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半魔はしがらみから解放されたい  作者: 嘆き雀
勇者一行

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246/333

昇華

後半に聖女視点有り

「事の大きさを分かってんだろうな?」


 ハルノートとロイ、キシシェさんが私を取り囲んでいた。追咎する場に居た堪れなく、逃げ場を求めて視線を逸らす。


「うん……」

「だろうなあ。町外れとはいえ戦闘を押っ始め、挙げ句に相手が勇者一行だ。どれだけ危険だったのか、分からないはずねえもんな。ガキでも分かる」

「そ、そうだね! いひゃい!? なんでつねってくるの!?」

「なんつーか嗜虐心がそそられた」

「主から手を離してください」

「ロイ……!」

「主はもっと反省してください。後悔していないですよね?」


 救世主だと思ったが違った。広げ仰いだ腕を引っ込めしゅんとする。


「だって」

「クレア、本当に危ないものだった。勇者達三人だけでなく、暗部の奴等もいた。気付かなかった訳ではないだろう」

「それでも、私は許せませんでした」

「……譲れない想いがあるのは理解した。まあ見方を変えれば、只管に言葉を交わす羽目にならずに済んでよかっただろう。聖女は言葉巧みだからな。人目のない場所に移し、話をしようとなれば不利になっていた」


 国の後ろ楯がある勇者一行に、ただの冒険者では分が悪すぎる。相手が先にリュークに手を出したと言っても、非があるのは私になってしまう。

 だから町中で事が起きたのは、まだ私にとって幸いだった。騒ぎを大きくすれば証言者が自然と集まってくれる。揉み消せれない程の人数が来てくれれば、有利になるのは私だ。例えそれでも罪を問われても、よからぬ噂となり勇者一行の名が傷つく。


 たが、危なかったことには変わりはない。時間稼ぎするとしても、暗部と始原の精霊が加わる戦闘程は困難すぎる。魔法使いには前衛が必要だ。リュークに関しても同様で、無詠唱でも時間はかかる。


「ごめんなさい」


 素直に謝る。仕方ないなあ、と粛とした空気が緩んだ。


「取り敢えず、クレアはこれ以上勇者に関わることになる前に今日にもこの町を離れた方がいい。緊急時用に夜禽は一羽預けておく。連絡があるまでは思潮調査に励め」

「はい」

「最初から働き詰めだったからな。またいつ忙しくなるかは不明だ。この機会に仲間との時間を大切にしておいた方がいい」


 キシシェさんは部屋から退出する。ふうと息を吐き、荷物を纏めようとするの、ハルノートとロイがいい笑顔で「何してんだ」と止めた。


「え、見ての通りだけど」

「話するんだろ?」

「約束しましたよね?」

「でも町を出ていかないと。キシシェさんに言われたし、添島くん達が謝罪とかで訪ねられてきたら困るでしょう?」

「来たら適当に追い返せばいいだろ。今回は俺とロイがいんだ、なんとかなる。町から出んのは今日名かでありゃいいんだ。荷物纏めんのも、適当に魔法の鞄に突っ込めばいいだけだろ」

「なにより今を伸ばすと、話してくれるのがずるずると伸ばされる気がしますし」

「うっ」


 否定できない。

 聴く準備万全の二人に私は掻き集めた覚悟を決める。先程ちょっとしか怒られることはなかったリュークが応援付けるため、ちょこんと膝の上に乗る。



「どうしようもない私の話だけど」


 語り始めてしまえば吹っ切れてしまったのか、どうせなら最後までと聴いて欲しいと思った。そして、二人はそんな私の望むとおり、口を挟むことなく静かに耳を傾けてくれる。


 どのように話すかは事前に考えていたから、その点は困ることはなかった。ただ吃ってしまったり、声に震えが生じる。なにせ前世があるだなんて普通じゃない。普通じゃないことは、気味悪さへと繋がる。


「――これで終わり。だからね、今色んな人に迷惑をかけることになってる。二人にもそう。きっとこの先も、私が半魔であることも迷惑をかけ続けることになる」


 ずっと伏せていた目をそろそろと上げる。二人の真摯な視線に羞恥の念に駆られる。話している間、ずっと見ていたのかな。

 再び目を伏せた私は、ハルノートが息を吸う様を敏感に感じた。何を言われるだろうかと拒絶されるのを恐れる。

 ハルノートは一言告げた。


「頑張ったな」


 それは深々と心に染み渡る。なぜかって、私が求めていたものだったからだ。

 ロイも彼に続く。


「私、嬉しいです。これで私は受けた御恩に報いることができます。そう自惚れていいですよね。ずっと一人で頑張り続けた主がやっとこれ程のことを打ち明けてくれて、私を認めてくれた、と」


 私はロイを抱き締める。慌てているが知らない。二人が悪いのだ。私を頑張ったと評してくれる。ただ臆して秘めていただけなのに。


「私、辛かったの。本当は誰かにも受け入れて欲しかった。認めて欲しかった」


 視界がぼやけ、ものの輪郭が見えなくなる。

 母でもくれなかった言葉だった。今までずっと味わってきた苦しさが昇華される。意味あるものに変わる。


 前世のことは拒絶されるの嫌だからこれまで言えなかった。だが、相反して言って受け入れて欲しくもあった。前者の気持ちが大きかったから現状になり、その経た辛い過程までもが受け入れて欲しい、と我が儘になっていたのだ。


