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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
波旬の復讐

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271/333

※まとめ(+おまけ)

登場人物紹介(雑)

おまけは獣人の少女「サリィ」視点。腕を聖騎士に切られた子です。わちゃわちゃしてます。

【クレディア】

 本主人公。半魔。

 非公認の称号『魔女』として、指名手配されている。


【リューク】

 クレディアの相棒。小龍。

 人化すると小女のような幼子となる。


【ハルノート 】

 エルフ。精霊魔法と弓を得物とする。


【ロイ】

 狼人。メイド姿がスタンス。


【ゼノ】

 クレアの父親。齢500以上らしい。


【ノエ】

 シャラード宗教の暗部に属していた少年。

 ドーピングづけにされていたが、治療により小康状態。


【シュミット】

 ゼノの研究仲間。性格は破綻しているが、医師であるその腕前は高い。


【ミーア】

 クレアの母であるメリンダの女友達。

 せっかくの休みを返上し、アイゼントの護衛を勤める。


【ネオサス】

 メリンダの男友達。

 ミーアを犠牲とし、家族で心穏やかに生活しているらしい。


【チェイニー・オントルキン】

 男爵令嬢。ソレノシア学園の生徒。

 魔力は火・土属性。重力魔法を一部補助ありで扱える。

 ドMの執事をもち、とっても苦労している。


【アイゼント・スゼーリ】

 公爵子息。ソレノシア学園の生徒。

 魔力は水魔法。クレアの弱みを握る。


【ベラニー】

 半魔の女性。意地っ張りで自尊心が高い。

 半魔の中では腕っぷしは随一で、魔力が多い方。


【リンサ】

 半魔の老媼。齢500ほど。

 おばばと半魔に呼ばれ、慕われている。


【エブスキー】

アイゼントの友人。貴族。ソレノシア学園の生徒。

過去にクレディアは顔を合わせたことがありはする。


【ズソウ】

 竜種のスゥの騎手。配達員として勤める。


【グローサー・ライザッツ】

 人族の老爺。『賢者』の称号をもち、ウォーデン王国に帰属する。


【ソレノシア学園】

 有数の魔法学園。


 *


「どう?」

「…………苦い、です」


 緊張で止まっていた息が一気に吐き出た。立つ力さえも抜けてしまいそうでぐっと足に力を入れていると、おねえちゃんことロイが頭の耳を下げていた。私の犬耳も垂れていない立ち耳であったなら、同じように下がっていたに違いない。

 おねえちゃんは雑然とポットや茶葉の入った袋などと置かれた机に、新たにコップを追加する。その中身は一口分だけ減っていた。


「っ、」

「っ厳しめに言い過ぎました! とっっっってもおいしいですよ! ほら、乾いていた喉にピッタリです! ッ、げほッげほッ」

「…………ふぇ」

「!? 泣かないでください! あう、いったいどうすれば……」


 おねえちゃんの言葉を受け、滲む視界からは唇を噛んで堪える。涙を見せては、声を上げては鬱陶しがられた経験があった。ここでもそれは変わらない。

 駄目な子だと、ぶたれるのかな。痛いのは嫌だが当然の行いだ。私は悪い子。悪い獣人。


 奴隷から解放してくれた彼女らに身寄りのない私は引き取られた。生まれてからずっといた場所から半魔の住処を往復し、今はあの市街から遠ざかった町の宿にいる。

 衣食住を用意されて以前とは比べ物にならない好待遇を受けた。あまりに満ち足りた生活に、私は不安になる。


 何かをしなければ。役に立たなければ。


 だが現在の惨状からして、全く正反対のことをしでかしてしまっていた。体を縮こませて、これ以上癇に障らないようにする。

 するとビクリと震える余地なく、ふんわりと体が包まれる。


「――サリィ。大丈夫、大丈夫ですよ。別に怒ってなどないです。サリィは良かれと思って、紅茶を用意したのですよね。最初に私が味見をさせていただきましたが、想いが籠っています」


