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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
波旬の復讐

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誇り高き者

 私は今夜決着をつけると宣言していたが、復讐は何も連日行われるとは決まっていない。

 準備が無駄にならずに済んでよかったと、その一つである魔法紙を把持しながらアイゼントに魔法で報を入れる。


「半魔を発見。アイゼント達は持ち場に待機して」

『了解。今度はへましないようにな。後、例の件も宜しく』

「はいはい。魔力の無駄」


 プツリと通信を切る。紙には魔法陣が描かれており、臨時で通信の魔道具の役割を果たしている。

 魔国ファラントにその魔道具があればよかったが、遠距離の情報伝達は専ら夜禽で支給されるにも物がなかった。だから今回は込めた魔力分だけ通信できるものを、自前で作成し用いている。

 残量は先程の会話を後四回分程だ。緊急連絡用のため消費は少なければ少なければいいのに、アイゼントの幾重にも渡っている念押しには正直うんざりしている。


 彼の言う例の件とは、紹介する人に会って欲しいというものだ。ハルノートによって有耶無耶にされていたことだが余程会って欲しいようで、耳に胼胝ができるぐらい聞かされた。

 一度顔を合わせたことがあるらしいが、エブスキーだという相手の名前を聞いても何も思い出せない。貴族らしいので過去にアイゼントの護衛任務をした際にかと当たりをつけたが、どうやら違うらしい。

 とにかく会って欲しい頼みには、恋愛絡ということで気が進まない。だが、このしつこさだ。会った方が面倒がなさそうである。


「ガウ!」


 声掛けにより、目的の人物までは後少しと知る。個人的にも魔力探知で調べると、声を拾った際にもそうだったが二人でいる。

 私達は以前の反省を生かし、努めて相手を過度に刺激しないようゆっくりと近付く。この時点で偽装の魔道具の効果は切ってあった。


「こんばんわ。一昨日ぶりだね」

「どうやってここに……っ」


 剣の柄を握りしめる顔見知りの半魔に、私は制止をかける。


「前にも言ったけど、話を聴きたい訳で争う意思はないよ」

「魔法で私の足を絡めとった癖によく言う」

「足止めだったの。話も聴かずに逃げようとしたんでしょう?」

「ガーウっ」


 リュークがそうだそうだと肯う。それでも身構え続ける彼女に、私はどうすればいいものかと窮する。


「脅しはしたくない」

「貴様の存在自体が脅しだろう」


 それを言われると何もできなくなるんだけど。

 彼女は顔をこわばらせながら、私の一挙手一投足に瞬きもせず目を離さない。暫くその状況のまま動かないが、覚悟を決めたらしい。

 重心が前に傾き、接近せんとする。一歩踏み出したところで、私は魔法を発動させる。彼女は目を見張る以外に動くことは叶わなくなった。


「夜は私の領域だよ」


 後は魔王様もである。


 人気のない場所として夜でもただでさえ明かりが乏しいに潜んでいたことから、手近な闇を用いて彼女の四肢を拘束するのは簡単だった。暴れようとするところを一度硬く縛り付け、緩める。

 解放されて前のめる彼女は眉を顰めた。


「くそっ」

「物分かりが良くて助かるよ」


 これでも交戦しようとするなら、応じて反抗的な意欲を叩き折るしかなかった。

 私はもう一人の半魔を見遣ると、頭部に獣耳を二つと生やす彼女は膝を折る。


「魔女様とお見受けられますが、正しいでしょうか」

「うん。でも大仰すぎるから気を楽にして。魔女の呼び名は好きじゃないから、他の呼び方だと嬉しいな」


 どのような立ち振る舞いをしていいか分からなかったのだろう。姿勢を正したことでほっとする私を見て、相手も肩の力を抜いた。


「それで貴方達は話をしてくれるってことでいいのかな。同族として興味が湧いた他にも理由があって、どうしても聴いておきたいのだけど」

「……そうしたら、貴方は力になってくれますか」

「私にできる範囲ならね。復讐の助力はできないけど」


 逆に止めなければならない立場であるが、これはまだ口にする段階ではないだろう。ただ人死にが出ることは阻止したい。

 黙考後、彼女は縋った。


「ならばお話しします。話させてください。元より半魔である貴方の手を欲していました」

「そうなの?」


 それにしては思いっきり拒絶されたのだけど。


「はい。私を含め、皆は歓迎しています。ただベラニーだけが頑固でして……」

「借りなくてもいい手は借りなくていい。自分らのことは自分らで解決すべきだ」

「それができないから、手詰まりになっていたのでしょ。何かできる手段もないのに、勝手なことを言わないで」

「ぐ……」


 どうにも要領は掴めないが、復讐とは直接的に繋がらない話になるのだろうか。私の助力は復讐とは別にところで必要とされている。


「こい!」


 ベラニーは私の腕を引っ張り、どこかに連れ行く。逆らえぬその強引さに、私は困惑する。


「どこに?」

「貴様の実力を確かめてやる」

「ええ?」


 この状況下で? 波旬の復讐はいいの?

