魔法演習
「ロイって、何か欲しいものとかある?」
「主がくれるものが、私の欲しいものです」
「…………ほら、具体的にはないの? 何でもいいよ?」
「あえて言うならば……服ですね。勿論、主のです」
それはロイが欲しいと思うようなものじゃなくて、私が思わないといけないものだよね?
私服が少ない私へと当てつけかな。落ち込みながらも、私はハルノートのところにも突撃する。
「ハルノートって、何か欲しいものある?」
「急になんだよ。なんかくれんのか?」
「うん。私、二人を連れまわしてばっかりで、全然冒険者稼業できてないでしょう? 埋め合わせと日頃のお礼も兼ねて、何か送りたいなって」
前々から考えていたことで、ようやく実行に移せたことである。二人は事前に承知して私の事情に付き合っているが、それにかまけて何もしないのは違うだろう。
感謝の気持ちが伝わるよう、何か贈りたかった。二人が欲しい物を尋ねているのは、サプライズも考えたが本人にとって一番欲しいものをあげるのがいいと思ったからだ。
まあ、冒険者というのは荷を少なくしなければならず、そのせいで形のあるものを必需品以外購入しないことから好みが分からなかったこともある。食の好みなら把握しているが、魔法の鞄があることだしそういうのもいいだろう。
「どう? 何かある?」
「今すぐには思い付かねえな。ロイはなんて言ってたんだ?」
「私が欲しいものが欲しいものだって」
「あいつらしいな」
「ロイのは私が選ぶつもりだけど、どうする? 後日買いに行ってくるから、それまでには決めてほしいけど」
ハルノートは口元に手をやって考えに耽っていたが、目を見開くと口端を吊り上げる。何かを企んでいるかのような笑みだった。
「俺も買いに行くのにつれてけ。その場で決める」
「ああ、その手があったね。明日でいい?」
「おう。……リュークにも何かやるのか?」
「うん。高級な果物を奮発しようかなって」
「じゃあ二人で行くぞ。贈るもん秘密にした方がサプライズになるだろ」
「分かった。ならそうしよっか」
リュークは寂しがるが、こういうことなら快く納得してくれる。
やけに気分よくしているハルノートを珍しく思いつつ、今日も今日とて学園に潜入する。三日目となるが、とある場所に来るように言われていた。
学園の敷地内にある森に隣接するグラウンドで、大勢の生徒が集まっている。端から様子を見ていると、集団は三つに分かれて魔法の実習を始めた。
私は一人外れた場所にいたチェイニーを見つけて近づく。
「来たわね!」
「これっきりにしてね。教師の目もあるんだから」
嬉しそうに綻ぶもんだから、怒るに怒れなくなってしまった私である。
「魔法を見て欲しいって、別に授業中でなくてもよかったのに」
「いいじゃない。雰囲気を味わえるでしょう?」
短い杖でもって、鮮烈な炎を生み出していた。無詠唱であっという間に構築してみせた手並みは見事だった。
「いっぱい練習した?」
「それはそうよ。貴方を追い抜かす程じゃなかったみたいだけれど」
「私は実戦ばっかりしてるからね。攻撃魔法ばっかりに特化してるけど」
「私としては羨ましい限りだわ。領内では魔物との戦闘を強いられるもの」
「ブレンドゥヘヴンを討伐して何年も経ってるけど、魔物の被害は減らないの?」
「元々魔物が多いの土地なのよ。学園から帰省しても、休む暇なく討伐、討伐、討伐よ? 一人娘だっていうのに、人使いが荒いったら……」
「まあまあ。それぐらい頼りにされてるんだよ」
「そうといえば重力魔法よ。あれ、我が家で秘匿されている極大魔法なのよ。ちょっとぐらい教えなさいよ」
「駄目だって。前も言ったでしょう?」
「ケチ」
「こればかりはね」
不満だと体全体で表しているチェイニーには諦めてもらうとして、生徒は思い思いに魔方を使用していた。
全体的に見れば、皆詠唱しているようだ。といっても、魔法発動まで要する時間は短い。
的を狙っている生徒を見てみると、威力もあってある程度の距離があっても的中している。水がしぶきとなって、陽の光を反射して私だけでなく大勢の生徒から注目されていた。
「って、アイゼントだ。そういえば同じ学年だったね」
「ええ。あら、次はエブスキーがするみたいよ」
「本当だ」
杖でなく剣を媒体にしているようで、振り下ろすと風が刃となって的にとんでいった。
命中すると同時に拍手が起こる。女子生徒からの歓声もあって、驚いてしまった。
「人気なんだね」
「貴方ねえ。告白してきた相手の感想がそれだけ?」
「ええ……。でもチェイニーなんて、アイゼントの魔法見て何も言わなかったでしょう?」
「あのぐらい、私にもできるもの」
「アイゼントもエブスキーみたいに人気だよ? 取られちゃうって焦らないよ?」
「牽制しているもの。それにアイゼントに釣り合うのは私ぐらいよ」
「そっか」
なんともよく分からない価値観だ。恋愛感情はどこにも見えなくて、貴族の婚約とはこんなものだと納得しておく。
「でも見てると、私も魔法やりたくなってくるね」
「やればいいじゃない。今なら教師の目もないわよ」
「じゃあおかまいなく」
氷魔法は使い手が少ないので、風魔法で行うことにする。
弱い威力でくるくると手のひらの上で遊び、気付くかなとアイゼントとエブスキーに送ってみた。
「あ、」
「直ぐバレたわね」
手をひらひらと振られる。私達の付近にいた令嬢がきゃあきゃあと嬉しそうに青春していた。アイゼントは彼女等にも応じて愛想よくしている。
彼がチェイニーを疎かにするような人ではないだろうが心配になる。だが、彼の元に歩いていくチェイニーは強かで、これも別の意味で心配になった。
「チェイニー、牽制しすぎて女友達いなかったりしない? 大丈夫?」
「そ、それは言わないお約束よっ!」
早足になった彼女を見送り、私は年回りの近い生徒の魔法を新鮮な気持ちで眺めていた。
そして人がぽっかりと開けた場所で、一人の女子生徒が佇んでいるのを見つける。
「あの人が……」
目を細めて、私が情報を集めていた目的の人物だと確信する。
私が学園に来た目的は一に半魔の噂の調査。二にアイゼント達と仲を深め、できたらヘンリッタ王国の内情を知ること。三に彼女についての情報収集である。
マデリア・ウィズラモール。それが彼女の名前だ。魔国の仮想敵国であるウォーデン王国の第三王女であり、勇者と文通する仲という。
勇者として立った添島真希は始原の光の精霊と契約している。相反する闇属性をもつ魔王様に決定打となる存在として今でも動向は注意しており、その弱点としてマデリア姫が注目された。
彼女に関する情報は全て調べつくし、報告するように言われていた。自然と視線が厳しくなってしまうのを直しつつ、それとなく観察する。
魔法を構築していて、ぶつぶつと詠唱していた。扱う魔力は大きく、これほどの生徒がいる中では危険だった。
そして、魔法が暴発する。
「きゃう!?」
「避けろっ! またマデリア様がやらかした!」
彼女の気の抜ける声とは裏腹に、広範囲に地面が揺れる。私のいる場にまで、くらりとよろめく程のものだった。
「……これは中々の問題児だね」
昨日そんな噂を聞き及んでいたが、これ程とは思っていなかった。マデリア姫の周囲は凸凹となって、階段ぐらいの段差までできている。




