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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
波旬の復讐

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友人のお貴族様

 ミーアさんを囮に、私を捕まえる戦法だったらしい。やはり波旬の復讐にて、私がこの地へ来ることを予想していた。


 ミーアさんとネオサスさんと共に母との友人で、手紙で遣り取りを行う程である。反対に手紙を出さないでいる私と手紙ばかりで会えないでいる母で、心配が募っていた。

 だから騎士の休みをもらい、人国にいる私だけでも、とセスティームの町の皆を代表し様子を見に行くことになった。それを聞きつけ、便乗したのがアイゼント様とチェイニー様というのが事の顛末である。



「遊覧だ」

「冗談だよね?」


 敬語を取っ払られた言で突っ込む。「何しに来たの?」でこの返答は酷い。


「ジョークだ」


 貴族ジョークやだ。

 護衛から憐れみの視線を貰いながら、食事処の茶で乾く喉を潤す。ちなみに喫茶店はこの情勢下ではどこも開いていなかった。


「だが、その名目でこの地までは来た。私はともかく、チェイニーがな」

「帰省するより、よっぽど有意義な時間の過ごし方よね」

「そういえばアイゼントは魔法学園に通ってるんだよね。ええと、なんだったっけ……」

「ソレノシア学園だ」

「そう、それ。もしかしてチェイニーも?」

「ええ。天才魔法使いとして当然よね」

「うん。昔から凄かったし、今はもっと上手くなってるんだろうね」

「……魔女と名高い貴方に言われると釈然としないわね」

「あ、その話は止めて。せっかく考えないようにしていたのに……」


 なんだか頭痛までしてきた。魔女なんて知らない。嫌なことは速く忘れよう、私。


「魔女が半魔だと知れているのだから、この地では無理だろうに」

「……そういえば、私が半魔であることに何も思わないの?」

「「別に?」」

「本当?」

「クレアの人柄は先に知っていたからなあ」

「人族は襲わないで救うまでしておいて、そんなこと思わないわよ」


 チェイニーとは魔物討伐戦で出会った。確かに噂通りな半魔であったら、人を脅かす魔物討伐に参加はしない、か。


「なにより、今こうして対話できていることが害がない証左じゃない」


 その言は私より、護衛に向けて発したのだろう。敵意とはいかないものの、懐疑は抱いていたようだし。まあ、それが護衛の役割であるのだが。


「そっか」


 受け入れられたことに安堵する。ミーアさんの暖かい視線が良かったね、と物語っていた。

 照れ臭さを誤魔化しつつ、話を戻す。


「それで、遊覧じゃなかったら何をしに?」

「それは言わなくては分からないことかしら?」

「……ご心配おかけしました」

「ふん。分かってるならいいのよ」

「手紙を送れど返信はおろか、行方も知れずの状態に、お嬢様は涙を溢す有り様でした。こうして再び出会えたことに、お嬢様の心の内はどれほど高揚していることか……」

「あんたは黙ってなさい!」


 思いっきり足蹴にされ、呻きながらも恍惚としている。相変わらずの主従であった。


「チェイニーも手紙を書いてくれたの?」

「え? ええ。何よ、いけなかった?」

「ううん。嬉しい。ありがとうね」

「ふ、ふん。そう、なら喜んで受け取りなさい」


 え、今?

 机に積まれた手紙は山のようだった。友愛が重い。

 取り敢えず鞄に全て仕舞っておく。明らかに鞄に収まりきらない量なのに、と目を疑う護衛には苦笑いしておく。興味深そうにするアイゼントにもだ。


「じゃあ次は――」

「うん? 私には来た理由は訊かないのか?」

「恩を取り立てに、だよね」

「君は私をなんだと思っているんだ。顔を見るためにも来ている」


 やれやれ、といった風情で言われてもなあ。これだからアイゼントには訊きたくなかったのだ。


「私、今恩を返すような時間はないよ」

「事情は大体知っている。気長に待つさ」

「こうして催促しに来てる癖に」

「ははっ。釘を刺すぐらいいいだろ」

「……リュークぅ」

「う?」


 泣きつこうとしたが、口回りを気にせずパイ料理を食していたのを見て布巾で拭っておく。これで冷静になる私だった。


「でも二人がこんなに仲いいなんてね」


 ソレノシア学園を共に通い、おそらく同年齢でもないだろう。確かアイゼントが一つ上ではなかったか。


「私、飛び級しているから同学年なのよ」

「それに婚約者だからな」


 …………?


