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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
波旬の復讐

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不審者

 武芸者を引き寄せるため、目立つように魔法を炸裂させていたときだった。攻撃魔法とは異なるなだらかな風が舞い込んでくる。

 私は魔法紙を取り出すと、案の定通信がかかっていた。


『――、―――!』

「なに!? 今戦闘中だから全く聴こえないっ」

『――右だ!』


 武芸者の叫びや魔法の破壊音に紛れて、アイゼントの声が届く。見遣ると仮面を被った不審者が大量にいた。


「……」

『おい。見ているのだろう。速く来い』


 大分考えてから、重力魔法を解除して地に降り立つ。そして闇魔法で自身の現し身をつくり、物影で交代して時間稼ぎをする。映像なので雨に打たれていないことから直ぐにバレてしまいそうだが、一時姿を暗ますだけなら十分だろう。


「アイゼントとチェイニー達だよね?」

「そうだ」


 仮面を外されると見知った二人の顔が現れる。他の者についても同様にその護衛であろう。

 これ、突っ込んでいいもの?

 アイゼントはニヤリと頬を吊り上げた。


「どうだ。見事な変装ぶりだろう」

「そうだね?」

「なぜ疑問系なんだ」

「いや、ううんと…………仮面って流行ってる? ほら、貴族社会でとか」

「そうと言ったら?」

「……とてもお似合いですね? っ痛い!?」


 チェイニーに容赦なく叩かれた。痛む頭を押さえながら睨むと、「ふんっ」と顔を背けられる。

 ならはっきり変だよ、って言った方が良かったの? それならそれで絶対叩いてくるよね?


 仮面は顔を丸々と覆い隠すようなもので、刻まれた紋様は不気味なものであった。

 アイゼントのような男性でも首を捻ることになろうが、チェイニーのような女性には特に全く持って似合っていない。又、好みだと喜んで着用はしないだろう。


「アイゼントが用意したの! 決して私なんかの趣味じゃないわっ!」


 紫紺の色を隠していない私との接触時の、顔を隠すものをチェイニーは手持ちがなかったらしい。それは事前情報なくただ護衛の任として付いてきていた護衛達も同様で、そうしてアイゼントが貸し出すことになった。

 なぜ仮面なのか、なぜ全員分もあるのか。疑問は若干不機嫌でいる本人が答えてくれる。


「……余興だ。なんならクレアの分もあるぞ」

「いらないよ」


 私の趣味ではない。

 貴族の感性はよく分からないなあと考えていると、考えを読んだチェイニーから「一緒にしないでくれる?」と再度叩かれた。


「アイゼントが悪いのに、なんで私ばっかり……っ」

「魔女とその一味よ、覚悟ッ!」

「今取り込み中だから、後でっ」

「ぐえっ」


 氷塊を頭上に落とし、黙らせる。だが、一人の武芸者が居場所に気付いたら、その後を追って他の者も集まるという連鎖は必然だ。

 わらわらと集う武芸者に、体を強張らせながらも剣を構える護衛に私は問う。


「ねえ、主を守るためなら何でもする気概はある?」

「あるよ」


 ミーアさんが即答する。他の護衛もどういう意味かとまごつくが肯った。


「じゃあ頑張ってね」


 護衛全員に魔法をかけてにっこりと微笑むと、彼等は嫌な予感がしたそうで顔を引き攣らせる。

 まあ、間違ってはいない。


「魔女以外の半魔!?」

「俺が全員一網打尽にしてやるぜえ!」


 狙いは私以外にも、髪を紫に変色させた護衛にも別れた。これで話をする余裕ができる。


「ちょっとクレアァァァァ!?」

「だから、私じゃなくてアイゼントが悪いんだよ」


 無駄話の分の時間は、護衛の皆さんに補ってもらう。

 私も多少は手伝うから大丈夫だよ。相手もそうだけど、貴族の護衛をしている貴方達も相当の実力者でしょう?


「鬼畜ね」

「使える手は使ってるだけだよ。遠ざけたのに二人は来たからね」


 ただ来るとは予想していた。通信の魔道具で応援を呼びはしなかったが、彼等の目的が『私がなすことに興味がある』からこんな危険な地に残っているのだ。


「私に接触したのは助力のためでいいよね?」

「ああ。魔力切れや集中力の問題があるだろう?」

「とはいってもあれだけの人数を一人で対処できていたあたり、必要ないみたいだったけど。……ねえ、あれは重力魔法でしょう。後で教えなさいよ」

「オントルキン家では伝わっていないの?」


 ブレンドゥヘヴン戦では極大魔法として重力魔法を一つ扱っていたが、他は途絶してしまっているのだろうか。


「そうよ」

「なら秘密。私は知り合いに教わったけど、それを勝手に教えていいものか分からないから」


 リュークの母のベリュスヌースのことである。そういえば彼女にもとてもお世話になったのだから、手紙を送っておかなくては。そのときにチェイニーに教えてもよいか訊いてみよう。

 返答してくれるかどうかは不明ではあるが、不満そうにしていたチェイニーは取り敢えず了承してくれる。そして私は「もう話は終わっていますよね!? 速く援助してくださいぃぃぃ!」と悲鳴混じりの護衛に迫る魔法を相殺した。


 武芸者は足の遅い魔法使いがぞくぞくと到着したことで勢いを増していた。時々混ざる聖騎士も厄介であり、場所を移すことにする。一人のときより機動力は格段に下がるので、私は氷で障害物をつくりながら殿にいたときだった。


「うおおおお! 俺は英雄になって見せるッ!」


 男が槍でもって投擲する。過去に似た言葉を聞いたことのある私は顔を顰めつつ風魔法で軌道を逸らし、その後に撃退した。


「……英雄だなんて馬鹿みたい」

「なんだ。嫌な思い出でもあるのか?」

「まあね」


 まだ自分が半魔とも知れなかった頃の話である。私の色を見て殺そうとしてきた男も同じことを言っていた。


「嫌な世の中」


 だからその世を変えるために、こうして行動しているのだが。


 乾いた音を聞きつけ、空を見上げると照明弾が上がっている。そしてそれ以上に爆音が鳴り響くのは広場の方向からだ。建物に隠れ何も見えはしないが、ハルノートが時間稼ぎから逃げの一手を取ったのだろう。無事にいるのかな。

 不安を抱きながら、私達も撤退に移る。丁度場所を変えている最中だったので、それは容易だった。

 隘路に入り込み、私は道を分厚い氷の壁にて塞ぐ。そうして夜に姿を暗ませ、半魔との合流を果たした。

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