 ありがとうございます。

 そんなぽかぽかする言葉に、私は顔が見えていなくて良かったと思う。目からつうっと流れる感覚に、服に顔を埋めて対処する。


「そして、その点に限りサリィはとても才能があると思います。そう、メイドの才能が」

「へ?」


 ガバリと身を剥がされ、目が点となる。急でびっくりだ。涙の跡はちゃんと消えているかな。


「メイドとは他者を思いやる気持ちが必要不可欠です。主が何を欲しているのか、何が足りていないのか。常に先を見て行動し、主の手と足となるのです。サリィは見事、それを成し遂げました。甘えるばかりでいた私のときとは大違いです。とても凄いことですよ」

「そうかな? えへへ……」


 おねえちゃんは私と同じ奴隷だった人だ。そして同じ人に助けられた。獣人であることも含めて私と境遇が似ていて、でも私とは違って足は速いし家事など色々できる。

 そんな人から、私は褒められているみたいだった。話は早口もあってほとんど分からなかったが、嬉しいな。


 そうぼけっとしていたから、私は話に流されることになる。これが人生を大きく左右する岐路となるなんて、今の段階では思いにも至らない。


「サリィはメイドに向いてます。貴方自身もそう思いますよね?」

「え? う、うん。そうなの?」

「ええ! なれば、私が立派なメイドに育ててあげます! さあ、さっそく今から取り掛かるとしましょう!」

「え、え、え? ちょ、ちょっと待っておねえちゃん。私、メイドをやりたいなんて言ってな――」

「丁度いいので、紅茶の入れ方から教えましょうか? 本来ならば、メイドの心意気や掃除といった教育から行うのですが――やる気もあるみたいですし?」

「!? やる!」


 そういうことならば、一旦おねえちゃんの言葉にのるのも悪くはない。むしろいいことだ。役に立ちたいと思う元になった人は、何もおねえちゃんだけではない。


「おそらく見様見真似で紅茶を入れたのでしょうが、葉は混ざっていますし、本来ならば甘さが特徴であるのに苦くなってしまっています。まず必要になる茶こしやティーコゼ、砂時計の準備をしましょう」

「うん!」

「ああ、その前にティーカップやポットにお湯を入れて温めておきます。それと、言葉遣いも正していきましょう。『うん』ではなく『はい』ですよ」

「は、はい!」


 紅茶を一杯入れるだけで、とんでもない情報量を叩き込まれた。煮立てたり、蒸らすときに一息入れる時間もない。好みの濃さだとか、提供するときの立ち振る舞いその他諸々で、頭が爆発してしまいそうになる。

 つい泣き言を漏らしそうになる口を必死に留めていると、独白に近い形で言われる。


「良かったです。いつかは弟子を作らねばならないと思っていました。継承のため、村を出るときにも言われていましたからね」

「そうなの? あ、そうですの?」

「ぷ……っ、はい。それに私は老い先が短いですから。魔力が殆どないせいで、主とずっと共に生きることは叶いません。ですから、サリィもどうかお願いします。果てしない時を過ごされる主を、どうか、一人にさせないためにも。……後、『そうですか?』ですよ」