 疑問は重厚な男の声によって搔き消す搔き消える。斜線に降っていた雨が魔法による風で更に押された形になった。


「――人族に仇なす半魔に告ぐ。我は女神シャラードのご加護を賜れし、悪を討たんとす聖騎士である」


 声の響きは市街全体にあった。大仰な台詞だと思っていると、ベラニーの握力が増す。


「やはり奴等か……っ」


 骨が軋み、痛みが発生する。私がそうと訴えても、もう一人の半魔の彼女が声をかけても言葉は届いていない。

 私は無理矢理に手を振り解く。そこでようやく睨むという反応を見せるが、それは私がする方だろう。


「私に対して辛辣すぎない? これでも催涙の件を根に持ってるんだよ?」

「ふん」


 詰問しようとするが、再度聖騎士による声と重なる。タイミングが悪いせいで、ベラニーに「煩い」と言われる始末だった。


「我等は昨夜、半魔の一人を捕らえた。解放して欲しくば、広場にて待つ。見殺しにするか、その命を持って救いにくるか、選ぶがいい!」


 話は以上だった。ベラニーが歯軋りしているあたり必要ないだろうが、「この話は本当?」と尋ねる。


「……ああ。一人、確認が取れていなかった」

「聖騎士の話の前から行き先は広場に向かっているあたり、予想はしていたんだよね。もしかして試してやるって意味、私と聖騎士を争わせようとしてた?」

「そうだ。私らの話を訊きたいのだろう?」

「……力を貸せるよ。でもね、あそこには賢者がいる」

「それがどうした。見捨てるという選択肢は元よりない。半魔は人族とは違う」


 強固な意志は揺らぎようがなかった。私はもう一人の半魔に視線を移す。


「見え透いた罠であっても、どんな者がいようとも、同胞が生きている限り助けに行かなくてはなりません。掟、ですから」

「……そう」


 無謀も自惚れもなく、全てを分かった上で助けに行くという。

 私は静かに考え込む。その内にも歩みは進んでおり、広場に行き着く前に足を止めることになった。結界が張られている。通常の十倍以上もあるその巨大さは、かの魔法使いの腕前を表している。


「魔女といっても大したことないのだな」


 ずっとだんまりを続けていたことで、ベラニーは私を見限る。光輝を発していた結界は、抜剣した彼女の振武によって破片となって宙に消えた。


 人一人分の空けた結界の先へ。ベラニーの背は遠ざかり、結界はみるみる内に修復されていく。


 残るは私とリューク、同族の半魔の女性である。


「クレディアさん。貴方は半魔の希望です。どうか、どうしようもない私達に救いをもたらしてください」


 切に乞う彼女の姿は真摯であった。言葉には偽りがない。


「私どもが差し出せるものは少ないでしょう。価値のある品もなく、代わりとなり得るこの身も、報いとなるほど奉じ続けることもできません。奴隷とされ、人族に虐げられた過去があるからとはいえ、ただ御心に縋る。そんな卑怯者を、どうか、どうか……っ」


「いいよ」


 答えは簡潔に。言を信じられないのか、呆然としている彼女を魔法構築の片手間に「助けに行かないとは言ってなかったでしょう」と語る。


「色々考えていただけだよ。賢者とは真っ向から戦いたくない。リューク、通信を繋げて」


 魔法紙を渡すと直ぐに起動してくれて『やっと繋がりました……』とロイが出る。

 結界が通信を妨害していたのだろう。今はベラニーが空けた穴が微かに残っているため通信ができていた。


「事情は大体は把握してる。端的に言うけど、捕らえられた半魔を救うよ。今、結界内に一人半魔が行ったんだけど止めれる?」

『お前馬鹿か。無茶だろ』

「罵倒は後で甘んじて受けるから。お願い」


 横入りしてきたハルノートは通信される程大きな溜め息をし、『もう遅い』と言った。


『聖騎士と対峙してやがる。今は絶賛口論中だな』

「私が行くまでに命の危機に陥ったら、助けて欲しい」

『承りました』


 通信の終了と同時に魔法の構築も終える。

 半魔の彼女は顔を引き攣らせた。


「なんて膨大な……」


 結界の上空に数百に渡る氷塊を造っていた。徘徊していた魔物が慌てふためているのに構わず魔法を発動させると、鋭利さを持つそれは重力も加わって存分の破壊力を見せる。


「邪魔な結界は壊すに限るね」


 魔に属するものに限り侵入を弾む仕組みの結界だ。そして外からの攻撃に弱い代わりに内からの攻撃には強くなっている。

 修復機能もある当たり、誘き寄せたベラニーのような半魔を逃さぬ檻として仕立てたのだろう。


 修復できないぐらいに破壊しつくして、魔力回復薬を飲み下す。その脇目で半魔の彼女を、その色を見遣る。

 結界と共に粉々になった氷は結界の光輝を反射しながら雨に混ざって氷雨となっている。そのお陰で認識しやすかった。


「色が薄いんだね」


 私の紫紺と異なり薄紫色だ。たしかベラニーもそうだった。

 彼女は憂いのある風情で「魔族の血が薄まっているので」と口にした。

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