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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
波旬の復讐

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白昼堂々の侵入

「絶対に許さない!」

「うううー!」


 憤慨する私達に対し、朝の定時の報告で会合していたアイゼントとチェイニーは苦笑する。痛み等は既になくなっているが、憤懣は継続中である。

 この恨み、絶対に晴らす。実力には結構自信を持っているが、ここ最近ヴィオナとの件もある。ハルノートには思いっきり笑われたことだし、汚名返上しなければ気が済まない。


「じゃあ、半魔に処罰でも下すのか?」

「いや?」


 即答した私にアイゼントはひょんな表情をする。


「どうしたの?」

「意地悪な質問だと思ったが、そうではなかったようだからな」

「えぇ?」

「いや、惑うと思ったんだ。どう処遇するのか、その様子では決まったのか?」

「……決まってないよ。でもね、最悪の結果にはならなさそうかな」


 魔王様からは一任はされているが、復讐をとめることは望んでいるだろう。そうでないと魔族への風評被害に大きく響く。それゆえに私は半魔を殺してでもとめることを、視野に入れざるを得なかった。

 だが、私は彼等に攻撃はされはしたが殺傷力が低いものである。


「半魔は判別がついている。やみくもに復讐を行なっていないなら、話し合いで解決できる可能性がある」

「クレアは拒絶されたわよね?」

「そうだよ。でも、希望は捨てたくないから。事情があって復讐を行っていると信じていたいし、救われて欲しいと思う」

「被害者がまた三人増えたことにはどう考えるんだ。甘い考えで行動していたら被害者は増え、半魔は罪を重ねる一方だぞ」

「手は抜かないよ」


 聖騎士も、衛兵も、武芸者も成果が出ていないことから意気込んで半魔を捕えようとするが、私はその上をいく。


「今夜、決着をつけるよ。皆もそのつもりで動いてもらう」


 *



 今夜のため、懸念材料は取り除くに限る。ずるずると後回しにしていた官邸に侵入する。

 この場合、一人の方が動きやすいとリュークはズソウさんの厚意により預かってもらうことになった。ハルノート達だと聖騎士に目を付けられているし、アイゼント達だとリュークは目立ち且ついつ終わるともしれないので合流に難がある。


 官邸の門前には今日も大勢の住民が押し掛けていた。幾重にも重なる怒声は説明を求めたりただ罵声であったりする。

 対する衛兵は塀の側を一定の距離を空けて立哨し、門前は多人数を配置している。


「さあ、頑張ろう」


 闇魔法で姿も他の魔法も隠微とし、堀を越える。片足で踏み切り、ふわりと風が私を押し上げる。

 

「雨が降るかな」


 暗雲が空を覆いつくし、曇り特有のどんよりとした雰囲気がある。空合いを見る余裕を持ちながら敷地内に着地し、官邸へと詰め寄る。侵入口となり得る窓は閉めきっていた。少し考え、影を実体化させて操り解錠する。

 侵入した先は応接室だった。誰もいないことは確認済みだったが、再度繰り返す。扉越しに聴こえた足音が過ぎ去った後、慎重に廊下へ出る。


 全部の部屋を尋ね回る訳にはいかない。まずは人がいない部屋を訪ね、書類を漁る。

 白昼堂々の侵入なので、重要な書類は官僚の手の元なのだろう。波旬の復讐に関するものは、過去の半魔の対応策が見つかっただけだった。


 今回の対応策と半魔の要求が述べられた書状が見たいからには、執務室に突入するしかないか。

 一階を概観したが、主に下僚の仕事場であった。なるべく人との接触は控えたいので、先程の侵入口に戻り階上から同様の手段で侵入する。


 数少ないもののいる巡邏を避けながら、無人の部屋を確認。やはり欲しい書類は見つからない。

 途中微かに開いている扉を発見し、人の息遣いに心臓の鼓動を速めながらも室内を窺う。期待したが、どうやら仮眠室のようだった。四人が寝息を立て、ぐっすりと熟睡中である。


 昼には外に住民が、夜には半魔がいるのでずっと緊迫状態あり自宅に帰ることもできず缶詰め状態なのだろう。

 貴方達も大変だなあ、と人事に思いながらそっとその場を後にする。そして、とある部屋に速足で入っていった者を見かけた。


 暗い表情が多いこの官邸内で、明るかった表情が気に掛かる。話し声が聞こえてきたので、扉の細い隙間に風を通して明瞭な声を拾う。


「――それは本当か!?」

「はい! たった今伝令が届き、そうであると……っ」


 両者ともに興奮した口振りで、少々早口で物を言う。肝心な内容だけ聴き取れなかったことに眉を曇らせながら、再度口にするのを待つ。


「ああ、今回はどうなるかと思ったが、かの御仁が来てくださったなら安心であるな」

「ええ、ええ。この地に集く半魔どもを見事駆逐してくださるでしょう!」

「ならば早速出迎えを、と言いたいところだが、この有り様だからな。申し訳ないが、賢者様にはご足労願おうか」


 ようやく出た言を聴いた瞬間、私は朦朧の魔法と睡眠の魔法を続けて発動する。

 二人の官僚の意識が深いところにあるのを目視次第、時間がないと書類を次々に見ていく。偶然にも欲しているものは全てこの部屋の中にあった。


 半魔の書状は裏付けがとれ、対応策はこの後に変更される可能性が大だが記憶に刻み付ける。他にもこれまでの波旬の復讐についての纏め、官僚が政治を担う前にいた五百年前の領主は大罪人として処刑されたなどと記された書類にざっと目を通す。


「このタイミングで賢者が来るなんて……」


 予想はしていなかった訳ではないが、半魔争奪戦が過激になることに憂慮する。


 グローサー・ライザッツという名の賢者は、ウォーデン王国に帰属する。怜悧と名高い彼は、為政者や学者、魔法使いと様々に富んだ形で王国に貢献してきた。

 魔国からすればとても厄介な人物で、私は恨みつらみを幾度となく耳にしてきた。


 聖戦時にはなんと大隊を全滅させるなど、賢者の存在によって戦場をひっくり返されたことが多々あるらしい。又、一属性が基本なところを火・水・風・土と四大元素全てに適性がある。私も三属性持ちだが、そんなことがあり得るのかと疑ってしまう才能の大きさだ。


 老爺と年を重ねていることから魔法の熟練度も高く、古代魔法である空間魔法を使えるという。ウォーデン王国は魔法の鞄を褒賞とする程なので、その熟練度は最低でも魔法の鞄の作成はできるはずだ。

 どこまでウォーデン王国が空間魔法を伝承しているかは知らないが、この大陸では最高位の魔法使いと評される実力者である。直接対決は避けたい。


 私は今度は官僚に覚醒の魔法と朦朧の魔法を発動する。手間がかかるが、私の侵入を秘する以上致し方ない。

 官僚は多少の疑問を抱くに留まり、話を再開させる。私はそんな彼等を尻目に、官邸を後にした。

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