 完成した一杯目は個人的には美味しいものだったが、おねえちゃんが入れたものと飲み比べれば妥協もできない酷いものだった。

 二杯目、三杯目、四杯目とくるとお腹が紅茶でちゃぽちゃぽになって、飲めずに湯気を眺めているときである。


「あれ、二人で何してるの?」

「主様!?」

「なあに? 内緒ごと?」


 慌てて紅茶類を背で隠すが、ちっちゃな体では直ぐに見破られた。


「せっかくだし飲みたいな」


 おねえちゃんが経緯を説明して、つまりはそうなる。なんてことだ。

 コップを運んで、ゆとりのある別室に移る。そこにはリュークやハルノートもいた。


「わあ、おいしい! 今日初めだったのに、サリィは凄いね」


 私は顔が一気に熱くなる。とても恥ずかしくなって、元々おねえちゃんの背の後ろにいたのを完全に体を隠してしまう。

 それは、そうだと思う。注いだ紅茶は私のものだが、おねえちゃんがいつのまにかバニラ・ティーに仕立ててしまっていた。見た目からでも、別物だってものが丸わかりだ。


 甘いものが大好きな主様はご機嫌に飲んでくれている。殆どがおねえちゃんのおかげとはいえ、私は感激して体が震えてくる。

 そんな私を呆れたおねえちゃんが背から引っ張り出してくるが、無理。無理だよ。


 主様であるクレディアはとてつもなく強く、かっこよく、優しく、綺麗で、何でもできる人。つまり、秀でた人である。人と魔族の両方の血を持つ、誰もが恐れる半魔でもある。


『さあ、皆纏めてかかってこい! 魔女たる私が叩き潰してくれる!』


 初めて目にしたときのことだ。張り上げられた大声の直後に木々がその場を埋め尽くし、恐れが湧き上がる。だがその前に、切断された腕の痛みさえ忘れて、私はその姿を目に焼き付けた。

 私は見惚れた。そのときはまだ私を保護してくれる存在だとも知らなかったはずなのに、身の危険を感じる前に敬服した。


 私にとって主様は恐れ多い存在だ。視界に入っているというだけで、気恥ずかしさが全身にまで行き渡る。

 だが、それは嫌いという意味ではなく、むしろ好ましいからこその反応だった。


「へえ、珍しく俺の分はあんのか。どっかのメイドはいつも出してくれねえからな」

「飲みたければ自分で入れればいいのです。今回はサリィの優しさに感謝するといいいですね。どっかのエルフは」

「あ゛?」

「もう、喧嘩しないでよ。特にハルノート、今のは貴方が悪いからね。すぐ口に出すんだから…」

「ふん。……てか甘いな、これ」

「ハルノートの好みは度外視で教えましたので」


 二人の諍いはいつものことらしい。暴力に発展しないか、いつもハラハラしてしまう。

 そこで主様が割り込み、強制的に仲直りの握手というものをやってのける。


 流石主様だ、と感動していると、顔が私の方へ向く。


「サリィ、ありがとうね。気が向いたときでいいから、また入れてくれると嬉しいな」

「っ、はい!」

「う!」

「あ、リューク」


 人化したリュークからコップを受け取る。覗き込むと綺麗に飲みほされていて、嬉しくて手を繋いでぐるぐるする。

 ちょっと目は回るが、楽しい。最近専ら行う遊びで、人のときと龍のときでは感覚が違ってくる。


 くたびれたら終了で、えへへと笑い合っていると、「サリィ」との声。

 主様に見られてる!? というか、見られてた!?

 体を硬直させていると、手を伸ばされていた。向かう先は私の顔で、ギュッと目を瞑る。感触は浮かれていた私の制裁の痛いものではなく、犬耳を撫でるものだ。


「……?」

「…………恐くない?」

「え? ……ううん」

「そっか」


 主様は口元を真っ直ぐの線にしていた。そうぎゅうっと力を入れているようで、何でなのかなと働かぬ脳で思う。


「主、サリィが困っていますよ」

「でも、もふもふだよ!」

「浮気ですか。私がいるのに……」

「それとこれとは話は別!」


 神妙な顔で、主様は私から離してくれない。我が儘な主様は初めてで、胸にときめくものがある。が、それとは別として。


「嫌だと、思わないの……?」

「私が? ううん、思わないよ」


 ここは、暖かいところだ。

 獣人ということで、差別をしない。下手なことをしても怒らず、優しく心を包み込んでくれる。


 もしもメイドになったら、この暖かいところにずっといられるのかな。

 私は魔国という国にまで、送り届けられることになっている。主様を筆頭に、おねえちゃんやロイ、後ハルノートと離れることになる。


 嫌だとは言えなかった私で、待ち受けるのは寂しさと孤独か。

 魔族がいっぱいいるという話だが、彼女らのように暖かいところだとは限らない。そうだったとしても、私はここにいたいと思う。居心地がよく、安心できる。


 主様達も、そう思ってくれればいいのに。

 一人、そう思う。これを理由に、メイドになる決断をするのは遠い先のことではなかった。

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