した。


 本は合計五冊あり、タイトルを見ていく。


『初代勇者の軌跡』

『勇者と魔王』

『勇者カイトの英雄譚』

『ウォーデン王国の推移』

『世に隠された真実!? ~噂と不可解とあの人の動き~』


「なんか最後の一冊は毛色が違うけど……あ、これにも記述がある」


 その本を適当に開くと、折り目があったページになり発見する。彼女がつけた跡ではないかもしれないが、内容からしてそうだと当たりをつける。


「勇者について調べたかったの?」


 つまり両思いなのかな? よかったね、添島くん。


 マデリア姫の奇行によって、キャパシティーを越えた脳では変なことを考えてしまった。これではいけない。


「借りるのはできないよね……」


 よし、内緒で持ち出すしかない。

 空は赤く染まり、閉館の時間である。五つの本が収められていた箇所を探しだして細工をし、宿で読み漁る。


「主、手伝いますよ?」

「ううん。夜も遅いし、ロイは先に寝てて」

「……ではお先に失礼します」


 おやすみと挨拶を交わし、私は徹夜を覚悟する。次の日には図書館に戻しておきたい。

 要所を掻い摘んで見ていく。気になる箇所は夜禽を用いて、魔国側に問い合わせておく。野禽には魔道具運びもあって連日大働きであった。


 本の内容は興味深かった。勇者関係についての情報は持ち合わせているが、専ら魔族側の視点のものある。いくつか内容が食い違っているところや、初めて知る内容だってあった。

 特に歴代の勇者についての記述は面白い。魔国は歴史が浅いため、記録などにして残されているものは少ない。人から聞いた情報に偏っていたので、人間側に都合がいい内容であっても読むのは苦ではなかった。


「朝ですが、ずっと読んでいたのですか? 体に悪いですよ」

「ガウガウ」

「でも後もうちょっとだから」

「もう、主は集中するとこうなんですから。食事だけはちゃんと取ってください」


 盆に乗せて持ってきてくれた朝食をありがたく胃に収める。眠気に襲われながらも文字の列に挑んでいると、ハルノートが訪ねてきた。


「今日はどうするんだ」


 なぜかこそこそと声を潜めていた。そういえばハルノートと贈り物を選びにいくのだった。

 すごいサプライズに徹底しているなと思いつつ、昼からにしてもらう。


 それまでに図書館に本を返しに行き、時間が遅れぎみなことに大慌ててハルノートが待っているという広場に駆けつけた。


「ごめん。待ったよね」

「いや、こういうのもありだ」

「こういう……?」

「なんでもねえ。それよりふらふらじゃねえか」

「徹夜したからね」

「はあ!? ……じゃあまた今度にするか?」

「うーん。いいや。ハルノートに悪いし、ここまで出てきたからね」


 渋るハルノートの腕を取る。頭がいつもより働かないぐらいなので、心配いらないよと私は笑う。


「ほら、行こう?」


 ぐいぐいと引っ張っていけば、思いっきり溜め息をつかれた。


「失礼だなあ」

「それはこっちの台詞だ」

「まあそうだね。正直に言うと、すっかり忘れてた」

「おいこら」

「ふふふ」


 口が軽くなってしまってしょうがない。まあいっか、と徹夜明けの気分の高さで道を行く。

 ハルノートは私に掴まれたままの手をほどいて、自分の手と繋ぎあわせる。


「おちおち歩かせられねえ状態だからな」


 顔を合わせることなく前を向いていた。

 リュークと違って大きいなと、にぎにぎして感触を確かめる。頼りになる手だった。


「何から見る?」

「片っ端から。のつもりだったが、最低限で行くか。まず飯食ったか?」

「まだ」

「俺もだ。まず腹を満たしに行くぞ」

「うん」

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