「こんやくしゃ?」

「以外か? だが母国を同じくする貴族であるし、爵位の差はあれどオントルキン家は男爵から子爵に叙爵されたからな」

「ブレンドゥヘヴン討伐の功績よ。冒険者ギルドの助力はあらど手柄は手柄だし、成果として頭部を献上しているもの。まあ、お父様が根回しに長けているのも影響してるけど」

「ちょ、ちょっと待って! 一旦整理させて!」


 あまりの予想外さに脳が受け入れられなかった。説明を咀嚼しきって事実を把握しても、呆然となる。


「婚約者、なんだね」

「仲が良いだけで殿方とこんな辺地まで来ないわよ」

「貴族の常識で図られても……。じゃあ二人はその、好きあってるの?」


 二人は口を押さえるも、声を漏らして大いに笑った。


「ふ、ふふふ。そうね、貴方にとっては恋慕を持っているかどうかが一番重要なのね」

「ねえ、馬鹿にしてる?」

「いいや、していないとも。ただ、貴族には政略結婚が付きものだ。結婚時に初めて顔を合わすという話もあるぐらいでね。まあ、こうして共に過ごすぐらいには心は通わせてはいる」


 アイゼントはチェイニーの手を持ち上げ、甲に口付けする。

 熱愛だ! そう思ったのは私だけであるらしく、「私、軽々しいのは好きじゃないわ」と手を払われていた。


「それは残念」

「言うならそれらしい表情をして欲しいものだわ」


 仲は良さそうである。

 なんとも言えないでいると「クレアはどうだ?」と好奇心に満ちた瞳で迫られる。


「何が?」

「好い人はいないのか?」

「ううん。まずそれどころじゃないし」


 恋愛をする余裕がない。なぜか「気になる人もいないのか?」とぐいぐいこられるが否定する。


「ならば、紹介したい者がいるんだが」

「そうやって公爵家に取り入れようとする魂胆は見えてますよ」

「これに関しては違うとも。ただのお節介だからな」

「ふうん?」

「興味出たか?」

「アイゼントがそこまで熱心に言うからね。でもそれだけだよ」

「会うだけでも会って欲しい。これはただの頼みになるがな」

「クレア、ここにいたのか」

「ハルノート?」


 先程見かけた後、気にかけて追いかけてくれたのか。

 ハルノートは私の手を高く持ち上げる。私は疑問を持ちつつ、立たざる得なくなった。その様をロイが呆れつつ見ていた。


「無事か?」

「うん。知り合いだしね」

「まだ話の途中だったのだが? ハルノート」

「クレアには必要ねえ話だ」

「そんなもの、本人に訊かずに分かるものか」


 もしかして二人とも知り合い?

 ハルノートが過去にセスティームの町に行ったと聞いたことがあるが、その縁だろうか。なんにせよ「相手はお貴族様なんだから」とハルノートを取りなす。


「知ってる。だが俺には関係ねえ」


 それはどういう根拠でだ。

 尋ねたいが、その前にアイゼントが寛容に彼の言動を許容したことで打ち切られる。


「ほらな」

「そこまで剛胆な奴はお前が初めてだ」


 ほんと、その通りだと思う。

 ハルノートを含め席を勧められ、ロイが私の背後に控える。その際に「久しぶりね」「誰だ?」のやり取りに肝を冷やすことになった。


「それにしても随分と時間がかかったな」

「聖騎士の奴等が絡んできたからな。お前のことで目を付けられてたみてえだ」

「えっ」

「魔道具まで使ってくる徹底ぶりだったぞ」


 真偽の魔道具で、私の居場所を知っているかどうか調べられたらしい。私も過去に冒険者登録の際、重罪を犯したかどうかで使ったことがあるものだ。


「大丈夫だったの?」

「不名誉だと断ってやろうと思ったがな、まあなんとかなった」


 肯定か否定で答えなければならない、魔道具の限定的な性質が攻を制したらしい。


「この地にいることは知られたが、相手は元々予想してたみてえだから別にいいだろ」

「そうだね」


 バレなければいいだけだ。ミーアさん達には母の情報提供により容易にバレただけだ。

 男装している容姿は元の私を基にしているが、指名手配の似顔絵は似ていないし支障はない。顔馴染みが見て、ギリギリ私かもしれないと疑うぐらいである。


「ただ接触するときに注意はより必要になるが」


 尾行され、そのままにしているという。魔力探知では、店の外に二人不自然に立っている。住民にしては多い魔力量であるから、おそらくそうだ。


 この食事処は個室を取っている。且つ、ここでも隠微の魔法で私とリュークの存在を認知されぬようにしてある。

 頼んだ注文が毎回別の者の前に置かれ、こちらで配置する工程を必要とした効能だ。そのときのリュークの悲しみと喜びの落差は見てて面白かった。


「懸賞金稼ぎもそうだけど、聖騎士も厄介だね」


 レセムル聖国の保有する聖騎士団が、この地に派遣している。今回は私のせいで従来より半魔討伐に戦力を投下していた。



 波旬の復讐によりこの地は猛者が集まっている。私はその誰よりも疾く同族と接触しなければならない。

 難易度は高い。だが、やるしかない。


 人生三度目の復讐の出会い。一度目は私、二度目はソダリ、三度目は半魔。

 縁のある復讐に、私はどのように携わることになるだろうか。


 身に及ぶ危険性について、思考を巡らせる。

 魔女である以外にも、半魔というより魔族の血を受け継ぐ者としての危険が私に及んでいた。

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