 なんで打ち明けてくれなかったの、じゃなくて、辛かったね、よく頑張ったよって言われたかった。


 しゃくり上げる私に、ロイは優しく撫でてあやす。目頭が熱くなり、羞恥なんて忘れて咽び泣く。

 子どもの頃に戻ったようだった。ロイの方が大人になっていて、私はちょっと安心して腕の力を抜く。その後に私の手にちょんと触れる何かがあった。


 目で窺ってみれば、ハルノートだったのが分かる。せめて何か反応してよ。目が合うと硬直しているものだから、幻滅でも何でもしろというハイな状態の私は不満を持ち、伸ばされたままの手の袖をぎゅっと掴んだ。

 彼は一歩足を進め、涙で私の頬に張り付く髪を耳にかける。口元にほんの少しの弧を描いていたから、つられて私もニコリとする。



 こうして前世の因縁は仲間により、完全に区切りがついた。だが宿命のしがらみは、私の意思と反して絡み付いて離れない。


 *



『僕は勘違いしていたんだ。紫木さんはこの世界で生きている。クレディアとして生きているんだ』


 真希様はクレディアとしての彼女から納得のいく答えを得たらしい。彼自身が勇者として立つと毅然と決意した。前向きになれたことは喜ばしいが、彼の決意は意味あるものになるだろうか。

 クレディアを捕らえ、その後どう扱うのかは知らされていない。聖女の地位にいても、私はただ命令を実行する駒である。やはり勇者なのだろうか、はたまた一行の仲間となるのだろうか。


 現在は魔法使いが欠如している。元々はユレイナが務めていたが、精霊魔法とはいえ水魔法は私の神聖魔法にて担える。実際は攻撃魔法にまでリソースを分けることはできず、なにより神聖魔法が水魔法の融合したものだと、仲間内ならよいが大勢に知られる訳にはいかない。

 だが、二つと同じ属性持ちはいらぬだろう。そも水魔法より火属性などの高火力の属性持ちの方が好ましい。だから性格面によりユレイナを追放する理由ができたのは好都合だった。


 歴代勇者の仲間であった者に助力をと訪れたエルフの里だが、その者はエルフとはいえ老いがあった。能力的には問題はないようだが、旅をするには過酷である。代わりに仲間にと孫が二人候補として上げられ、一名は里にはいないからというのがユレイナとの縁だった。


 過去の仲間に思いを馳せる。勇者一行の選定基準は能力は勿論、見目よさも必要とされる。理由は言わずもがなだろう。

 その点、ユレイナは文句はなかった。ただ人族でなく、エルフなことがシャラード神教の教義から非難は上がったが。勇者一行にエルフというのは前例があったので許容はされたが、基本人族以外の種族は仲間に加えられない。


 クレディアは紫木静奈であっても容姿は整っているらしく、全ての選定基準を満たしている。

 反抗的であろうが如何様にするのか。隷属するとしても魔力量的に抵抗力が高く、不都合だろう。上は人質を取る必要はないというので疑問は大きくなるが、やはり駒である私には考えなくていい。しても意味がない。ただ言われたことに集中すればいいのだ。


「連れて参りました」


 ゴズは怯える一人の少年――ノエを私の全面に立たせる。

 クレディア達はこの町を今日にも出発するようで、現在進行中で町の門に向かっている。昼間の邂逅にて予定変更になるのは予想しており、最後の準備を仕上げる。


「じっとしてくださいね」


 ノエは身を震わせながらも大人しくする。これから行う癒しは自身の楽になるものだと知っているからだ。

 体中の至るところにある痣が消えていく。主な原因は今は外された枷もそうだが、ノエ自身がつけたものだ。枷は狂うノエのためになされていた。


「今回は殺してはなりません。必ず生かすのです。分かりましたか?」


 ノエは虚ろな瞳で私を映す。多少は鎮静作用のある治癒により、話は理解できたようだ。

 ゴズが少年に例の欠片を差し出す。雑色であるそれに、再び怯えに囚われるも受け取った。ぶつぶつと何事かを呟いてから口に含む。その直前、歪ながらにも口角が上がっていた。


 ガリ、ゴリと咀嚼音が鳴る。ノエはいくつものそれを服す。限界数まで喉に通したときには、暴虐を体現した少年は満面の笑みを浮かべていた。

【シリアスからのおまけ】

各々の胸中(過度ぎみ)


クレア『ぎゅー』(精神年齢低下中にて母譲りの抱き締め癖発揮)

ロイ『主かわいい! すごいレア! 一日中こうしてたいなあ。ハルノートはどっかいって邪魔。ちょっとぎゅっとされたぐらいで調子のってないで。私の主だぞ』

ハルノート『(ロイだけ抱き締められている状況が気に入らず、つい手に触ってしまってクレアにぎゅーされる)やばいやばい口元にやける。あ、笑った、すげえかわいいじゃねーかよ。てかロイお前は邪魔だ。女だからって抱き締められやがって羨ましい代われ。つか理性飛んじまってるな。酒飲んだ以来か、あー頬もっかい触りてえ。てか――etc』

リューク『僕も仲間に入れてー』(ぎゅーに参加したい楽しそう!)


主人公以外も頭どうかしすぎな件

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